第33話 シャワーの前に

 ……見慣れない光景だ。

 壁掛けの大型テレビに、横長のデスクの上にはパンフレットとアメニティーがキレイに揃えられている。


 薄暗い部屋には、ダブルベッドが一つ。枕元にある照明が小さく照らされていた。

 一人では余るベッドに、必死に冷静を保って鎮座する俺。

 その横には、体を火照らせたバスローブ姿の加菜が静かに座っていた。


 俺たちは今、都内のホテルに居る。

 別に終電を逃したわけでもなく、電車が止まっていたわけでもない。

 ……全てはそう、水瀬が仕込んだものだ。


 最後に水瀬が残した意味深な言葉の正体は、ホテルに俺達を泊まらせることだった。

 そして、今回の嫌な予感も見事に的中しまったというわけだ。


 ……どうして毎回当たらなきゃいけないんだよ! 俺は占い師でもないんだから的中しなくていいだよ!

 こんな事より宝くじでも一発当てたいもんだわ!


 心の中でそう叫ぶ俺であったが、いくら思ったって現実は変わらない。


 というか、一周回ってご褒美だとも思えてくる。

 加奈と2人でホテルに泊まる。


 普通に考えたら、デートの最後にして最高の内容だ。

 それも全部、2人で計画していたらの話。


 突然水瀬が予約していたホテルに泊まりを強制されて、何も準備していない俺たちはコンビニで買った下着やらを持って今ここに居る。


 これこそ、本当のありがた迷惑だよ全く……


「壮馬も早くシャワー浴びてきなよ」


 沈黙が続く中、加奈はこもった声で言う。


「お、おう」


 こんなの絶対にヤるじゃん。

 逆にこのまま何もなく寝るということが不可能すぎる。

 加奈はホテルに着いた瞬間に先にシャワーを浴びてバスローブ姿だし。

 その中に下着を着ているかすら危うい。


 終始顔は赤いままで、どこか口数も少ない。

 ……こうゆう時の加奈は確実に誘ってくる。これまでに数回誘ってきたことがあったが、すべて同じ行動と表情をしている。


 水瀬も加奈が俺とシたいとか言っていたからな。それに関しては嬉しすぎて死ねる。

 見た目に反して性欲が強いの……マジで最高すぎるだろ。

 今すぐにでもベッドに押し倒したい気持ちはあるが、まずはその前にやることがある。


「シャワーの前に、部屋を探索させてくれ」


「どうしたの? 何か探し物?」


「そうだ。この部屋には監視カメラが仕掛けられてるかもしれないからな」


 あいつのことだ。事前に加奈になりすましてチェックインしてカメラをあちらこちらに仕掛けているかもしれない。

 だから俺達より早く帰ったという推測も安易にできてしまう。

 水瀬ならやりかねないのがさらに怖い。



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