第38話 閃光王子 四
フェルト国の議長アランは、アルベルトの執務室でコーヒーを飲みながらアルベルトと北大陸のこの先について話していた。
「昨日ヴェイン公と電話で話したんだ」
アルベルトは窓から外を眺めた。
「私達は共にこの世界の多くの悪と戦い、ようやく世界の平和を手にする事ができた」
「君の魔法のおかげだよ」
「ありがとう。そして倒すべき悪がいなくなった今、私の世界の王としての役目は終わったと思う。もちろん国内の治安のために戦うのは構わない。でも警察もいるし、私の息子の魔法は戦闘用じゃない。これからは民の皆でこの国を良くして行って欲しいと思っていた」
「石油が見つかるまではね」
アルベルトは頷き、机の上の書類を指差した。
「石油は蒸気機関をフォローする使い方だけでも相当なパワーを出せるし発電にも使える事が分かっている。これからの時代には無くてはならない物になるだろう。もし争奪戦が起きた場合、大きな戦争になるかもしれない」
「もしそうなったら……いや」
アランは指を組んで背もたれに体重を預けた。
「間違いなくそうなる。その時に君がいなかったらこの大陸は……他国との戦い、それに奪いに来た国同士の戦争にも巻き込まれる。あちこちで戦火が上がれば荒廃し、この国がどうなるかはまったく分からなくなる」
「その上技術面でも他国に大きく遅れを取る事になる。この国にとって取り返しのつかない失敗になるかもしれない」
「やれやれ」
アランはコーヒーを一口飲んだ。
「いつも君の前には試練が訪れるな」
アルベルトは微笑んだ。
「今は君のだろ。これからもできるだけ君の助けになるつもりだよ」
「助かる。ただし下手に首を突っ込むと世界中の反発を招く可能性がある。十分身辺には気を付けるんだぞ」
「ありがとう」
アランは立ち上がるとジャケットを羽織った。
「レオンはどうしてる?」
「相変わらずだよ。平和を謳歌してる」
「彼の周りにも誰か付けた方がいい」
「そうだな。レオンはいつの間にか色んな所に顔を突っ込むからな。この街の皆には好かれているみたいだけど」
「若い頃の君みたいだな」
「まだ私も若いんだがね」
「だーかーらー! そんなに嫌ならお互い店を変えて会わなきゃいいでしょーが!」
「ワシは十年この店に通っとる! 変える気なぞ無い!」
「ハッ!ワシだって十三年通っとるわ!お前が出て行けば済むんじゃ!」
レオンは酒場で老人二人組の口論に口を突っ込んでいた。
「毎回そこであーだこーだ喧嘩されたら店も迷惑だっつーの! いい加減いい年こいてガキみたいな事言わないでくれよ!」
「迷惑なものか! ワシはきちんと金を払っておる!」
「ワシもじゃ!」
「俺だって払ってるわ! お互い違う店に行って楽しく飲んで帰ればいいじゃんか! 何で意地張ってんの? 意味わかんねーんだけど! その意地いくらになんの!?」
「お前が出て行けばいいんじゃ!」
「いいやお前じゃ!」
「どっちもだよ! あんたら自分を中心に世界が回ってると思ってんのか? どっちかというと父上を中心に回ってたんだぞこの世界は!」
「何だそれ。世界って回ってんのか?」
「そうだよ。知ってた?グルグル回ってんだってよこの世界。俺等は気付かないだけで実は一緒に回ってるらしいよ」
老人二人はレオンの話に食い付いてきた。
「何言っとる。今この酒瓶もワシも動いとらんぞ。お前も……お前は少し酔いで動いとるな」
「やかましいわい」
「走ってる列車の中と一緒だよ。全部一緒に回ってるから外見ると動いてるけど、中の物はまるで動いてないように見える訳」
「ほー」
「それによ、太陽の周りも一年かけてグルーッと周ってんだよ」
「そうなのか?ちと座れお前、ちゃんと説明しろ。ほれこれ飲め」
「ありがと。自転と公転って言ってさ……」
「ほー」
急に三人が打ち解け始めたのを見てメイは隣のテーブルで呆れながら麦茶を飲んだ。
「なんでモメてた奴等と一緒になって飲み出すんだよあいつは。一番意味分かんねー」
「そうだねえ」
隣のキャスケット帽をかぶった金髪の男が酒の瓶を覗いた。
「でもああやってどんどん仲間が増えてっちまうんだから変わってるよな、王家の人間てのはさ」
「あいつだけでしょ。アルベルト様はあんな感じじゃないもの」
「マジ? 会ったことあんの?」
「あるよ、私が小さい時だけどお父様に連れられて。精悍な感じでかっこよかった」
「へー。すげーな。お前の親父偉い人なの?」
「まあね。でも息苦しくて家出しちゃった」
「ふーん。親父さんも気の毒にねえ」
「でも家出した時すぐにアルベルト様にレオンと引き合わせるように上手くやられたみたい」
「へえ。大人ってのは怖いねえ。政略結婚てやつかな」
「けけけけ結婚!? まっまだ早いよ!」
「何うろたえてんだか。今日は飲まないの?」
「運転だから麦茶」
「あ、そ」
ブルズカンパニーの会議室では今、系列の企業の重鎮達が油田を確保するため部隊を組織し、西の大森林跡に三百人の兵士を派遣する事を決めた所だった。
「それでは……我が社の輝かしい未来に向けて乾杯」
「乾杯」
一同がグラスをあおった。社長はひとしきり部下に声をかけた後部屋を出て、照明を落とした廊下にいる二人の男に声をかけた。
「それではそちらの方も頼みましたよ」
「ああ」
男達が立ち去る靴の音が静かに響いた。
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