第13話:夜の密約

 珍しく感情を表に出すシズクを見て、俺は確かな手応えを感じるが……それと同時に、抱きつかれてるのが恥ずかしくなってくる。

 ……なんというか、喜んで貰ってよかった。


「……そろそろ離してくれると嬉しいんだが」


 でも、彼女の体温を間近に感じ……それがとても恥ずかしくて、俺は日和りながらも彼女から離れようとする。

 男らしさの欠片も感じないその言葉だが、推し抱きつかれているという事実に脳が限界。というか、良い匂いがするし……可愛いしでもうこれ以上何も言えない。


「駄目もうちょっとこうやっていさせなさい……これは命令よ?」

「……了解」


 こんな人前で抱きつかれるなんて思ってなかったし、周りの反応がまじで心配……これ、狙われないよな? とかいう心配が頭をよぎるが、そんな事を考えるのは止めにしよう。だって、彼女がこんなにも笑顔なのだから。


 そしてしばらくされるがままに抱きつかれ、やっと彼女が離れてくれる。

 うるさいくらいに高鳴る心臓の音が聞かれなかったか心配で……彼女が離れる瞬間まで気が気じゃなかった。 



「……カグラ坊、何を贈ったんだ? 俺にも見せてくれ」

「そうねそれなら皆にも見て貰いましょうか。ねぇカグラ私に付けて頂戴?」

「やんなきゃ駄目か?」

「えぇ、これも命令。誕生日なんだから言うことを聞きなさい?」

「……ほんと、わがままだなお前」

「それが私よ、で……付けてくれるかしら?」


 そうやって、自信満々に笑う彼女の願い。

 それを断れる訳がないので、俺はたった一言「仰せのままに」とだけ伝えてから彼女の整えられた髪に簪を挿した。


「ねぇ、どうかしら?」

「似合ってるよ……本当にな」


 自分で選んだ物だけど、こうして彼女に似合ってくれてよかった。

 漆黒の少女に添えるように挿された彼岸花、垂れる宝石に負けないくらいの笑顔を浮かべる彼女に本心からそう伝え、気恥ずかしさに頬をかく。


「絶対に大事にするわ、家宝にでもしようかしら?」

「……重いって」

「そうかしら、軽い方よ――ねぇ今日は本当にありがとうカグラ、最高の誕生日よ」

「それはよかったよ」


 それを最後に誕生日会はお開きとなり、俺は屋敷に自分の部屋に戻ることになった。自分の部屋布団に横になりながらも、俺は一度ゆっくりと息を吐く。


「……イザナ、出てこれるか?」

「なに?」

 

 そして刀のままでいたイザナに声をかけて、俺は彼女に実態に戻って貰う。

 少し不思議そうに首をかしげながらも現れた彼女はちょこんと正座し俺の言葉を待っているようだ。それに答えるためにも俺は起き上がり、彼女に言葉をかける。


「……なぁイザナ、お前は何か夢とかあるか?」

「夢? ……なんで聞くの?」

「いや、気になってさ。ほら俺が連れ出して色々一緒に経験しただろ? それで何かやりたいことでも見つけたかと思ってさ」

「……それなら叶ってるよ。シズクがいて屋敷の皆がいて……何よりカグラがいるから。私はずっと一人で孤独だった。だけどそれはもうない、だから夢は叶ったよ」


 急に聞いて困らせてしまうと思ったけど、イザナははっきりした意思を持ってそう伝えてくれた。だかれ俺は、ずっと思っていたことを彼女に告げる。


「俺はさ、ずっと不安だったんだ。シズクのために頑張りたい、彼女に幸せになって貰いたい――そう思って頑張った。従者やって手伝って、ずっとこれでいいかって思ってた」

「……もう違うの?」

「いや……正直まだ迷ってるけど、俺は改めて決めたぞ――絶対にシズクには幸せになって貰う。今日の笑顔を見て決めたんだよ、あいつには笑顔が似合うから、それをどうにか守りたい」


 そう俺はイザナに……俺と歩んでくれると言ってくれて、付いてきてくれる彼女に決意するようにそういった。これはシズクには伝えない、だって俺の勝手な決意であるから。


「そっか、それがカグラの夢なんだね」

「あぁ――俺は人生賭けてシズクに仕える気だ。彼女の幸せのために全部使って頑張りたい。でもさ俺だけじゃ不安だからさ、イザナの力を貸してくれないか?」


 この先に待ってる未来は困難な物ばかりだ。

 ゲームの知識があるとはいえ、各ルートには厄ネタばっかり……それどころか世界滅亡の危機が転がっている。そんな世界でシズクを守り通すためには、彼女の力が必要で……俺一人では乗り越えれる気がしない。

 

「いいよ……私はカグラの刀だから、それに私も皆には笑っててほしい」

「助かる。なぁイザナ、俺は人生を賭けて命を賭して……ハッピーエンドを目指す。どんな未来になるかなんて分からないけど、お前と全部を乗り越える――だから」

「最後まで言わなくていいよ――じゃあ約束しよ? 私たちは共犯者、頑張ろうね」


 それが夜に交わした密約。 

 俺たちだけの大事な秘密であり……主のために全てを誓った日。

 ……あぁどうか、これから先に幸があらんことを。そして、シズクが笑って生きられるように。この世界で俺は生きよう。彼女の笑顔を見るために、皆で一緒に笑うために……俺はどんな道でも歩もうじゃないか。


[あとがき!]

 というわけで短いですが、一章終了です! 

 これから先はメインの舞台になる学園編となります。次話以降の投稿時間はまだ決めておりませんが……毎日更新はする予定ですのでどうかお楽しみください。

 そして最後にここまでの物語が面白かったまたは続きが気になるなどがありましたらどうか星やフォローをお願いします! 

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