第2話 新居浜の星空(スターリー)物語(テイルズ)

 その日はクリスマスが近づく2018年の12月の中頃だった。場所は愛媛県新居浜市の愛媛総合科学センター。その日の私は心の中の不安に苛まれながら向かっていた。私の愛犬と母方の祖父が余命幾ばくもなくい状況だったからだ。その不安の逃避は姉から逃げて映画館に向かったトキワ荘時代の石ノ森章太郎の気持ちに近かった。

 私は逃げようが何しようが避けられない心配を忘れたいがために、話題となっているプラネタリウム番組「スターリー・テイルズ」を見に行った。

 このプラネタリウムはイラストレーターでプラネタリウム版「銀河鉄道の夜」の製作者KAGAYAがギリシャ神話の一つオイディウスの「変身物語」を元に制作された番組だ。

この番組の予告を見た時の私の印象は「幸福の科学の宗教番組」というものだった。これ自身偏見と独断が過ぎるといわれても仕方がないが、最初の印象がそれだったのだから仕方がない。

 それが大きく変わったのが松山コスモセンターにわざわざ出かけて見た時だった。今でもそれを忘れることができなったため、再び四国で上映されると聞いて何度も足しげく通ったことを覚えている。

 今思えば、私がKAGAYA氏の作品を最初に見たのもこの新居浜だった。というのも私が小学校の野球部の旅行で彼がまだデジタルに移行する前の漫画を見たのがここだった。作風やタッチは今とは大きく違ったが、それでも彼の星や宇宙への知識の深さや感動はそのままだったのを今でも覚えている。

 話をプラネタリウムに戻そう。愛媛総合科学センターの建物内に入った私は上映までまだ時間があったため、博物館の展示物を見ながら暇をつぶすことにした。

 チケットと入館料を手帳を見せてタダにしてもらい、暇つぶしで展示物を見学した。大きなアカウミガメのはく製や恐竜のロボット。コペルニクスなどの偉人の人形に、レプリカの坊ちゃん列車と色々見ながら時間をつぶしていく。

 そこへアナウンスが流れた。まもなく上映されることになる。僕は4時半くらいに穴になったプラネタリウムの通路に並んだ。

 そして、雨漏りがする天井を通り過ぎて中に入った。そして世界で二番目に大きなプラネタリウムに入り番組が始まるのを待った。

映像にはスターリー・テイルズの上映を伝える画像が映し出されていた。そこにはKAGAYA氏が描いたアストレイアとギリシャ神殿にてんびん座のモデルとなった彼女の持つ正邪を測る天秤がでかでかと映し出されていた。

 そして上映開始時間となり、まずは今夜の星空解説が始まった。どのようなものかは記憶あいまいだ。恐らく、くじら座の解説がされたのだと考えているが、これ自体怪しい。なぜなら、くじら座は秋の星座だから十二月だと季節外れだから。

 石鎚山から見た星空解説が終わり、本編の番組が始まった。映像は紫がかったギリシャ神殿と愛媛出身で紅白歌合戦にも出た声優で歌手の水樹奈々のナレーションで始まった。

 そして四季の星座が映し出され、地球から見た一二星座とギリシャ文字が出てきた。そして物語が始まり、地面に咲く花々と三匹のペガサスが幻想的に表れる。そして黄金の時代、続いて銀の時代、銅の時代、そして現代に当たる鉄の時代までを語った。神々が人間の愚行に天に帰る中アストレイアの絶望的な抵抗がもの悲しさを誘う。そして彼女もまた天に帰り、正邪の天秤が星座になったという形でゼウスの言葉と閉じられる鉄の扉で「変身物語」の部分が終わる。

 やがて、下から見た丘にそびえたつギリシャ神殿を背に、ロシア人歌手ORIGAの歌とともに太陽が一直線になり木々が早く成長する。

 歌が終わり、時が再び未来へ進みクリスタルでできているかのような超高層ビルがタケノコのように立ち並んだ。

 そして水樹奈々のナレーションが終わりが近いことを伝えた。そして姫神の音楽とORIGAの歌声が織りなすエンディング曲が始まった。KAGAYA氏の描いた一二星座のCGが美しく登場した。その中で一番印象に残ったのはしし座だった。そのしし座はヘラクレスが倒した人食いライオンとは思えないくらいに優しい表情をしていたことを今でも覚えている。

 最後にアストレイアの「私たちの未来が正義と幸せに満ちていますように」という言葉で番組は終わった。

 帰り際、建物内は暗闇でクリスマスのイルミネーションが飾っていた。今度は正月の最初のときに行こうと思った。だが、もう一度行くことはなかった。

 年の変わった正月に祖父が、翌月には犬が相次いで亡くなった。僕はそれに相殺されていく暇が全くできなかった。しかし、ヨシフ・スターリンのように冷たく固い私の心は一人と一匹の死に流す涙すらなかった。

もし、アストレイアがこのことを知ったら、嘆き悲しまない私を哀れむかもしれない。

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