文明

「ええ~、で あるからして、文明というものは、このように 川の近くにおこるわけですね。はい。水が不可欠だということです。

 人が生きていくためにも。食糧を得るためにも、です。

 ええ~、ですから、このトリヤ地方にきましても、トゥーリアと呼ばれる平野へいや、ここにですね、人が住んでいたわけです。

 はい、ここ、地図見てください。川がありますね。山が、これ。ここ。

 ああ~、これは、丘なんですね。

 で、この丘が 重要なのです。

 この丘に登るとですね、平野が見渡せるのです。

 ええ~、で

 ええ~、資料集 開いてください。

 いいですか、皆さん。

 はい、これ、ここ。

 この図ですね。

 ええ~、このように トゥーリアの人々は穀物を育てていたわけですが。

 はい、

 これ 重要。

 丘の上から見ると、その穀物畑が、

 ほれ、このように 絵巻物のように見えるわけですね。

 素晴らしいですね。

 そしてですね、

 この絵巻物の図案が幾つか残っていまして、

 ええ~、このように 穀物の植え分けを示した図案、これをですね、

 トゥーリア絵図えず とまあ、そう呼ぶわけでしてね。

 、と本来は まあ、こう呼んでいたわけですが。

 今では、

 はい、教科書 よく見てください。

 。このように表記されてしまっているのですね。

 トリア絵図えず。テストでは、この書き方で構いません。ええ」


『トリア絵図』


 そう、黒板に書かれた。

 初老の講師の間延びした声で聞く講義は、

 昼食の後であることも相まって、睡魔が襲う。


 あちら こちらで 船が漕がれる。


 眠気は伝染する。

 珠緒たまおは 押し寄せる波に あらがいながら

 机上に広げたノートに

 ゆらゆらと 揺れる文字で、こう書いた。


 『とりあえず』


 ふわあ、と 昼食に食べ損ねたトリが 飛んできた。


「ええ~、このようにですね、古代の人々は、呪術的な意味をこめたという見方もあるわけですが。

 それよりもですね、わたしは これこそが トゥーリア人の遊び心だと思うわけで。

 ああ、時間が来ましたね。では、終了」



 終礼の合図チャイムとともに声はやんだ。













 

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サラダと、つばめと、文明と。〜忘れられたトリの物語〜 結音(Yuine) @midsummer-violet

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