第二十三話 初めての魔術



「ほら!ついたよ!ここが私のお勧めの仲間探しスポっ……」


 楓は目的地に辿り着くと、手をそっちの方に差し出して、後ろに振り返った。


「ト…って!ぇぇぇぇえええええ!!」


(「ぐ〜り〜こ! チ・ョ・コ・レ・イ・ト!」)


 真後ろにはレイ達の姿は無く、代わりに後ろに豆粒サイズのレイ達があった。

 自分のステータスが高いおかげでギリギリ声が聞こえてくるが、普通の人なら聞こえて来ない位置だろう。


「ねぇ!なにしてんの!?」


(「え?ぐりこ。楓、この遊び知らない?」)


 レイならきっと声が届くだろうと思い、声を発する。時間差で、声が返って来たのでレイは声が聞こえているんだろう。

 ただ、声が聞こえているからと言って、この胸のイライラがおさまるわけでは無い。


「いや、知ってるけど……」


(「じゃあ、やる?途中参加可能だけど…」)


「いや、そうじゃ無いって!」


(「え?じゃあ何?」)


 レイがここに来る目的をそっちのけでぐりこをする事を目的にしているのに気づき、イライラが爆発した。


「………ここに来る目的、忘れたんですか?レ・イ・さ・ん??」


「あ、スミマセン」


 レイはその場から瞬時に土下座の体制で前に現れた。きっと、全力を使って跳んで来たんだろう。

 ちなみに、胡桃はまだ豆粒サイズの位置にいる。可哀想に……


「次から、もう何も手伝わないよ?」


「あの、本当に許してください。何でもお願い聞いてあげるんで…」


「何でも!?………分かった。その代わり、一生一緒にいてくれる?」


「うんうん、そんな感じね。」


「ちゃんと叶えてよ?」


「ちゃんと聞いたし大丈夫だよ。」


 楓はレイを許すと同時に手を差し出して、レイと手を繋いだ。ちなみに、胡桃は着々と近づいて来ており、いまは子供くらいの大きさの位置まで近づいて来て居た。

 そして、今、レイと楓が大きくすれ違っている事を二人はまだ知らない。


「今度こそみて!ほら!ここが私のお勧めの仲間探しスポットだよ!!」


 楓が手を差し出した方をレイが見ると、そこは路地裏で辺りを見渡す限りの落書きとゴミ。そして、仲間募集中の人達?(見た目の年齢は13〜57と様々で、服装はボロい物を来ている人は以外に少ない。)がこちらを別々の感情のこもった目で見て居た。


 一人は可哀想な子供を見る目で、もう一人は面白い物を見た様な目で、更にもう一人は奇怪な物を見る目で……

 その他の人々も、怒り、喜び等の様々な感情を目で表して居た。


「うっ………」


 勿論、レイにそんな目で見られても耐え切れる程のメンタルを持っているわけが無く………


 "レイはその場から逃げ出した"


 そんなテロップがでてもおかしく無いほど、レイは瞬足で逃げ出した。



***



 「ふぅ、危なかった…」

 

 先程の路地裏から反対方向に全力で走り出し、右へ、左へと、多くの道を曲がって来た場所で、後ろに誰かついて来てないか確認してから、一呼吸をつく。


 ん?俺の様子がおかしかったって?

 あぁ、まさかと思うがそのまさかだ。人間は仲間だと思いはじめた矢先、遂に人間にまでコミュ障が発生するとは…

 いや、どちらかと言うとあの目線が無理なのか?


 レイは自己分析をしながら、ある事に気づいてしまった。


「あ、みんな置いて来ちゃった。」


 楓と胡桃が脳裏によぎる。

 うぅ、楓がお勧めの仲間探しスポットを教えてくれたのに何で逃げてしまったんだ!くそ!おかげさまでみんなと離れて迷子状態だよ!!


 レイは心の中で、数分前のひ弱な自分に攻撃をする。ひ弱な自分は攻撃されているにも関わらず、顔色を一切変えず、こちらを見てくる。

 少しの間、目をつぶってそいつに攻撃し続け、こんな事をしている自分自身が馬鹿らしくなって来て、目を開く。


「う〜ん、どうしよ。さっきの所に戻りたく無いけど、戻らなくちゃいけなくて……」


 あの目線には対処法を用意してある。目を閉じていれば大丈夫だろう。今は二人の元に戻るのが最優先だ。楓になんて言われるか想像もしたく無い。

 ただそんな中、1番重要な問題が生じているのだ。


「てか、ここどこ?」


 それはここが何処か、自分がどの道からここまで来たか、それら全てが不明な事だ。


「うーん。ここまで来る時の道なんて、覚えてるわけないよ、あの時は焦ってたんだもん……」


 レイは独り言を呟き、辺りを見回して先程の路地裏、または、路地裏までの大通りに繋がりそうな道がないか探す。


「道は一個だけか…」


 見渡した結果として、今自分がいる場所が少し分かった。後ろにしか道が存在してないことから、裏路地の丁度袋小路の所に来てしまった様だ。


「この道を行くのが妥当だよね。そうはしないけど…」


 試すだけ試してみるか、そう呟くとレイは自分の手を強く握りしめ、手から血を流す。

 その流した血を指で触れ、もう一つの手の甲に魔法陣を描く。


「魔術は学園に入らないと教えてもらえないが、ステータスにスキルとして、暗黒魔術が書かれているなら使えるはず!」


 暗黒魔術……それは、名前の通り暗黒を操り、暗黒を生み出す能力である。例えば、[シャドウダイブ][ダークディバインド][────][ブラックアウト]等の技が使える。


「おっけ、魔法陣完成!このままここにマナを込めて……」


「[────]からの[シャドウダイブ]!!」


 暗黒魔術は魔法陣によって魔術が変わるわけでは無い。魔法陣は一つの魔術を使うのに、一個用意するだけでよく、技を変えるにはマナの流す量を変えるだけで良いのだ。


「お?……お!!」


 気づいたら、自分の姿を視認でき無い程、真っ暗な世界にいた。何も無いのに自分がどこに居るのかはわかる。その事からシャドウダイブが成功したのだと実感した。


「聞こえる。今まで聞こえなかった人々の声が……」


 自分が影の中に入っているからなのだろうか、それとも自分の周りにある影が声を吸収しているのだろうか。


「とりあえず、全方向(半径1km)を探そうか」


 レイは初めてのシャドウダイブだったが、その能力の利便性に気づいて居た。

 シャドウダイブとは影の中に入り込むだけで無く、その中で意識を動かす事で、他の影の中へと移動出来る能力なのだ。

 この魔術を初めて使用する人は移動出来ないと嘆き、シャドウダイブの利便性を理解出来ずに止めるが、レイはイマジナリーフレンドと会話をしまくって居たおかげで、意識の動かしかたを偶然にも熟知しており、その利便性に気づけていた。

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魔王候補者、TS異世界転移し、配信しながらコミュ力を磨きたい。 星七 @senaRe-

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