第19話:学園での出会い

 アステール王国の中心に原作の舞台であるステラ学園は存在している。

 最も多い人口を誇る都市の中心にアホみたいな土地を確保していて、生徒数も多いことから学生寮の規模も大きく、各クラスごとにも寮が用意されている。


 ゲームで足を運んだときに見たままの寮の一階、まるで豪華なホテルのロビーのような内装に場違いさを覚えてしまう。


「……気が重い」


 アステール王国に滞在している間に合格の通知が送られてきて、俺は見事首席で合格したのだが……受かったってことは最上級クラスの寮室を用意される訳で、元々一般人の俺からするとこんなホテルのような場所を自室にするのは違和感が凄かった。


「まじで……慣れね」


 ゲームである『徒カネ』本編では主人公は平民なので、彼女視点で話が進む。

 自ずと用意される部屋は質素な部屋だしゲームをプレイしていた俺からすると本当に見慣れない景色であり、慣れなきゃいけないのは分かるけど慣れる気がしなかった。これがまだ和室とかなら気が楽だったが、あまりにも中世の王室のような部屋なせいでなんかもう怖い。


「……角部屋でシズクが隣なのが救いだなぁほんと」


 どれだけ俺が功績を挙げようとも俺はなにがあってもシズクの従者である。

 このホテルには使用人が沢山いるけれど、そんなぽっと出の奴に俺の主を任せるのはなんか嫌でそれだけはニーアさんに直談判しに行ったのを覚えてる。

 笑われてからかわれたが、それに関しては俺の意地なので曲げるわけにはいかなかった。


「なあイザナ、ベッド乗ってみるか?」

 

 そしてある程度荷物を開け終わり、自分の刀を刀掛に置いたところで俺は相棒に声をかけた。すると刀は白い髪をした少女へと姿を変えて見慣れぬこの場を見渡した。

 

「……ここどこ?」

「俺等が三年間過ごす寮だよ、新品のベッドだしふかふかだぞ多分」

「乗る……ほんとだ」


 まだ部屋になれてないだろうがベッドがふかふかと聞いて気になったのか、イザナはちょこんと座ってから手で柔らかさを確かめる。

 そしてそれに満足してからかこてんと横になりこっちを見て手招きしてきた。


「カグラも乗って、柔らかいよ?」

「俺は後ででいい。今は一人で堪能してくれ」

「むぅ……お願い」

「しょうがないな。だけど座るだけで許してくれ」


 流石に一緒に横になるのは恥ずかしいので、そういった条件を出して俺はベッドに腰掛ける。確かな柔らかさを感じて、絶対高いよなこれ……とか考えながら少しぼけっとしていると急に膝に何かが乗った。


「イザナ?」

「枕になって」

「……はいはい、頭でも撫でるか?」

「うん、お願い」


 男にされる膝枕とかの需要など分からないけど、満足そうなイザナを見ているとどうでもよくなってきたので、俺は安心させるように彼女の頭を撫でた。

 そんな事をしていると時間が過ぎる。落ち着くなとか思いながら、このまま今日は何もせずにいようと決めた時だった。

 急にノック音が聞こえてきたのだ。誰かと思い、俺は扉を開けたんだが……そこにいたのは和国からの親友である職人のキリヤ・カバネだった。


――――――

――――

――


 寮を出て俺は親友に案内されながらもどこかを目指していく。

 そして辿り着いたのは、学園の外にある宴会場というか小洒落た居酒屋のような場所だった。


「今年も新入生を迎えられて嬉しく思う、今日は俺等二年からの奢りだから存分に飲んで食べてくれ!」


 多分この国の貴族であろう生徒がそう言い、集められた他の生徒達から歓声があがる。そんな盛り上がる場所で俺は横に座っていたキリヤに声をかけた。


「なんで早速歓迎会があるんだ?」

「……情報共有や縁作りだ。ほら大変だろ? 主というか嫁探し」


 この『徒カネ』の世界は今更ながら結構男に優しくない。

 一応男性メーカーが作ったからか綺麗な女性キャラは沢山いるが、基本的に女性上位の世界観で作られている。女性は男性を従者にするのが基本であり、なんなら従者にした者と婚約するのが普通。

 王族や皇帝そして他の国の教皇だけは例外だが、結局主人公とくっつけば彼女の従者になる未来がある。


「……お、キリヤも早速後輩が出来たのか!」

「違うぞレオル。後輩というか和国からの親友だ。というかお前は他の奴に構わなくていいのか?」

「お前が誰かと絡んでいるのが珍しかったからな! 気になったんだ!」


 小麦肌の筋肉質なその先輩らしき人はどうやらキリヤと仲が良いらしい。

 この短いやりとりでそれを悟り、彼の友人ってことで多分いい人なんだろうなと思った。


「む……新入生で和国からって事は英雄殿をもしかして知っているのか?」


 そして次に発された言葉で俺は一気に気まずくなる。

 新入生で和国の英雄と呼ばれている者は一人しかおらず……というか完全に俺だけなので、この先輩が今話題に出したのは俺なのだ。


 レオルという名前からこのアステールの貴族だろうし、俺を知らないのはいいがなぜ興味を持つんだよ。

 

