第34話 焦らしプレイ

「流石にお姉ちゃんでもそこまでしないと思うんだけどな」


 ベッドに座りながら、加奈は苦笑する。


「いや俺には分かる。この短期間で分かったことだが、あいつならやりかねない」


「私、お姉ちゃんと生まれてからずっと一緒にいるんだよ? 私の方が信憑性ない?」


「……そうだけど、一応な」


「用心深いな~ホント」


 あいつの行動のすべてを疑わなきゃ後々後悔するかもしれない。

 これでもしカメラが仕掛けられていたら、泣きっ面を見るのは加奈の方だ。

 水瀬が撮った動画をパソコンの前で不快な笑みをしながら見ているのが鮮明に俺の脳裏に浮かんでくる。


「まぁすぐ終わるから待ってろ」


 と、半ば強引に俺は部屋の探索を始める。

 部屋の隅、ベッドの下、机の中やクローゼットの中まで人の手が届く範囲は手当たり次第に探した。


 しかし、いくら探しても隠しカメラ的なものはどこにも見当たらなかった。


「ほらね? なかったでしょ?」


 私の方がお姉ちゃんに詳しいでしょ? と言わんばかりの表情で俺を見る加奈。


「これで一安心だ。あとは何も心配はいらない」


「多分、このホテルを予約してくれたのは今日のお詫びだと思うんだよね」


「黙って付いて来て写真を撮ったお礼か」


「うん。反省の意を込めてちょっと高めだしねここ」


「ならもっと高級ホテルにして欲しかったな」


 ホテル代が浮くのは大きい。しかし、色々な想像ができてしまうため、生々しいが現金をその場で渡してほしかったものだ。


「今日のところは、善意で受け取っておくか」


 これ以上深入りしても損するだけだ。

 水瀬も、流石にここまでしてくるとはよく考えたら思わないし。

 ストーカーをしていてターゲットに見つかり反省したと思ったら、数時間後カメラを仕掛けてたとか、サイコパスを通り越して犯罪者だ。


「じゃ、じゃぁシャワー……行ってきなよ」


 ひと段落したところで、加奈はそっぽを向きながら言う。


「行ってくるわ」


 バスローブ姿の加奈を横目に、俺はシャワールームへと向かう。

 ドアを閉め、カギを掛けて服を脱ぐと、俺の息子は既に準備万端であった。


 この状況がそもそも興奮するし、あとは加奈が顔を合わせてこない理由にある。

 今、このまま加奈の顔を見にいったら完全にメスの顔をしているからな。


 今すぐにでもシたいのに、俺の顔を見たら抑えられなくなるため、顔を合わせないようにして必死に我慢する。


 シャワーを浴びないでも加奈はいいのだろうが、俺だって男としてちゃんと整えたからしたい。


 欲情している彼女を待たせるのは心が痛いが、この焦らしプレイが後の盛り上がりを最高潮にしてくれる。


「今日は寝れないだろうな~」


 鼻の下と下半身を伸ばしながらぼそりと呟き、俺はシャワーを浴びるのであった。






 ――この夜、俺たちは一日歩きまわって疲れているのにも関わらず、朝の5時まで寝ることはなかった。



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