第21話 大根王子Ⅱ 六
「す……すげえ! これが北大陸の王の力……!」
ジョエルが圧倒的な強さのアルベルトを見て思わず笑みを浮かべた。
「ラウル! これなら海賊達にも勝てる! アルベルトがいれば百人力だぜ!」
「そうだな」
興奮するジョエルをよそに、ラウルは頷いて周囲を見た。他の小屋も覗いてみた。自分達の他に生き残りはいなかった。女性も、女性を救おうとして立派に戦った者達も、それを襲った者達も皆死んでいた。
アルベルトが三人の所に戻って来た。
「他の人達を助ける事が出来なくて残念です」
「いいんだ。ありがとうアルベルト。その装備はどのくらい持つんだ?」
「暑さのせいで長くは持たないでしょう。おそらく明後日くらいには斬れ味が落ちると思います」
「そうか」
ラウルはイサベラの様子を見て口を開いた。
「ジョエル、頼みがある。イサベラを連れて村に戻っていてくれないか」
「え?」
「アルベルトの装備の鮮度が持つうちに彼を海賊の本拠地に案内したい。このチャンスに追い払いたいんだ。もし君がよければだが」
「もちろんです」
ジョエルが頷いた。
「分かった。頼んでいいのかアルベルト」
「ああ」
「無理はすんなよ。お前が生き残らなきゃいけないってのは変わらないんだからな」
アルベルトは微笑んだ。
「ありがとう。君も気を付けて」
「分かった。行こうイサベラ」
「ええ」
ジョエルとイサベラは来た道を戻って行った。
「君の強さは奴等にも知られただろう。奴等は北東の海沿いの寺院に本拠地を築いている。十分に注意していこう」
「ええ」
二人は助けられなかった者達を悔しそうに見つめた。
「奴等を殲滅したら彼等を埋葬しましょう」
「ああ」
松明の炎が照らす寺院の石造りの建物の中で海賊の首領、エイリクは部下の報告を聞いて怒りでテーブルを叩いた。酒瓶や金貨が振動で揺れて音を立てた。
「それで? その赤いのはこっちに来るのか?」
「わ、分かりません。けどまるで歯が立たなかったらしいです。もしかすると勢い付いてここまで来るんじゃないかって生き残った奴等が震えてます」
「ふーんそう。俺達に逆らう奴がまだいたのか」
エイリクは立ち上がると椅子にかけてある白い毛皮を首に巻き、銃を持つと外に出た。
「おーいてめえら! 非常事態だ! 敵が来るってよ!」
山の中にくり抜くように作られた寺院を出ると、外には寺院の前に白い石畳でできた広間があり、更に進むと広間に登るための白い石でできた大きな階段が下まで続いている。階段の途中には全部で三段になっている足場が左右に広がっている。
この山と海の間に作られた広い空間には、その寺院に登るための中央の階段を挟むように白い柱が何本も建っている。年月が経ち柱や壁には植物が伸びて来ていて、柱も何本か崩れてはいたが、それでも島の住民には祈るための重要な場所だった。今はあちこちに銃や弾薬、酒や食料が置かれ、寺院の中に女達が捕らえられていてすっかり海賊達の要塞と化していた。
階段の途中まで降りて来て叫んだエイリクの言葉を聞き、久しぶりに敵と聞いてもう逆らう者がいないと思っていた海賊達は足場に腰掛けてヘラヘラしている。
「お頭ぁ、敵なんていないでしょこの島には。かわいい女はいっぱいいるけどよ」
近くの海賊もギャハハと笑った。お頭も笑いながら答えた。
「俺もそう思ってたんだけどよー、まだいるらしいんだよ俺に逆らう奴がさあ。さっき言ったよな非常事態って。俺の話聞いてんのかコラ!!」
尻上がりで怒鳴ったエイリクを見て凍り付いた部下達がせっせと柱の近くに置いてある銃を取って弾薬を詰め始めた。エイリクに最初に報告に来た部下に聞いた。
「それでどっちから来るんだっけ?」
「えっと、カハマ村です」
「奴等の村の名前なんか知らねえよ。方角を聞いてんだよ!!」
「す、すいません! 南西からです! ちょうどあっちの山の……」
そう言って部下が山を指差した時だった。
「ん? どうした?」
「いやあそこ……何ですかあれ?」
エイリクが言われて山の上の方を見た。東からの朝日が南国の緑の葉を綺麗に照らしている。生い茂る葉の中に真っ赤な動物が立っているのが見えた。
「虎か何かじゃねえか?」
山の中を歩いて来て、息を整えようと口を開けて立っているアルベルトだった。アルベルトはエイリク達の視線に気付くと、茂みの中にガサガサと姿を消した。
「こんなに近くまで獣が来るんだなこの島」
「鹿くらいしか見た事無いですけど……」
「さっき言ってた奴どんな奴だっけ?」
「赤い奴です」
アルベルトが山の下の茂みから出て来て部下を襲っているのが見えた。
「あ!? あれじゃねえかひょっとして!」
「あ、ああ本当だ赤い!」
「撃て撃ててめえら!」
エイリクが部下に叫ぶと返り血を浴びたアルベルトと目が合った。
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