第35話 拡散

「お前、加奈と付き合ってるってマジ?」


 そう言われたのは、休み明けの学校でのことだった。

 自分のクラスに入り席に着いた瞬間、友人から耳元で囁かれた俺。


「……それをどこで聞いた?」


 その言葉を聞いた時に咄嗟に出た言葉。

 学校の人が俺と加奈が付き合っていることなど知るわけがない。


 お互い誰にも言っていないし、学校内でイチャイチャしているわけでもない。

 関係がバレる要素がどこにもない。


 もしバレるとするならば……この関係を知っている人物から。

 要するに、水瀬か五月雨が口を滑らせて誰かに話したことしか考えられない。

 感情を抑え込もうと必死になっている俺に、


「写真、拡散されてるの知らないのか?」


 と、友人はスマホの画面を見せてくる。

 そこに表示されるのは、先日行ったテーマパークで一緒に座っている俺と加奈のツーショット。


 この写真を見た刹那、水瀬と五月雨への怒りは静まった。


「これ、誰が撮ったんだ……」


 その理由は水瀬から送られてきた写真にないものだから。あれほど口酸っぱく水瀬には写真を全部送らせたし、俺はカメラのデータまで確認しているので漏らしがあるわけがない。


 だとしたら誰が……

 机に頭を伏せて困惑する俺。


 非常にマズいぞ……こうなるとあの場に俺達を知る誰かがいたということになる。

 それに俺たちの関係がバレたら何を言われるか分からない。

 学校で有名な美少女姉妹の妹とパッとしない俺。


 バッシングの雨あられが来るぞこれは……だから誰にも話したくなかったのに……

 最悪の状況が生まれてしまった。


「……ちょっとごめん」


 まずは加奈に報告だ。まだあいつはこの事態に気づいていないかもしれないからな。この状況がヤバいことは加奈も分かるはずだ。

 急いで席を立ち、教室を後にする。


 LINEを送りながら加奈の教室へと急ぐ。

 この噂が広まって一番被害を受けるのは加奈だ。


 俺にまで話が届いているとなると知名度がある加奈にヘイトが向いてあらゆる人に囲まれているかもしれない。

 教室に居る人たちに気付かれないようにそっと加奈がいる教室を覗く。


「もう遅かったか……」


 教室の中には加奈を取り巻く男女たち。その中で気まずそうに笑顔を振りまいている加奈。

 こうなると、もう俺にできることは何もない。


 何か言ったところで、何ものでもない俺の話なんて誰も聞いてはくれないだろう。

 この際付き合っていることを誤魔化してくれていても構わない。

 全ては加奈に任せよう。

 諦めて帰ろうとする俺であったが、ドアの窓から加奈がこちらを見ていた。


「ちょっと待って!」


 刹那、教室の中から絶叫が聞こえ、加奈がドアの方へと走ってくる。

 ガシャンと勢いよく扉が開くと、


「来て!」


 と、一言。

 そのまま俺は教室の中へ連れて行かれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る