第22話 大根王子Ⅱ 七
「ちょっと待ってくれ! 命だけは助けてくれ! な!?」
エイリクは足を怪我していて、跪いてラウルに命乞いをしていた。
「女達も寺院の中でまだ生きてる! 元々売るつもりだったから殺した奴なんかいねえ! な!? 部下も皆殺られちまったし、女達もちゃんと返すからこれでお互い水に流しましょうや!」
ラウルは自分勝手な理屈を述べるエイリクに顔をしかめた。
「それによ、俺達は先鋒隊なんだ。後から本船がここにわんさか来る。俺を生かしておくだけでもお頭達の心証が良くなるんじゃねえか? 本当におっかねえ奴等なんだ。なんなら俺が交渉に回ってやってもいい」
アルベルトが二人の後方にいたエイリクの部下達を斬殺してラウルのもとにやって来た。
「ラウル! 彼が首領か?」
「ああ」
「あんた! すごく強いんだな! どうだいうちのお頭達の所で……」
アルベルトはエイリクの話も聞かずに斬り伏せた。
「悪党共の話なんて聞いても不愉快なだけだ。奴等は奴等の勝手な理屈を述べるだけで、理解しようなんていうのは時間の無駄だ」
「あ、ああそう……だな。女達は寺院の中に囚われているそうだ。助けよう」
「ええ」
二人は寺院に踏み込んで、部屋に囚われていた女達を解放した。喜びと感謝の声が上がり、ラウルやアルベルトも彼女達の笑顔を見て笑みを浮かべた。
他の村からも海賊からの解放の報せを受けて皆が寺院に詰めかけた。ジョエルやイサベラも寺院に駆けつけた。
「アルベルト!」
「ジョエル!」
「やってくれたな! さすが北大陸の王だぜ!」
「海賊達など僕の敵じゃないさ」
「言うねえ!」
イサベラが涙ぐんだ。
「アルベルトさん……ありがとう……私、なんて感謝したらいいか……」
「気にしなくていいさ」
ジョエルが手をポンと叩いた。
「あ! じゃあイサベラを嫁にもらってやれよ!」
イサベラは顔を赤らめた。
「あ、いや僕は妻がいるので」
「あ、そうなの」
島民達の盛り上がりは最高潮になり、すぐに宴を催す事になった。
アルベルトとラウルは疲れからか、昼間から始まった宴で用意された席で酒を少し飲むとすぐに寝てしまった。皆の喜びに満ち溢れた笑い声や歌声が心地良かった。
アルベルトが目を覚ますともう夕方だった。水を飲んであくびをしながら外に出ると、広場でラウルが一人、腕を組んで海を見ていた。
「起きたか」
「ええ。だいぶ寝ていたようですね」
「無理も無い。夜通し戦っていたからな」
ザアッという波の音がする。
「今回は本当にありがとう。君のおかげで我々は生き延びた」
「気にしないでください。海賊は我が国から見ても取り除いておきたい脅威です」
「しかし……奴が最後に言った事なんだが、一つ気になっているんだ」
「え?」
「あいつらは先鋒隊でこれから本船が来る。そう言ってたんだ。こんな小さな島にわざわざ来る理由が見当たらないが、もし本当ならさらに海賊達がここにやって来る。俺達にはもう生き延びる術は無い」
「本船が?」
「ああ。これから島民達と相談はするが……君の国の保護下に入りたいんだ」
「なるほど」
「君達の船が来たタイミングで交渉の場を設けてほしいのだ。ここに港を作れば君の国から南大陸へのちょうどいい中継地点になる」
「分かりました」
「助かる」
「どのみち海賊を始末しなければ南への航海は危険なままです。手間が省けてちょうどいい」
ラウルは笑みをこぼした。
「君はいつも強気だな」
アルベルトは首を振った。
「僕は悪い奴を許せないだけです」
「そうだな。それでいい。迎えの船が来るまでゆっくりしていってくれ」
ラウルが立ち去り、アルベルトは一人石段に座って暗くなっていく静かな海を眺めた。
しばらくすると、アルベルトのサーベルや鎧の斬れ味が落ちたのが感覚で分かった。
(この暑さでは二日くらいしか持たないのか)
もし海賊とこの島で長期戦になった場合は形勢が不利になるだろう。今後の事も考えて暑さ対策を練る段階に来ていると感じた。
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