第11話:簪作り

 馬に乗って屋敷に戻り、それから常世堂に足を運ぶ。

 ……完全に運がよかっただけだが、多分漆鬼の鼈甲が取れそうな海亀を倒すことが出来たからだ。

 移動時間で夜になってしまったが、一応キリヤは取れたらいつでも来いと言ってくれてたのでこの時間に足を運んでも大丈夫だろう。


「……キリヤー取ってきたぞー」


 とりあえず常世堂の戸をたたき、俺はそうやって声をかける。

 すると少ししてから戸が開き、俺は中に通された。


「思ったより早かったな、それで――戻ってきたってことは倒せたのか?」

「一応、それっぽいのは」

「まぁ、完全に見分けるのは無理だよな……で、どこにあるんだよ」


 そう聞かれたので、俺は蝕で包んでいた鬼甲羅の海亀をキリヤの前に置いて彼の反応を待つことにした。

 それを見た瞬間のこと、急にキリヤは黙ってしまう。……もしかして違うのか? とそう思ったのも束の間、ばっと俺の肩をつかんだキリヤが俺を揺らしてきた。


「おいおいどうしたらこんな上質な鼈甲を持ってこれるんだよ! は!? お前運がよすぎるだろ! しかも状態も完璧だぞ!? もしかしてこれを使って簪作れるのか?」


 そして興奮した様子で俺にそんな事を語ってきた。

 普段の落ち着いた様子の彼からは想像できないその態度、素材の状態の善し悪しなど分からないが……こいつがここまで興奮するなんてゲーム中でも見たことないし、相当いい素材なんだろう。


「任せろカグラ、俺はお前に完璧な簪を用意してやるよ」

「……それはいいだが、やる気出しすぎだろ」

「しょうがないだろ、こんな素材今後数百年は見れないぞまじで! 流石に専門家じゃないから分からねぇが、鑑定魔法を使う限り溜まっている魔力が異常だ! これ最低でも100年は生きた魔物だな!」


 キャラ崩壊レベルでそんな事を語り続ける友人。

 俺としては良い素材を用意できたことは嬉しいが、こいつの壊れっぷりを見るに変に改造されないか心配だ。最悪簪からビームを放つ物が出来るかもしれない。


「……ちゃんと簪作ってくれよ?」

「それは分かってる。歴史に残るレベルの作品に仕上げる予定だ」

「ならいいけどさ……そうだ。魔法を籠めた玉を造るんだよな、どうやるんだ?」

「別室に俺の俺の魔力を帯びた道具があるから、それにお前の魔法を籠めろ。今回のために特注で造っといた奴だからお前の魔法の出力にも耐えれるはずだ」


 それから言われたのはその道具の使い方や注意事項。

 別室にあるそれは、魔法を抽出する物を改造した物だそう……それにキリヤの固有魔法である造形魔法を籠めたものらしく、それを使えば宝石などに魔法を籠める事が出来るらしい。


「かなり疲れるだろうがお前ならなんとかなるだろ」

「……適当だな」

「いや、信頼してんだよ。で、今回使って貰うのはパライバ・トルマリンっていう宝石だ」

「初めて聞く宝石だな……聞くだけで高そうだが、いいのか?」

「お前の魔法に耐えられそうなうちにある宝石がこれしかなかったからな。それにこれは昔外国から取り寄せたやつで、数百年くらい倉にしまってあった物だし売るつもりなかったし、何より俺のだから気にすんな」


 それで渡されたのは小さいネオンブルーの宝石。

 知識がないから正確な価値など分からないが、魔法があるこの世界で宝石というのは触媒となったりするので前世より価値が跳ね上がっているのは知っている。

 それをシズクのためとはいえぽんと渡す友人に戦々恐々としながらも、いつかこの恩を返そうと決め俺は別室にある道具にこの宝石をセットし、籠める魔法を選ぶことにした。


「えっと出来るならシズクを守れる魔法がいいよな――それに俺が一番信頼できる奴がいい――それを考えると蝕一択だ」


 闇魔法である蝕は、汎用性が抜群な魔法であり盾に矛にもなる便利な魔法。

 魔法を吸収する盾、そしてオートで攻撃してくれる矛……その両方の性質を持つこの魔法ならこの先もシズクの力になってくれるはずだ。

 

「えっと確か宝石の説明書を貰ったんだよな」


 貰った説明書にはパライバ・トルマリンを触媒にした場合の効果が書かれていた。

 この石の効果としては、魔法を永続的に留める事が出来るものらしく……時間をおけば再度籠めた魔法を使えるという宝石らしい。


「やっばいな」


 見ただけで分かる反則的なその効果……それを見て改めてキリヤに感謝した俺は、絶対に失敗できないと悟り、細心の注意を払いながら蝕のみをその宝石に籠めることにした。 


 あいつからは時間がかかると聞いているが、誕生日会に間に合えばそれでいい。

 簪はあいつが作ってくれると言ったのだから、俺はこれに集中できるだろう。

 ……あいつは全力でやってくれるのだから、俺も頑張って絶対に最高の物をシズクに届けよう。そんな言葉を胸に秘め、俺の贈り物作りが始まった。

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