第4話 天使の人気

 授業が始まり、一週間が過ぎた。俺は学年1位の前田紗栄子がどういう勉強をしているかに興味があった。だから、気がついたら彼女の席を見ていた。


 そこで分かったのはやはり前田紗栄子は人気があるということだ。休み時間になるとすぐに男子がやってくる。もちろん、女子も居るが男子の方が圧倒的に多い。勉強を教えてもらおうとしているが、裏には仲良くなりたい下心が見え見えだ。そして、それを追い払うのが小島有紀というのがいつものことだった。


 特にしつこく来るのが三枝四郎さえぐさしろうというやつだ。こいつのことは俺も知っていた。学年3位だからだ。俺が2位になる前の学年2位だ。俺に抜かれてこいつの定位置は3位になった。それだからか、俺に厳しく当たってくる。


 三枝は1年の時は前田紗栄子と同じクラスだったようだが、今は別のクラス。にもかかわらず、休み時間も昼休みもとにかくしつこい。誰にでも笑顔の前田さんもこいつには困っているようだった。



 今日の昼休みも三枝は前田紗栄子のところに来ている。


「ここがわからなくて。前田さん、教えてくれないかなあ」


「ちょっと。紗栄子も困ってるから」


 小島有紀が追い払おうとしている。


「あー、前田さんもわかんないんだ。じゃあ、仕方ないなあ」


 三枝が挑発するように言う。


「分かるけど……」


 前田さんは負けず嫌いのようだ。


「じゃあ、教えてよ」


 三枝が無理矢理ノートをねじ込もうとする。俺は見ていられなくなった。


「おい、迷惑を掛けるな」


 三枝の腕をつかむ。


「中里か、何の用だ」


「前田さんが困ってるだろ。分からない問題なら俺が教えてやるぞ」


「これ、分かるのか?」


 ちょうど昨日やった数学の問題だった。


「ああ。こっちこいよ。教えてやる」


 そう言うと三枝は困ったように言った。


「あ、俺、用事があるんだった。また後でな」


 慌てたように教室から去って行った。


「中里、ありがとね。あいつ、ほんとにしつこくて」


 小島有紀が俺に礼を言う。前田紗栄子も俺に一礼をした。


「ああ。見てたら俺も腹が立ってきただけだから。困ったらまた言ってくれ」


 ふふ、決まったな。


 自分の席に戻りながら、俺は自分がかっこよく見られている自覚があった。これで前田紗栄子も俺をさらに意識したことだろうな。


 そう思ったところで前田紗栄子の声が聞こえてきた。


「……今の人、誰だっけ?」


 !? 前田紗栄子が小島有紀に聞いている声が聞こえてしまった。あれ? 俺、学年2位なんだけど。それに、そこそこ有名だと思ってたんだけどな。


 同じクラスになって一週間。全く認知もされていなかったのか。ショックだ。

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