第32話 大根王子Ⅱ 十七
オリバーがまず一番最初に建物の中に入った。続いてジョージ、ハリー、ジャックの順で入り、四人が小さな事務室に踏み込んだ。椅子に座っていた強盗の二人をオリバーとハリーが射殺した。オリバー達の銃には銃口にサイレンサーと呼ばれる太い筒が付いていて、銃の発射音がそこで相殺される。
二人ずつ左右に分かれそれぞれ角まで制圧し、ハリーとジャックが右の壁に到達すると、コの字に壁を動いてオリバーとジョージの後ろに合流し、パーテーションで仕切られた北東の空間に進み、先程と同じ手順でさらに二人を射殺した。
「クリア」
事務室に他にいない事を確認すると奥の廊下に進み、トイレと給湯室に異常が無いか確認した後、部屋に戻って配電盤を探した。
南西の事務所を制圧した彼等は、敵の大多数はこの建物ではなく、北東の大きな作業エリアがある建物の中にいると予想している。しかしこの建物の中には作業エリアの中に設置された警報器を制御するスイッチがあるため、逃走を阻むためにはまずここを制圧する必要があった。北西にある小さな建物は事前に入手した図面によると倉庫だ。入れるのはせいぜい数人で大した問題にはならない。
オリバー達は事務所の配電盤を操作し、警報器のスイッチを切った。
「警報を切りました」
「よし、次だ」
オリバー達が外に出て来て合流し、ジョンソン達は上方に通っているパイプの陰にも敵がいないか今一度確認した。そして今度は北東の建物の搬入口から全員が潜入を開始した。
工場の作業をしていた場所だけあって元々の機械がごちゃごちゃしているこのエリアは、空間の中心に大きなベルトコンベア状の機械が置かれているせいで全体を見通す事ができない。索敵が難しいという反面、侵入に気付かれにくいという要素もある。
最初に潜入に気付いた敵は、酒を片手に人のシルエットが入口の方からチカチカしていた事に気付いたが、まさか帰って来たその日に警察の戦闘部隊がアジトに突入して来るとは思わず、単純に仲間だと思って手を上げて挨拶したのがその男の最後の瞬間になった。オリバーに撃たれ男は息絶えて酒瓶を落としたが、瓶の割れた音はちょうど建物の中心に置いたジュークボックスを改造した機械から流れている大音量の音楽にかき消されて周囲に聞こえなかった。
空間の左からオリバー達が敵を排除していき、七人目を射殺した時、曲の休符の瞬間に派手に倒れた音が響き、強盗達は警察の襲撃に気付いた。
「て、てめえらいつの間に!」
「撃て撃て! ぶっ殺せ!」
「うおおおお!!」
機械を挟んで左右に分かれたジョンソン達と強盗達の撃ち合いが始まった。激しいロック調の曲を背景に銃口からの光と煙、銃に付いた蒸気機関が動いて煙を吐き出す音が薄暗い工場内に響く。強盗達は興奮して片手に持った機関銃を乱射する者が多く、警察部隊はパッと頭と銃を出してビスッビスッと二発程発射し、無駄撃ちをしないように努めている。強盗が銃を撃つたびにマズルフラッシュが部屋を照らす。捜査員の近くの機械を弾丸がかすめ、キューンという音が聞こえた。
「リロードする! 援護してくれ!」
機械を盾にオリバーがマガジンを装填している間に、ハリーが机の下から銃だけ出して発砲し、敵が詰めて来ないように援護した。装填したオリバーが再び射撃すると強盗が一人倒れ、左奥の空間に敵がいなくなり突破口ができた。
「よし! 左奥から挟むぞ!」
前進したオリバーが突然頭を仰け反らせ、足を滑らせたかのように後ろ向きに転倒した。音楽がうるさくて後から聞こえてくる狙撃銃の音がいつ鳴ったか聞こえなかった。
「オリバー! くそ! ジョンソン、オリバーがやられた!」
無線に向かって叫んだ。
「アメリアだ! 探せ! オリバーの場所が見える所はどこだ!?」
「二階です!」
ジョンソンが二階を見ると、二階にある手すりの角に一つ小部屋がある。ジャックに指示すると、ジャックは壁から半身を出して大砲銃で砲弾を撃ちこんで部屋を破壊した。ジャックの銃の金属管から蒸気が放たれ、レバーを引いたジャックは頭を引っ込めながら叫んだ。
「どうですか!?」
そう言った瞬間に砲撃銃を持ったジャックも狙撃されて力尽きた。
「何!?」
「あそこじゃないぞ! どこなんだ!? あとはあそこの窓くらいしか……!」
ジョンソンが見ると、工場の二階部分にある窓ガラスが割れていた。
アメリアは馴れ合うのが嫌いで、中で男共と騒ぐのを避けて北の丘で一人寝そべっていた。金で繋がっているだけの関係だ。始めはアメリアにちょっかいを出す者もいたが、無事に済む者はいなかったのでそのうち誰もアメリアの事を女として見る者はいなくなった。今ではアメリアの驚異的な狙撃の腕は強盗団には無くてはならない物となった。
丘で一人空を見ていた所、銃声が聞こえてアメリアは工場の中をスコープで覗いた。丘から工場の二階部分にある窓を貫通して、中のオリバー達を狙撃した。アメリアが静かに息を吐く。
引き金を引く度に工場の中の捜査官が倒れる。アメリアはスコープ越しに人が死ぬのを見るのが好きだった。
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