第19話 大根王子Ⅱ 四
ユン村より少し北に位置するカハマ村は、住民が追い出され今は海賊がたむろする拠点の一つになっている。あちこちにある松明が周囲を照らし、外敵から身を守っていた。
足跡を追跡して来たラウル達は、村の外の茂みに身を潜めて村の様子を窺っていた。
「よし、いいか。イサベラ達は村の中央にある建物のどれかにいるはずだ。外にいる周囲の見張りを始末し、中央まで行ったら手分けして複数の建物に侵入しイサベラ達を救出する。中に敵が多数いて無理そうなら一旦退け。運よく敵はそんなに多くなさそうだが、奴等のほうが武器が強い。できるだけ戦闘は避けて救出次第それぞれ個別に脱出しろ」
ジョエル達は頷いた。ジョエルはアルベルトにナイフを渡した。
「アルベルト。こいつを渡しておく。丸腰はさすがに厳しいだろう」
「ありがとう」
「聞いたよ。あと二週間の辛抱だってな……ありがとうよ」
アルベルトは頷いた。
「だがよ。お前が生きてなきゃこの話は無くなっちまう。絶対に無理すんなよ。俺達を見捨ててでもお前は生き残るんだ。いいな?」
「分かった」
一番外側にいた見張りの一人が欠伸をしながら用を足しに暗がりのほうへ歩いて行く。
「よし、行くぞ」
ラウル達は静かに茂みを出て、中腰のまま建物の陰に身を隠し、明かりを避けながら村に侵入を開始した。先ほどの見張りが歩いて行った方へ進んで行くと、見張りは松明を地面に刺して鼻歌を歌いながら用を足していた。
「どの娘がいいかなぁー」
見張りが茂みに向かって用を足していると、後ろからラウルが近付いて口元を抑え、日本刀で突き刺した。
「う」
見張りは急に脱力して倒れたせいで上半身が横向きになり、死ぬ直前に急に仰向けになると尿が噴水のようにあちこちに飛んだ。ジョエル達が驚いて一斉に後ずさると足元でじゃりじゃりっと音がした。
「ん? どうした?」
その音に気付いた別の見張りが建物の陰から顔を出し、松明をこちらに向けるとアルベルト達に気付き息を飲む気配がした。
「て……!」
ジョエル達は慌てて見張りに向かって一斉に矢を撃つと、見張りに剣山のように矢が突き立ち、見張りは叫ぶ前に絶命して仰向けに倒れた。持っていた松明が投げ出され地面に転がった。ジョエルは額の冷や汗を腕で拭った。
「あ、危ねえ。なかなか上手くいかないもんだな」
若者が死体から矢を引き抜き回収した。アルベルトは後ろから抱きかかえるようにして死体を引きずって茂みに隠した。
「よし。こっち側には今誰もいない。進むぞ」
雨が降って来た。地面に転がっていた松明の火が雨で消え暗闇があたりを包んだ。
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