第36話 閃光王子 二
メイ・ヴェインはキャスケット帽にかけたゴーグルを下ろして歯車をキリキリと回し、最近できたデパートの屋上から街と遠くの風景を交互に眺めていた。飛行船や蒸気機関車が通り過ぎる様が見える。
急速に発展したビルギッタは、石と煉瓦の街から鉄の街へと姿を変え、街中がまるで黒と錆色の板金をあちこちボルトで貼り付けたように見えた。ビルギッタから少し外に出ると街の外はまだまだ昔のままの平野や草原が広がっていて、昔ながらの屋根の低い家や店もポツポツと建っているのが見える。
腰に付けていた長方形の機械のランプが点滅を始め、カチカチと鳴り出した。
「ん? レオンか。端末はえーと……あそこか」
メイは機械を手に取ると、ケーブルを引き出しながら屋上角の電波塔に近付いて端末の差込口に挿し、メーターの針がピンと動いて周波数が合ったのを待ってから通話ボタンを押した。
「もしもし」
「レオンだけど。どこにいる?」
「サンマルの屋上」
「ああ、あそこね」
「今日もよく見えるよ。ヘルデやノービスも見える」
「そうかそうか。じゃあ王宮前の騒ぎも見えるよな?」
メイが王宮の方に目をやると、デモ隊が門の前に詰め寄って何やら騒いでいる。
「あー見えるわ。何やってんのあれ?」
「この前石油のニュースあっただろ? あれ以来あの騒ぎでさー。確保しに行け、国有化しろいや民営化しろって毎日騒いでてさ。困ったもんだよ、会議場でやれっての」
「はーん、大変ですね」
王宮は現在王ではなく議会と政府が政治を行う場所となっている。
「でさ、父上達は王宮にいるんだけど俺はさっきまでバーにいたから入れなくなっちゃったんだよ。今日そっち泊まるから迎え来て。ね?」
「俺んちだって言って帰ればいいじゃん堂々と。民衆を掻き分けてさ」
「やだよ。この前民主化する時ももめてたけど、あん時なんかもみくちゃにされた挙げ句王権派の姉ちゃんにビンタされたんだよ? なんで俺の味方が俺を殴るんだよ、意味分かんねえ」
「あははは! あの時のあんたの顔! もう一回見たいなあ」
「勘弁してくれよ。クロガネのドムおじさんの部屋にいるから。頼んだぜ」
「泊めてもらえばいいじゃん」
「いやあそこうるさくて寝られないんだよ」
「分かったよ、じゃね」
メイは電話を切り、ケーブルをシュルシュルと収めると、王宮の騒ぎをひとしきり眺めて思い出し笑いを浮かべた。
子供を遊具で遊ばせている親子やベンチに座ってのんびりしている老夫婦などを尻目に、狙撃銃の入ったハードケースを持つとメイは屋上を出た。エレベーターに乗り、ガタンガタンと音を立てながらエレベーターが地下の駐車場に着くと、蒸気機関で動く自分の車に乗り込んでエンジンをかけた。様々な計器の針が一斉に動き出し、車の調子を伝えている。
メイは懐中時計を出し、時間を確認してから時計の下に貼ってある写真を見た。レオンとメイが肩を組んで乾杯している写真。メイは愛おしそうに写真のレオンを撫でた。
「さて、愛しの王子様を迎えに行きますかね。レオンも免許取ればいいのに」
メイは懐中時計をしまうとシフトレバーを操作してアクセルを踏み、クロガネ工場に向かって車を静かに発進させた。
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