第8話:新たな日常

 ……従者生活にイザナが加わってから約一週間、今日も今日とて俺は従者のしての仕事をこなしていた。

 やることといえば単純で、雑務からシズクの護衛や彼女を起こしたり勉強を一緒にうけるみたいなことばっかり。


「そういえば気になってたんだが、なんで俺まで勉強してるんだ?」

「そんなの貴方も十五になったらステラ学園に通うからでしょう?」


 何を当然のことを? と言いたいような様子でそう言うシズク。

 ……習うことが大変すぎて悲鳴を上げていた俺だからこその言葉だったのだが、そういえばゲームの舞台であるあの学園は従者も通う必要があるんだったと今更ながらに思い出す。


「なるほどな……あれ、通うとしても流石に俺は下級クラスだよな? 一応俺は平民だしさ」

「そんなわけないでしょう? ……貴方の固有魔法は希少で実力も申し分ない、それに私の従者なのよ? 当然だけど最上級クラスね」


 俺の目的を考えると俺が通うべきなのは下級クラスなのだ。

 理由としては同じく平民であり下級クラスに通うだろう主人公の監視だ。

 俺が主人公にオとされる訳がないので、必然的に他三人のルートを軸にこの世界は進んで行くだろうから何が起こるかを観察するためにそこに通う予定でいた。

 だけど、シズクの話を聞く限りその目論見は外れたようで?


 あれ……というか、待ってくれ。

 最上級クラスって事は、当然だが他の攻略対象の男子やそのルートの悪役令嬢がいるわけで? ……一応全ルートプレイした俺だ。どんなイベントが起こるかは大体覚えていて……何より彼らの面倒くささは熟知してると言っていい。


「なぁシズク、下級クラスがいい」

「なんでよ、私と一緒に学園に通うの嫌なの?」

「そうじゃないけど……絶対面倒くさい」


 理由ははっきり言えない。

 だって、元々平民である俺が王太子や中華ルートの皇帝が通うなんて機密情報を把握してるなんてばれたら何を思われるかわからないからだ。


「そうね、確かに私たちが通う年には各国の重役の子弟が来るとは聞いてるもの。権力争いとかいろいろめんどくさいと思うわ……予想できるだけで、取り入ってきたり蹴落としあい――それに、私の従者の座を狙う子達もたくさん出ると思うわ。ほら一応私って和国の姫でしょう?」


 この世界での従者の立ち位置はかなり重い。

 恋愛観的に言えば、妻や夫という配偶者の次に位置するもので――絶対な信頼を置いた相手が基準だ。従者は主を守るために血肉一片残らず全てを捧げ、生涯を賭してその者に仕えるそんな契約を交わす感じなのだ。

 ゲーム的には主人公の女の子が各ルートで従者を一人攻略対象から選び、二人で困難を乗り越えハッピーエンドというのが流れだ。逆ハールートで全員と従者契約を結ぶ話もあるが今は関係ないからこれ以上は考えないし話も戻す。


 今回俺が何が言いたいかと言えば、高い位にいる者の従者となればそれに応じた地位に就けるわけで、より高い位の従者を目指す者も多い世界なのだ。


「……今更だけど、なんで俺を従者にしたんだよ。めちゃくちゃ立場的に面倒くさいんだが」

「最初に言ったでしょう? 強くて興味の持てる子が欲しかっただけよ」

「さいですか……」

「なに? もしかして従者になって後悔してるの?」

「それはないな、この生活は楽しいし屋敷の人達も優しいし――何より、一度なった物を曲げるのは違うだろ?」

「……変わらないわね貴方は」


 何が? とも思ったが、まあ気にしなくていいことだろうから今は無視して勉強を再開する。とりあえず、最上級クラスに通うらしいのでそれ相応の学がなければ置いてかれるだろうしシズクの評価も下げてしまうから。

 えーシズク様の従者頭悪いんですねー? よければ俺が変わりましょうかー? とか陰で話されたらムカつくし何よりすっげぇ殺意が沸くから。


「なんか急にやる気ね……いいことだけど、無理しないでちょうだい」

「まぁな……」

「ねぇ……カグラ折り紙できた」


 少し話して勉強に戻ろうとした途端、今までこの部屋でずっと黙っていたイザナが肩をたたいてそう言ってくる。そういえば今日は一緒に勉強するという予定で三人で集まっていたはずだが、勉強せずにイザナは何を――。


「うわぁすげぇ」

「これは……凄いわね」

 

 二人して見せられた物に戦慄する。

 イザナの横にあったのは、俺たちと同じぐらいの身長があ折り紙のがしゃどくろ。どうやったらそこまで作れるんだと聞きたくなるような巨大なそれは今にも動き出しそうなくらいに立派だった。


「よく作れたなイザナ……」

「頑張った」


 無表情ながらもピースして俺達に作った作品を自慢してくるイザナ。

 実物は当然だが見たことないけれど、いたらこうなんだろうと思わせるくらいのその作品。実際に動きそうという圧を感じながらも俺はとりあえずイザナを褒める。


「ねぇイザナ、これをよかったら今度和国である折り紙大会にこれを出さない?」

「そんなのあるんだ……」

「えぇ、これだけ凄いもの多分優勝できるわね」

「……カグラはどう思う?」

「いいと思うぞ、マジで凄いし」


 お世辞抜きでそうやって褒める。

 そしてあることを思いついた俺は、あとでイザナに伝える事を決め――そのまま続けて折り紙を折り始めた彼女を見て俺はシズクと勉強に戻った。

 だけど、次の作品が気になったせいかあまり集中できず……それどころか、次にできた土蜘蛛らしき折り紙を見て本気で戦慄する事件が起こったのが今日のハイライトだった。

 そんな、シズクとの日々にイザナを交えた日常。

 それは今まで大変だった人生からすると本当に楽しい物で、不思議と笑顔になってしまう。できることならこれを失いたくないと思うながら、俺はその日を終えた。

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