プラネタリウム番組紀行

@bigboss3

第1話 空港を駆ける銀河鉄道

高松空港の南側に位置するさぬきこどもの国。そこから見えるANAやJAL、そして国内外のLCCの飛行機が轟音を立てて、離陸していく音が耳に入る。

 しかし私はゆっくり見る暇はない。あと二、三分すればプラネタリウム番組「銀河鉄道の夜」が始まるからだ。

 会社が終わりフルスロットルで向かった私はバイクのスタンドを下げると、財布とコーヒーの入った水筒を片方ずつ持って、わくわく児童館に向かって走る。

 急がないと間に合わなくなる。そう焦らせながら建物の中に入る。建物の中は小学校の時に行った時と比べてかなり改装されていた。

スマホの時計を見ると1分を切っていた。足取りがさらに早くなる。

 なんとか、一番奥のスペースシアターにたどり着くとちょうどよく締めるところだった。

「整理券をお願いします」

 そう言われた私は代わりに手帳を見せた。その中身を確認した職員は「どうぞ」と言って通してくれた。

 スペースシアターはドーム状の空間に薄暗い明りと座席と中央にプラネタリウムが備え付けられていた。

 そして正面では投影装置で現在投影している、または次回投影する番組の予告と上映中の注意事項が流されていた。

 私はスカスカの中央の席に陣取った。それと同時に扉が締められて「それでは上映時間となりました。本日は、さぬきこどもの国スペースシアターにご観覧いただき、誠にありがとうございます」というアナウンスが流れた。

 それにしても、ここに座ると小学校高学年の時のことを思い出す。あの時は全天球映像番組で、海外の番組を見ていた。そして映像が氷塊のシーンになったとき椅子が振動した。その時の振動がごくわずかだったため、スペースシアターの椅子は振動できるようになっているのかと大いに驚いた。

 それが本当の地震だと知ったのは外に展示しているYS―11の前で、担任に聞かされた時だった。

 余談だがこの地震で伯母の同級生が死んだことも後に知った。

 そんな懐かしい思い出を思い出していると、星空解説が始まった。目の前には高松空港から見たさぬきこどもの国が映し出された。中央にはカラーリングからしてJALの飛行機が駐機している。

 太陽が西の空から消えて、木星と土星、そして火星と夜空に瞬きそれに続けて普通にみる星空、次に明かりのない星空、最後に星の瞬きを見せた。

 さすがは高松ミライエに対抗して機器更新したと噂になっていただけあって最新のプラネタリウムはすごかった。

 職員は一つ一つ星空と星座を解説していく。音楽は優しく心が癒される感じがして、日ごろの疲れを忘れさせていく。

 最後にすべての星座と流れ星のシャワーを映して前半の解説は終わった。

「続きまして、プラネタリウム番組。『銀河鉄道の夜』を上映します。どうぞごゆっくりお楽しみください」

 そのアナウンスと共に真っ暗な闇が内部を覆い、その暗闇の中から機関車の汽笛が聞こえた。そしてCGで再現された岩手軽便鉄道のアメリカボールドウィン社製蒸気機関車が夕日に照らされて、ススキをなびかせながら走っていく。

 そして、白鳥が鳴き声を上げながら川の水面スレスレを飛んでいく。その見せ方に感動してしまった。

 そして白鳥座になった白鳥から一枚の羽根がひらひらと舞い降りて、タイトルの文字が現れた。

 そして、桑島法子のナレーションとともに青を基調とした映像が現れる。製作者のKAGAYAの映像美は宮沢賢治の小説を現実世界に合っていた。もし賢治が現代に生きていたなら「私の世界観そのままだ」言っていたに違いない。

 天気輪が青い鋼でできた三角標に変わると続けて星空が光り、「銀河ステーション、銀河ステーション」の声とともに列車の中に変わった。

 音は明治村のSLで、岩手軽便鉄道の機関車と形も現在の名古屋鉄道の規格であることを除けば、ほとんど一緒だ。

 そして物語の中盤に差し掛かった時にこのプラネタリウム番組のイメージソング『one・night』が流れた。この曲を聴きたいがために私はゲオやTSUTAYAに寄ったが探しても見つからなかったため、appleでダウンロードしたほど気に入っている。

 その曲が終わって客船の姉弟と先生のシーンになり、そこではこの物語の核であるサソリの火の話になった。

 その火はまさに赤く煌々と夜空を照らしていた。サソリの火についてのお話の中で自己犠牲の意味を問いかけられた気分になった。

そして南十字の十字架に到着した。それはまさにキリストが再誕しそうな光景だった。人が誰一人登場しないのがこの番組の特徴ではあるが、それが逆に神々しさを感じさせた。

 そして石炭袋でカンパネルラがいなくなり、ジョバンニが彼の名前を叫ぶシーンで終わりを告げた。本来はこの後も続きがあるが、ここで番組は終わり、最後に天の川を走る列車と空から見た風景で終わりを告げた。

 今度はDVDを図書館で借りよう考えながら座りすぎて辛い腰を起こしながら、スペースシアターから出た。

 そして休憩スペースで水筒の蓋を開けてコーヒーを一気飲みした。

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