第12話:誕生日会

 私の誕生日会、相変わらずだけど沢山の人が集まっていて……見てるだけで疲れてしまう。例年通りこの中には私との人脈を作りたい商人や、従者になりたい貴族達が集まっていることだろう。

 

「退屈ね……ほんと、最悪の日だわ」


 誕生日会場の一カ所で、私は周りを見渡しながらそんな事を呟いた。


 今年の誕生日はカグラを従者にしてからの初めてのもので……私にしては珍しいことだけどかなり楽しみにしていた。だけど……数日前に家を空けたという彼は未だ帰ってきておらず、私の今年の誕生日はかなり……いや歴代を見てをかなり寂しい物になってしまった。


「ひどい従者ね、私の誕生日に来ないなんて」


 そうぼやきながら、彼の事を考える。

 ……嫌々言いながらも結局は真面目な彼が家を空けるなんて初めてのことだ。 

   

 普段の彼だったら何かある……もしくは何かが起こりそうなら連絡してくれるのに――と思いながらも私は話しかけてける貴族や商人を適当にあしらう。


「……大丈夫かしらほんと」

「どうしやしたシズクお嬢様?」

「……あらラセツ、どうしたの?」

「いや、悩んでそうだったんで――カグラ坊の事ですかね?」

 

 今回も料理を作ってくれたヨイヤミ家の料理長のラセツ。

 彼はあまり料理を食べない私を心配して言ってくれたんだろうが……今はその察しの良さを発揮してほしくなかったなと。


「気にしなくていいわ、カグラが悪いもの――それより今日も美味しいわ、いつもありがとね」

「あざす。にしても、カグラ坊大丈夫ですかね」

「……知らないわ。来ないカグラが悪いもの」

「そっすか……でもあいつなら来ると思いますよ」


 慰め……というより、確信を持ったかのように言うラセツ。

 私もそれは信じてるけど……やっぱり連絡せずいなくなるってことが初めてで不安になってしまう。それに今日のために用意した振り袖も整えた髪も見せられなくて……ちょっと悲しい。


 そして時間が進んでいき、私への誕生日の贈り物を渡す時間になった。いろんな商人や貴族達、他にも私に関わったことのあるいろんな人や家に仕えてくれる皆がプレゼントを渡してくれるけど、やはり心に何かが突き刺さる。


 そんな時だった、刀を腰に差した誰かが急いでこっちに走ってきたのは。そんな彼は警備の侍に止められたが、顔を確認されたことによりこっちまで通される。


「っと間に合った? 間に合ったよな!」

「……カグラ?」

「すまんまじで遅れた。ほんっとうにごめん」


 息を切らしながらも私の目をまっすぐと見て、そうやって謝ってくる私の従者。

 そんな彼は……いつものラフな小袖の格好ではなく、しっかりとした黒い着流しを着ている。普段と違う彼にドキリとしてしまったが、彼は相変わらずそんな様子には気づかないようで言葉を続けてくる。


「そうだ似合ってるなそれ、綺麗だぞ」


 いつもなら絶対に言わないだろうそんな言葉をかけてきて、ニコッと笑い彼は懐から何か小さい木箱を取り出した。


「それ……何かしら」

「贈り物だな、もっと早く作れると思ったんだがめっちゃ時間かかってさ」

「貴方が……私に?」

「そりゃな、世話なってるし……それに俺そこまで薄情じゃないぞ?」

「……それは知ってるけれど」


 ……少し気まずい沈黙が流れ、私たちはお互いに笑ってしまう。

 普段ならこんな空気にならないけれど、どうしてか言葉に詰まって……なんといかむず痒い。それに彼からの初めての贈り物、それを意識するとどうしても胸が高鳴って、顔が赤くなってないか心配だ。


「ねぇ変じゃないかしら?」

「……何がだよ、それより貰ってくれるか?」


――――――

――――

――


 ……凄い緊張する。 

 今世初ともいえる位に心臓が脈打っていて、なんというか呼吸すらつらい。 流石にキザなことは出来る気がしないので箱ごと渡して自分で開けて貰うって流れが良い感じなんだが……これ、喜んでくれるだろうか?


 変だと思われないか……ちゃんと彼女に似合うだろうか、そんな言葉が何度も俺の中に渦巻き続ける。でも、もう渡すって言ってしまった以上……後には引けなくて。


「よし、受け取ってくれ」

「……えぇ、ありがとうね。カグラ」

 

 そうして箱を渡し終えれば、俺の中にどっと疲れが襲ってくる。

 ……いや本当に緊張した。だけど、こレで終わりではないのだ。


「……開けても、いいかしら?」

「ああ、どうぞお姫様」


 ゆっくりと箱が開かれる。

 彼女はその中に納められた装飾品を布の上から確認し、そしてそれをゆっくりと開いていった。

 俺も彼女をのぞき込み、改めて完成品を目にする。

 

「……これは、簪?」


 そこにあったのは一切の不純物がない可憐な純黒の彼岸花。前世にはなかった花の色で、花言葉としては――死がふたりを分かつてもという重いものだ。

 それには装飾としてネオンブルーの宝石が垂れ下がり、全体として彼女の手のひらに収まるほどの大きさをしている。


「これを私に?」

「だな……時間かかったけどキリヤに手伝って貰って作ったんだ。よかったら貰ってくれ」

「……本当に私にくれるの?」

「他に誰がいるんだよ……というか、恥ずかしいからあんまり聞くな」

「そう……そうなのね、私にくれるのね」


 何かをかみしめるように、彼女は少し唖然とした表情でそう言った。

 そしてふと、その瞳から何かが落ちる。

 それは一筋の涙であり……常に余裕な態度を崩さない彼女からは想像できないものだった。


「あ、えっと……もしかして嫌だったか?」

「ふふ、違うわよカグラ。これはね嬉しくて泣いてるの」


 泣かせてしまったことで狼狽えてしまったが、彼女はそれがおかしいのか涙を指で払って上品に笑った。

 そして、今まで見た中で一番と言って良いほどの綺麗な……そして、華やかな笑みを浮かべて。


「今日は、人生で最高の誕生日ね」


 そう言って俺の抱きついてきた。

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