第40話 襲撃
「では今から各々持ち場につきましょう。ワタクシは宗教の精鋭達の指揮をしなければならないので事前に話し合った通りにお願いしますね」
ディスティはそれだけ伝え足早にその精鋭の元へと向かう。
遠目で見た感じだがそこそこ歳のいっている人からも尊敬の眼差しを向けられており、彼女の人望や実力の高さが窺える。
「それじゃあ俺達も行くからシアも気をつけてね」
「はい。あなたもどうかお気をつけて」
シアと別れ俺達も事前に決めていた持ち場につく。大聖堂が上から見下ろせる丘の上だ。
「それにしても本当に冷え込みますね……僕も中で警備したいです」
アキは小さな炎を作り出してそれで暖を取りながら震えている。
アキは俺やミーアに比べ体格が小さい。なので俺達二人より温度変化に弱い。
「寒かったら上着一枚貸すよ。これ毛布代わりにしていいから」
少し薄着になってしまうが、耐えられない寒さではないし戦闘に支障は出ないだろう。それにこれくらい数年前に経験したシベリアの寒さに比べたらなんてことはない。
「いえ流石にそんなことしてもらうわけには……」
「いいって。俺がやりたくてやってることなんだから気にしないで」
俺は半ば強引にその服をアキに押し付ける。やはり彼女に対して服は大きく、もし着たら膝くらいまで届いてしまうだろう。
「ありがとうございます……」
ばつが悪そうにして躊躇いながらも、アキはそれに包まり温まる。
「私は下の大聖堂の方を監視するわ。リュージとアキは反対側を頼めるのかしら?」
「了解。アキも怪しいものを見つけたらすぐ教えてね」
「はい! 頑張ります!」
ミーアは丘から顔を少し出し大聖堂を見下す。指には魔力の籠った風の弾丸を準備してもし奴が現れたらすぐに撃てるようにしておく。
俺とアキも日本刀とトンファーを装備していつでも戦える用意はしておく。
硬直状態が数十分続く。視界とクリスタルの探知に神経を割き寒さに耐える。
そうして話すこともなくなり無言が増えてきた頃、少々離れた所からクリスタルの気配を探知する。
「クリスタルの気配よ! きっとエムスが現れたのだわ!」
ミーアが翼を展開して飛び立とうとするがその場に立ち止まってしまう。
その理由はクリスタルの気配にある。一つだけだった気配が十個近くにまで増えたのだ。
「これはどういうことだ? 何で気配がこんなにもたくさん……」
気配が二つとかならまだ他のクリスタル集めの参加者もいたと説明がつく。だがこの数はいくらなんでもありえない。
「まさか……とにかく気配が多い場所まで飛ぶわよ! 二人とも捕まって!」
俺とアキはミーアに捕まり気配が多い場所まで飛んでいく。
六つの気配が集まる場所は地獄の景色となっている。クリスタルを取り込んだであろう魔物が暴れており、その対処に騎士団の人達が追われている。
一体だけなら騎士団の人達でなんとかなったかもしれないが、この数は流石に無理だ。
「やっぱりエムスは魔物達にノーマルクリスタルを与えて凶暴がさせて、そいつらを手なづけて一斉に襲わせたのだわ!」
つまりガラスアの時と同じ手法を使ったということだ。いや積極的に人を襲わせに向かわせているのでガラスアより悪質だ。
「とにかく助けに入ろう!」
俺達は地面に飛び降り騎士団の人達の援護に入る。ディスティはここにおらず、他の持ち場で魔物の対応に追われているのだろう。
俺は思考を一旦この場の魔物達に全集中させクリスタルの力をオンにする。
どこにエムスが潜んでいるのか分からない。最小限の動きで迅速に処理しないと!
まず巨大な牙をちらつかせる狼型の魔物に斬り込んでいく。
属性のクリスタルは取り込んでいないようで、前の鹿やガラスアの時のように魔法を使うことはない。
それらを的確に見極め、噛みつきを躱し日本刀で首を切り落とす。
ミーアも同じくこいつらは大して強くないことに気づき、防御を捨て攻めに転じて流れように倒していく。
アキもトンファーの金属部分にノーマルクリスタルを当て、莫大な魔力を纏ったそれを魔物の脳天に叩きつける。
俺達の加勢もあって魔物達は呆気なく倒され、俺はこの呆気なさに不自然さを覚える。
「違う……これは囮だ!!」
エムスがしたいことが分かったような気がして、俺は急いで大聖堂に戻る。
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