第3話 陰キャの天使

 しばらく前田紗栄子の周りには男子たちが3、4人集まって何かを話していた。


「前田さんと同じクラスで嬉しいよ」


「俺も俺も」


「ま、また、分からないところがあったら、き、聞きに来ていいかな?」


 陰キャっぽい、おどおどした男子が尋ねる。

 普通なら嫌がるか、適当にあしらうところだが、果たして前田紗栄子はどう答える?


「うん、いいよ」


 あっさり、笑顔でOKしていた。


「やったー」


 男子は喜んでいる。純真というか、頼まれたら嫌と言えないタイプか。頭も良くて自分たちともちゃんと話してくれる前田紗栄子は陰キャにとっては確かに天使みたいだろう。


「ちょっと、あんたたち!」


 教室の入り口で大声がするので見てみるとポニーテールの少女が前田紗栄子の近くの男子をにらんでいる。スポーティーな感じの子だ。すぐに前田紗栄子に近づくと男たちを追い払い始めた。


「全く、私が見てないとすぐこうなるんだから。紗栄子もしっかりしないと」


「わたしは大丈夫だよ」


「もう。だめだめ。こんなやつらは紗栄子と話す権利無いから」


 しつしっと手で払われた男子たちは仕方なく離れていった。


「あいつも同じクラスだな」


 ハカセが言う。


「あの番犬は……小島か」


 小島有紀こじまゆき。俺がまだ佐々木朋美と付き合っていた頃、何度か帰り道で一緒になったことがある。朋美とは知り合いのようで、俺も少し話したことはあるが、朋美と別れてからは見かけても話したことは無い。


「小島を知っているのか?」


「少し話したことがある程度だ。どういうやつだ?」


「小島有紀は前田紗栄子の親友だ。いつもあんな感じで前田さんに近寄ってくる男たちを追い払っている」


「そうなのか。あいつがいると陰キャたちは近寄れなさそうだな」


「まあな。だが、今みたいに朝と、それから夕方はチャンスだ」


「あの2人は一緒に帰ったりしないのか?」


「一緒のことが多いが、小島有紀はバスケ部だからな。時間を合わせられないときもある」


「なるほど」


 見ていると、小島有紀は櫛を取り出し、前田紗栄子の髪をとかしだした。


「また、寝癖ついてる」


「だって、面倒で……」


「はぁ。もうちょっと勉強以外のことにも興味持とうね」


 小島有紀は前田紗栄子の世話を焼くのが好きなようだ。


「それにしてもハカセ、前田紗栄子に詳しいな。お前も狙っているのか?」


「そんなわけないだろ。俺もいろいろあって詳しくなっただけだ」


「いろいろね……」


 ハカセにも何か事情があるらしい。


「お前こそ前田紗栄子に興味出てきたのか?」


 逆にハカセが聞いてきた。


「そんなんじゃない。だが、学年一位がどういう勉強をしているかは興味あるな」


「そういえば、お前が2位だったな。だが、前田紗栄子の壁は高いぞ」


「ふふ。中間テストで勝ってみせるよ」


 俺はこれまでどんどん成績を伸ばしてきた。まだ伸びしろはあるはずだ。きっと次の中間テストでは勝てると思う。

 前田紗栄子が2位になったらこの人気は無くなるのだろうか。そういう意味でも楽しみだ。


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