第39話 料理
「でも追悼式まではまだ時間もありますし、ご飯でも食べましょうか。いざという時にお腹が空いて力が出ないなんてなったら嫌ですからね」
作戦会議も程々に、ディスティが良い感じに話を切り上げる。
「ここには中々上質な調理器具があります。そこでワタクシの得意なシチューでも振る舞ってあげますよ」
「えっ! 姉さんのシチューが食べられるんですか!? やった!」
シアがまるで子供のように喜びを表情をいっぱいに使って表現する。
クールな面が強い彼女がそんな反応をするほどの料理はどれほど美味しいもなのだろうと期待してしまう。
「炊事なら俺も得意だからできる範囲なら手伝おうか?」
「ありがとうございます。なら少し手伝ってもらいましょうか」
俺はディスティに案内されて調理室に向かう。その間ミーア達には掃除などを任せる。
「ではワタクシが野菜を洗っておきますので、その間に切っておいてくれますでしょうか?」
「了解。大きさや切り方はどうしたらいいかな?」
「なるべく細かく切ってください。シアはそういうのが好みですから。あっ、でもジャガイモは溶けてしまうかもしれないから気をつけてくださいね」
俺は言われたことに注意しながら野菜を剥き細かく刻む。
「結構手慣れているのですね。趣味か何かで料理を?」
「実家で俺長男だったから弟とか妹にご飯を作ったりしてたからね。父さんが俺が小さい頃に死んじゃったからその分も頑張ってたんだよ」
そういえば俺が死んでから母さん達はどうなったんだろう? ちゃんと今も生活できているのかな?
「いたっ!」
考え事をしてよそ見をしてしまったせいで自分の指を切ってしまう。左人差し指から血が垂れる。俺はそれが野菜につかないようもう片方の手で押さえる。
かなり深く切ってしまったようで血が止まる気配はない。死にはしないものの止血しないといけないと思うが、近くに良い物が見当たらない。
「手を切ってしまったのですか? ちょっと失礼します」
ディスティはスッと俺の手を掴み上げる。彼女の手から温かい光が漏れ出す。
「これってもしかして治癒魔法?」
俺は今まで何度も怪我をしてその度にシアに治してもらってきた。だからその魔法には見覚えがあり何か特定することができる。
「えぇ。生憎ワタクシは妹ほど得意ではないですけれど、これくらいなら治せますよ」
「ありがとう。ちょっと考え事してて余所見しちゃってたよ」
「もしかして家族についてですか?」
考え事を当てられ驚きのあまり再び指を切りそうになってしまう。今度はそんなことはなくギリギリのところで止まれたが。
「ワタクシに妹について聞いてきたりしましたし、それに年齢的にもリュージさんの親の世代は魔族との戦争の……」
「あーいやごめん。家族はまだ生きてるよ」
突然的外れになる彼女の考察に訂正を入れながらも、やはり彼女も完璧などではなく唯の一人の人間なのだと実感する。
「そうなのですか? すみません。てっきり戦争で親を亡くして孤児になったのかと勘違いしてしまいました」
「そういうわけじゃないけど……でもしばらく家族には会えていないかな」
最後に家族に会ったのは海外に飛び立つ直前で三年くらい前だ。それも喧嘩別れ的な形で。
思い出すと何で最後にあんなことしか言えなかったのか、自分の中に後悔の念が積もる。
「なら会いに行った方がいいですよ。家族はいついなくなるか分かりませんから」
「……うん」
彼女は両親を殺された身から、純粋な親切心で言ってくれているのだろうがそれでもそれは俺に心に傷をつけるだけだ。
もう家族には一生会えるはずのないことを意識させられる。
その虚無感を悟られないようにしながら料理を作り、そう時間はかからずとても香ばしい匂いのするシチューが出来上がる。隠し味にと入れた香辛料が決め手だろう。
その料理を盛り付け食卓まで運び、五人でシチューを啜り食事を楽しむ。そうして時間は進んでいきエムスが襲撃してくることもなく追悼式の時間が近づいてくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます