第38話 大事な家族だから

「それでエムスとその親が魔族友好派と聞いて、そして勧誘の旅にて魔族の悪行を見る度にワタクシの中で恨みの炎に油が注がれていったのです」

「事情は大体分かったよ」


 ディスティの過去を、魔族を嫌う理由を聞いてそれは納得半分不服半分といった感じだ。

 両親を殺された件については同情するしそれでエムスを憎むのは分かるが、でもだからといって種族や人種自体を憎むのは間違っている。

 しかもそれを正義のように平然と語る彼女に危険を感じる。それは脱線一歩手前の列車のようだ。


「でももし魔族と何か一悶着ある機会があったら、その時は一度立ち止まってよく考えてみてくれる? もしかしたら新しい道が見えてくるかもしれないから」

「一応頭の端には入れておきます」


 だが俺はあまり強く彼女に詰め寄ることはできない。


「さて。個人的にしたい話も終わりましたし、今度はここら辺の土地勘を少しでも身につけるために街を回りましょうか」

「そうだね。ちょうど風に当たりたいと思ってたから助かるよ」


 俺達は外に出て街を練り歩く。冷たい風が体を良い感じに冷やしてくれて気持ちがいい。

 そんな中でも今は観光しているわけではないので、彼女の説明を一字一句聞き逃さないようにしながら辺りの様子を観察する。

 

 もし大聖堂が襲われた場合奴がどう逃げるか、逆に奴はどこから大聖堂に向かうか。

 様々な物事を推測し頭の中で対策を組み上げる。


「ねぇディスティ。少し変なこと聞いてもいいかな?」

「何でしょうか?」


 ある程度歩き回りそろそろ戻ってミーア達と合流しようとした頃、ある一つの疑問が頭の中に浮かんできてしまいつい尋ねてしまう。


「君にとって妹のシアは大切な存在?」

「唯一の残された家族ですから。ワタクシにとってはかけがえのない存在ですよ」

「なら、もしも彼女が魔族の男性を好きなって付き合いたいって言い出したら君ならどうする?」


 彼女は足を止め、返答を得るのにはしばらく時間がかかってしまう。風の音と街の人の喧騒が交互に吹いてきて俺達の間の空気を入れ替える。


「妹の選んだ道を取るか、宗教の教えを取るかというお話ですか?」

「そういうことになるね」


 ディスティは口を閉ざしてしばらく長考する。


「妹と縁を切りますね」

「えっ……?」


 ディスティは妹をとても大切に想っている。言動からもそれが嘘ではないことが分かる。

 だからこそのこの返答は予想外だ。


「もちろんあの子の選択についてとやかく言うつもりはありません。ですがそんなことがあったとしてもワタクシは反魔族教をやめるつもりはありません。

 ですのでシアとは縁を切ってあの子には遠方で幸せに暮らしてもらいます」


 俺は彼女にはしっかり妹を想う気持ちがあることが分かりほっと一安心する。

 歪んだ正義は家族愛すらも簡単に掻き消してしまう。だがディスティはまだそこまで歪んではいない。

 

 それから何もトラブルなく辺りのチェックは終わり、俺とディスティは大聖堂にてミーア達と合流する。


「それじゃあ今からすることを説明しますね」


 五人で適当な部屋に入り、ディスティがここら辺の地図と大聖堂の見取り図を机の上に出してくれる。


「今日の夜に追悼式がありますが、もし奴が襲ってくるとしたらこの時でしょう。人と闇に紛れて来る可能性が高いです」


 闇討ちで一気に恨みのあるここの人達を殺すってことか。そんな無差別殺人のようなこと絶対に止めないと。


「騎士団の人達とワタクシ達のところの精鋭がここら辺に配置される予定なので、四人で守りが薄いところの警備を、シアは大聖堂の中で居住用の部屋の扉を開けておいたり窓の鍵の確認などをしてくれますか?」


 ディスティはまず真っ先に交戦するであろう外の警備から遠ざけるべく、シアに大聖堂の中で行う作業を任せる。

 

「わたくしが居ても足手纏いになるでしょうからね。でも怪我人が出たらわたくしを呼んでください。すぐに治療しますから」


 相変わらずシアは頼もしい。それに今の彼女はバニスのパーティーにいた頃と比べて良い顔つきになっている。

 

「俺達も現場の判断で適切な場所で警備するってことでいいかな?」

「はいそれで構いません。全員の力であいつを捕まえましょう」


 ディスティの瞳には静かな憎悪の炎が宿っている。もしかしたら今日両親を殺した仇に会えて、そして復讐を成し遂げられるかもしれない。

 そのことが彼女を奮い立たせているのだろう。

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