第18話:実技試験の裏側
彼の魔法によって両断され、その巨体を大地にさらすマキアゴレム。
……相変わらずの規格外な力に笑みを深めながらも、流石に一撃は予想外だったのでちょっとだけ微妙な気分になってしまう。
「あれが本当にまだ十五なのか?」
「……メルリヌス様が手加減にしたのでは?」
「いや、あの方は平等だ……しかし、あり得ない」
動揺するこの場に集めた試験官や貴族達。動揺、疑念、あまりの魔法出力に言葉を失う物がいる。
本音を言えば、強くなったであろう彼の力をもうちょっと観察したかったけれど……と色々思考が巡るが、それはもう後の祭り。
私の方でやることがあるので、振り返って唖然と面々に言葉を投げかけた。
「さぁ、これが和国の英雄の力さ。筆記試験は置いといて力に付いては申し分ないだろう? それに、私のマキアゴレムの力は皆知ってるはずだよね?」
マキアゴレムは魔導兵器であり、災害級と称されるモンスターを鎮めるために作った存在。その力はこの学校に属する物なら誰もが知ってるだろうし、それを倒せる存在を疑う馬鹿は雇ってない。
問題は貴族の方だけど……この様子だと問題なさそうかな? あのゴーレムの恩恵を感じてるのは彼らだろうし、あれが倒されるだけで説得力は生まれるから。
「――今回の攻撃魔法が使える者達の試験は本来なら別の仮想敵を倒して、あれから逃げて時間内を生き残りポイントを集める――ってものだったけど、今年は挑んだものさえいたものの、倒したのはいない。まだ疑うなら……って流石にいないか」
ただあれを時間かけて倒すという事は出来るかもしれないが……あれを一発の魔法で両断なんていう離れ業を行えるものなど殆どおらず、一目で分かるだろうが彼はこの国の英雄達と同じ領域にいると言ってもいい。
「じゃあ、彼は実技試験は合格で良いよね? ――何か意見がある者は言って欲しいんだけど……ありゃ、王様?」
このまま彼を合格させようと話を進めようとしたんだけど、この集まっている中でもこの国で一番偉い男が手を上げて遮ってくる。そして彼はこの場で彼の試験の成り行きを見守っていたシズク姫様に視線を向けた。
「――強き従者を持ったな和国の姫よ」
「えぇそうね、私の自慢の従者よ――それで、何かあるのかしら?」
一国の王と国を治める予定の姫君のやりとり。
それに口を挟めるものなどおらず――誰もが息をのんで見守っている。
「なに、そう思っただけだ。手放さぬようにするがいい」
「言われなくても――何を思ったか知らないけれど、彼を手放す気などないわ」
ぴりぴりとした空気が流れるもそれ以上会話は交わされない。
……流石にこの空気のままだとやりづらいので、私は話題を切り替えるためにも彼に言葉をかける。
「じゃあ、あとは筆記試験だよカグラ君! この闘技場から出れば転移できるから移動してくれると嬉しいな」
それに頷いた彼はそのまま見ていた私達に一礼してから闘技場から出て行った。
そして残された貴族や教員達は王が去った後で彼の一瞬だけ使われた魔法について考察を始める。気持ちは分かるけど、私は二国の王達そして特待生である鏡月という少女と話があるので二人を連れて転移を始める。
「……さて、これでゆっくり話せるね。改めて久しぶりだシズク姫」
「そうね。和国に来たぶりね、怨鎧髑髏の封印の時は助けてくれて感謝するわ」
「いやぁあれは大変だったよ、流石は和国の天災級モンスターだったね」
私の趣味は各国への旅行。
そのとき偶然カグラ君に出会ったんだけど、そこで対峙したのは怨鎧髑髏という名を持つ天災だった。戦死者を束ねる巨大な骸骨姿の怪物であり、封印が弱まっていたそれを私は彼と一緒に再び眠りにつかせたのだ。
「ねぇそれ、僕等は聞いてないんだけど?」
「そういえば言ってなかったわね――彼殆ど一人で天災を鎮めてるの」
あっけらかんとそう伝えるシズク姫。
驚く滄波皇は少し悔しそうにしており――同じく羅華に住む鏡月嬢は納得するように頷いている。
「流石は我の伴侶となる者だな」
「……ねぇ鏡月やっぱり寝てるの貴方?」
「貴様とカグラは従者と主という関係だろう? 従者契約は仕えるだけの契約であり、婚姻は許されている筈だ」
「絶対に許さないから――彼は私の従者よ」
「ここでやり合うのは止めてほしいなーって」
「あら、ごめんなさいニーア様」
全く悪びれない様子で笑う相変わらずのシズク姫様。
……それがちょっと面白くて笑ってしまうが、そういえばと気になっていた事を思い出したので羅華の二人に聞くことにした。
「そういやえばなんだけどね、君等とカグラ君はどういう関係なんだい?」
「きっかけは羅華の剣術大会だね。和国自体とはかなり交友が続いてるし、その一環で彼を呼んで……」
「そこで我が負け、傷物にされたのだ」
「その言い方いつも言ってるけど止めてちょうだい」
「しかし、無敗だった我を負かした唯一の存在だぞ? 間違ってはなかろう?」
「だから惚れてるんだね」
鏡月嬢の声音からは彼に対する想いが溢れており、心底惚れているのが伝わる。
彼らがこの国に入国したときから遠隔魔法で確認はしていたけれど、彼とここにくるまでの間も今までの彼女とは思えないほどに幸せそうだったし。
「あぁ、我を捧げるべきだと判断した。元々我はそこの滄波に嫁ぐ筈だったが、仙人の血を取り込むだけの政略結婚ではあったからな、利害が一致している間はよかったが――今はカグラがいるのでな」
「鏡月、僕のことは言う必要ないでしょ。まぁ僕は彼女を倒した彼の事が気になって滞在期間中に関わるようになったんだけどね――見事絆された感じかな? それに僕が皇帝になるっていう後押ししてくれたのはカグラだし、大事な奴だよほんと」
羅華の皇帝と皇妃予定だった仙人の娘からのその高評価。
二人して彼の事を想っておりその信頼を言葉の節々から感じられる。
「いい関係なんだね。あーいいなー彼がこの国に生まれてたら私の弟子にしたのに」
「そう聞くニーア様はどうして彼を気に入ったのかしら? 聞いてなかったけど」
「ふふ、それはないしょだよ。でも大丈夫、私は君等から取るつもりはないから」
「なら安心ね」
それで今日の会話は終わり――筆記試験が終わる時間だったので彼ら三人は部屋を出て行き私は一人部屋に残された。
「――あぁ、これから楽しくなりそうだね」
……今年の学園は大変そうだけど、きっとつまらなくはないだろう。
アステール国の王太子に聖都の教皇、羅華の皇帝に和国の姫――平民で魔法を使える異端児に――待ち望んでいた闇魔法の英雄。
「さぁて、どんな物語が見れるかな?」
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