第2話 新たなクラス

 校舎に入ると2年生のクラス分けが張り出されている。俺はそれを見て2年2組の教室に向かった。


 運は俺に味方したようだ。ざっと見た感じ、前のクラスで一緒だったグループのやつらは誰もいない。佐々木朋美も伊藤健司も別のクラスだ。


 2組の教室に入り、俺は座席表を見て自分の席に行く。廊下側から二列目。前の方でも後ろの方でもない地味な場所だ。その席に着くと、隣に見知ったやつが居た。


「おう。久しぶりだな」


「ハカセか」


 ハカセこと、佐藤博さとうひろし。こいつも俺と同じく勉強ができるやつだ。1年の頃、俺は教室に居たくないこともあり、職員室に何度も質問に行っていた。同じように職員室によく来ていたのがハカセだ。特徴ある黒縁眼鏡をかけていて、ハカセというニックネームで教師にも呼ばれていたからすぐに覚えた。ハカセは俺のことを知っていた。俺が有名人だからだそうだ。


「よろしくな」


 それだけ言うと席に着く。そしていつものように小説を広げた。人と関わらない俺は休み時間はほとんど読書に当てている。


「おい、気がついたか?」


 ハカセが話しかけてくる。


「何が?」


前田紗栄子まえださえこも同じクラスだぞ」


「そうなのか?」


 ――前田紗栄子。学年1位をずっと維持する生徒だ。名前は成績表でいつも見ていたが、実際に見たことは無かった。俺は佐々木朋美に振られたあと、勉強ばかりしていたせいで成績が急激に上がった。気がついたら、2学期の期末テストで学年2位になった。そのときの1位も前田紗栄子だった。


 俺は自分の順位が急激に上がっていくのが内心嬉しかった。2位まで来たらあとは1位になるだけだ。3学期はこれまで以上に勉強した。そして期末テストも上手くいった。だが、やはり学年2位のままだった。相変わらず、学年1位は前田紗栄子。どういうやつかは知らないが、強敵なのは確かだ。


「どいつだ?」


 ハカセに俺は聞いた。


「一番前の真ん中だ」


 そこには背が小さめの地味な少女が居た。飾りっ気も無く、ボブの黒髪もぼさぼさで寝癖もそのままだ。顔はここからだとよく見えないが、幼い感じか。


「あいつか。なんか地味なやつだな」


 もう少し、キリっとした眼鏡の委員長的なやつを俺は想像していた。もしくは、美人で高嶺の花のタイプか。だが、実際の前田紗栄子は地味で冴えない感じだ。勉強だけで人付き合いはできなさそうに見える。


「そう思うだろ。だが、モテるんだよなあ」


「は?」


 俺は信じられずに言った。普通に考えたら男に人気なんて無いだろう。


「まあ、しばらく見てろ」


 俺は黙って前田紗栄子を見ていた。すると、早速、男子が一人話しかけに来ていた。と思ったら、また1人来る。しばらく2人だったが、すぐにもう1人増えた。


「へぇ~」


「良く見ると結構可愛いし、性格もいい。成績は学年1位で、質問したら教えてくれるし、地味系だから声を掛けやすい。そして、何より……」


「何より?」


純真ピュアだ」


「……純真?」


「ああ。恋愛の噂は皆無。告白も相当されているようだが全て断っているらしい。流行に疎いみたいで、女子高生らしい話題にはついていけない。おしゃれも全然しない。まさに陰キャが好きそうな子だろ」


「そりゃそうだけどな」


「だから『陰キャの天使』って影で呼ばれてる。あ、本人には内緒だぞ」


 ――変なニックネームを付けられてかわいそうだ。


 前田紗栄子が横を向いて話したとき、顔がしっかり見えた。ふむ、可愛いことは確かだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る