つばめ

 手渡された飴玉は、ルビーのように赤くて、きらきらとしていた。


 そういえば、

 王子さまに頼まれて、ルビーやサファイヤを運んだ鳥がいたっけな。


 最初は、一回きりだと言いながら、つばめを拘束した王子さま。


 王子さまは 自分が動けないから、と

 自由に飛べる鳥に おつかいを頼んだ。


 町を見渡すと、貧しさゆえに薬が買えず、貧しさゆえに空腹に耐え、

 日々、笑顔なく暮らす人々の姿が目について。

 王子さまは、次から次へと鳥にを頼んだ。


 はじめは取り出しやすい宝石を

 やがて、体の金箔を

 鳥は 取り出し、届けに飛んだ。


 王子さまは、指示をした。

 くる日も、くる日も。

 鳥は 飛んだ。


 王子さまは、町の人が一瞬でも笑顔を見せたことを喜んでいた。




 でも、

 王子さまの望みをかなえた その鳥は 仲間の鳥に会えなかった。


 鳥は、飛び立てなかった。


 そう、

「とりあえず、これだけ」と言った王子さまの言葉が

 な結果を産みだした。


 王子さまは、満足したかもしれないけれど。


 みすぼらしくなった王子像の下で。


 鳥は、そっと息を引き取った。



 冬の寒さは、鳥には耐えられなかった。

 その鳥は、渡り鳥。


 あたたかな気候を求めて、飛んでいるのに。


 王子の冷たい心鉛の心が、鳥を掴んで離さなかった。




 珠緒たまおの手に握られた飴玉が、何故だか脈打っているように思えてきて、

 包みをいで、口に入れた。


 歯を立てた。


 がりっ


 飴玉の表面についた砂糖が ざらざらと口内を侵す。

 その不快感ごと、噛み砕く。


 がりっ


 割れた飴玉の内部は つるつるとして

 割れた前玉の先端は 尖っていて

 その破片をもまた 噛み砕き


 粉々にして、飲み込んだ。




 つばめの抱えていた無念。


 それすらも 気付きもしなかった王子への怒りを込めながら、

 粉々にした飴玉は、棒棒鶏バンバンジーの代わりに 珠緒たまおの胃の腑に流し込まれた。



 とりあえず、今日の夕飯、何にしようかな……


 お腹減ったな。

 おやつ、食べたいな。



 かばんの中をまさぐると、

 ツバメノートに書かれた文字が思い出された。


 とりあえず?




 って、何?






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