第17話:実技試験
アステール王国の中を四人で歩き、試験会場を目指していく。
当然と言えば当然だが、乙女ゲー世界の主要キャラであり和国の姫であるシズクや羅華の皇帝候補である
「……なぁ少し離れて歩いていいか?」
「なんでだい?」
「いや……顔面力が」
今更ながらに俺の前世は一般人。
カグラの見た目である以上最低限は整ってはいるが、こいつらに比べたら月とすっぽんみたいになる。いや、本当にアイドルグループみたいな見た目の皆と並ぶのは恐れ多いって言うか……なんといか。
「……変なことを気にするんだな貴様は」
「何言ってるのよカグラ、気にしなくていいわそんなこと」
「二人の言うとおり、そんなの気にしなくていいよ。君は僕らの友人でシズク姫の従者で英雄だ。文句を言う奴の方がおかしいからね」
「……それはそうなんだが。まぁすまん、気にしないでおく」
「それでいい。そういえば気になったんだけど、君は試験を受けるんでしょう?」
「そうだが、滄波達は受けないのか?」
「うん、僕達三人は特待生枠だし……それに今日集まったのも君の試験を見に来たからなんだよね」
……完全に初耳だった。
そういう話ってことは前々から文通かなんかでやりとりされてたんだろうが、そういうことなら前もって教えてほしかったな。一応久しぶりの再会の訳だし、少しは準備ぐらいはしたかったから。
「というか暇なのかよお前等、試験だけなら俺一人で受けてもいいだろ」
「いやぁね、君がどれだけ成長したのかも気になってたし……何より入学が決まってるから早めに滞在するって感じかな――それにさ、首席合格する予定なんでしょ?」
「いや……そうだけどさ。そもそもどういう試験なんだよ、事前にどういう魔法が使えるかってのを送らされたが、嫌な予感しかしないんだよな」
和国から出る前のこと、どういう魔法を使えるかを試験に必要だからと俺は手紙で送ることになったんだが試験内容などを一切知らないので嫌にでも身構えてしまう。
「うーん、確か試験としては使える魔法によってやるって感じとは聞いたからね。攻撃が得意な君だと仮想敵を倒すって感じになるんじゃないかな?」
「それなら得意だが……ステラ学園の試験だろ?」
「まあそうだね、世界最高峰の魔法使いが校長やってるし……君の実力を考えると相当きついのが出るかもね……というか君は面識あったんだ」
「そうだよ。はぁ今から鬱なんだが……」
そんな会話をしながらも俺達は試験会場に辿り着き、俺は見学をするといった三人と別れて実技試験の会場に通される……瞬間の事だった。
足を踏み入れた途端に別の場所に俺は転移させられたのだ。
「……は?」
眼前に広がるのは見る限りは豪華な一室。
奥には高そうな机と椅子があり、中心には長テーブルが置いてある。
そして転移させられた俺はというと、柔らかく金のかかってそうなソファーに座らされていた。そして、その状況に混乱していると視界が何かに塞がれる。
「ふふ、だーれだ」
聞き覚えあるが、忘れたい声音。
少しの隙間の感覚から俺を塞いでるのが手だと分かる。
「……」
「無言は酷くないかい? お姉さん泣いちゃうぞー」
「…………」
「あれ……生きてるよねカグラ君?」
「………………はぁ」
「え、第一声が溜め息? ほんとに酷くない?」
心の底から出てくる溜め息。
それを聞いてか悲しそうな声で手を外して、俺の前にやっと姿を現す。
そいつはこの狭い室内で王道的な魔法使いの衣装に身を包んだ女性……春頃の室内でとんがり帽子とローブに身を包んだそいつは俺が出来れば学園で会いたくなかった人の筆頭だ。
「戻してくれません?」
「駄目だよーせっかく君が来た瞬間に魔法が発動するようにしてたんだから、その労力分は話そう?」
「あんたと話す労力を考えると一刻も早く戻りたいんです……」
「それはそれで面白いからだーめ、それに私が帰すと思うのかい?」
「思ってませんので許可取って帰りたかったんですけど……」
「ふふつれないなぁ。こんな美少女が誘ってるんだぞ?」
俺と同じ白髪のルビーのような瞳をしたエルフの女性。
……確かに見た目だけなら美少女だが、中身を知っている俺からするとただのロクでなしでしかない。
相手すると疲れる人だし、何より相性が凄く悪いのだ。あと凄い俺で遊んでくるし……前に彼女が和国に遊びに来た時に知り合ったのだが、一時期付きまとわれたし良い思い出があんまり無い――それに。
「じゃあ学園長命令だ。部屋で私と話すこと」
この人、この学校で一番偉い人なんだよなぁ。
「職権乱用止めません?」
「君が逃げようとするのがいけないんだぞ」
「……じゃあ手短に頼む」
逆らってもいいが、この人の実力を知っている俺からすると逆らっても良いことがないのがわかりきっている。それに逃げた所で何処までも追いかけられるような確信もあるので、受け入れた方が楽なのだ。
「じゃあ早速だけどお話ししようか……えっとね、君の試験なんだけど私が作ったゴーレムを相手して貰うことにしたんだ」
「えぇ……あんたの作ったゴーレムとか嫌なんだが」
――この人は曲がりなりにも、性格が腐り果てても世界最高峰の魔法使いだ。
そんな彼女が作ったゴーレムなど厄ネタというか、馬鹿強いだろうし聞くだけで今からやる気が消える。
「時間もないし、君の実力を確かめようとしてる人もいっぱいでね――納得させるためにもやって貰う必要があるんだよね。これでも精一杯頑張ったんだよ私、結構君の実績疑う人が多かったからさ。私が作ったゴーレムを倒せるのならって話にするの」
「……はぁ、お願いしますニーアさん」
そして俺は、このエルフ。
いや悪魔といった方がいいような女性であるアリウス・ニーア・メルリヌスの提案を呑んでしまった。
「そんなの早速さ! ――じゃあ一名様ご案内って事で頑張ってね!」
そしてまた景色が変わり――俺はだだっ広い闘技場に通された。
「出てきてマキアゴレム!」
彼女の言葉でこの場所に出現してしまった巨大すぎるゴーレムだろう存在。
それはあまりにもな存在感を放っていて、どう考えてもあらゆる魔法の技術が織り込まれたような超存在。見てるだけでも身が竦むようなそいつは戦うだけのみに特化させたような外見をしている。
ただただ武骨であり、一切の無駄を感じさせない戦士のようなそれは格好いいが、もしかしてこれと俺は戦うのだろうか?
「さぁ、いまから君にはこの子を斬ってもらうよ!」
起動するメカメカしい巨大なゴーレム。
それが拳を振り下ろし俺へと迫ってくるが、俺はそれをはじくために愛刀を構えた。そして眼前に迫った重い一撃をいなして、そのまま駆け上がる。
「面倒くさいからな――少し本気で行くぞ?」
魔力を使うようにして刀に闇魔法を籠めていく。
――そして、この巨大すぎる奴を倒せる魔法を本能で選び……その名を告げた。
「闇魔法
闇魔法で腰の部分に鞘を作り、俺はそれに一度刀を納める。
そして圧縮した闇を抜刀する事で解放して、目の前の巨大な怪物を――一刀の元に両断した。
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