「……興味あるのか?」

「あぁ、キリヤに聞いてもどんな方なのか教えてくれなくてな」


 そう答えてくれたので俺が横目でキリヤを見れば何がおかしいのか笑っている。

 こいつそれを分かって連れてきただろうという事を理解したので、出来るだけばれないように無難な回答を探すことにした。

 そしてどんな印象を持ってるのかも知っといた方が良いからとりあえず聞くことにする。


「なんで知りたいんだ先輩は?」

「カグラ殿に憧れているからな、モンスターの危険度が他の国より高い和国の災害級そして天災級のモンスターを五種も倒した現代の英雄。冒険者を目指す者として憧れないわけがないだろう? 俺は彼のファンだからな、彼の武勇伝は全て覚えている」

「そう……なのか。会えると良いな」


 ……キリヤ、お前絶対に許さねぇ。

 こんなにも俺を英雄視している奴に会わせるとかまじでやばいって……やばい、英雄がこんな冴えない奴だとは思ってほしくない。

 横目でもう一回見れば笑いが堪えられないのか、吹き出しかけてるしまじでふざけんな。

 

「あぁ、それでここにいるという事は和国の貴族であろう? よければカグラ殿の事を教えてほしいのだが……いや、その前に名乗ってなかったな。俺はレオル・ガリウス、この国の男爵家の跡取りだ。貴方の名前は?」

「…………許さねぇぞキリヤぁ」

「今までの迷惑料だ。名乗ってやれ」

「ん、何の話だ?」

「……えっと、カグラ・ヨザキだ。よろしく……な?」

「――――――ッ……本人、なのか?」


 俺が名乗ったことにより絶句するレオル先輩。

 ……信じられないようなものを見たかのように、視線を彷徨わせてキリヤの方を向いたかと思えば――そのまま何回か口をぱくぱくとさせ。


「貴殿がカグラ殿なのか?」

「そんな畏まらないでくれ、俺はただの後輩だから。というか信じるんだな」

「あの国の者が彼の名を騙るなんて不可能だろう? そうか、ということは俺は貴殿にファンと名乗ったのか……ふ、はは、は。キリヤお前は許さん」

「なんでだよ、お前が会いたいって言ってたから会わせたんだぞ? 感謝こそされるもの恨まれるのは違うだろう」


 あっけらかんとそう言い親友……いや悪友。

 割と快楽主義者なところのあるこいつだし納得は出来るが、普通にちょっと可哀想だ。フォローしようにも俺も俺で気まずいので何を話せば良いかは分からないし。


「確かに会いたいと言ったぞ? だがな……何の準備もなしに会わせるのは違う」

「サプライズって事だ……でも嬉しいだろ」

「あぁ……そうだが――なんて顔をすればいいか分からん」

「堂々としてろよ。カグラは気にしないからな、むしろ対等に接した方が喜ぶぞ」


 本人を前にしてそういうなよとは思うけど、俺としてもそっちの方が気が楽なので助かる。俺としては英雄と呼ばれるようになったのは成り行きだし……俺はそんな器じゃないと思うし。


「……とりあえず他の生徒には今は内緒で頼む。騒ぎになったら面倒だし」

「承知した。貴殿の事は秘密にしよう……その代わりなんだが後でサインいいか?」

「いいけど……俺のなんかでいいのか?」

「逆に貰っていいのかという感じなのだが……とにかく感謝する」


 そして……俺等の会話はそこで終わり、レオル先輩もぎこちないながらにちゃんと接してくれるようになった。


「……そうだ先輩、王都の事知らないんだが……今度案内して貰っていいか?」

「構わない、むしろ任せてくれカグラ殿。あぁそういえばだが、カグラ殿は最上級クラスだろう?」

「そうだが、どうしたんだ?」

「これは上級生に流れてる噂なんだが、どうやら特待生として平民が入るらしい」

「そういえばそんな噂があったな」


 ……俺と同じ平民の特待生。

 それに当てはまるのはきっと原作の主人公であるリィンだろう。それを聞き、改めて原作は始まるという事を意識してしまう。


 この世界がどういうルートで進行するかは分からないけど、王太子のルートだったら魔王とか復活するし……本当に面倒くさい。

 だが俺がやることは変わらないので、シズクの幸せのためにこれからも頑張ろう。

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