第二十二話 楓(サポーター志望)


 読者の皆様、申し訳ありません。少々風邪で寝込んでおりまして、続きを書けずにいました。


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「はぁ、楓だけじゃだめかぁ〜」


 家について早々に床に尻をつける。楓はというと、俺から離れない様に背中にしがみついている。


「そう言えば、レイは組合長と何の話をしてたの?」


 楓が尋ねる。


「あ〜、そっか。教えてなかったね…。私、色々とあって、モンスター討伐禁止令出されてるんだよ。」


「え!?何で?探索者なのに!?」


「実はかくかくしかじかで……」


 俺は楓に事の始まりから顛末まで伝えた。少し、装飾した部分もあるが……


「……なるほどね。それじゃあ、私は条件に合わない人間だったってことだね。」


「まぁ、言ったら悪いけどそうなっちゃうかな…」


 普通なら、否定した方がいいのだろう。肯定などしてしまえば、楓は悲しむに決まってる。

 だが、それでも自分の言葉を取り消す事はしない。この言葉を取り消してしまえば、それこそ本当に悲しみそうな気がしたからだ。


「それでも!私はレイについていくから!」


 楓は明るい声でそう言う。俺は思っていたのと違う反応に目を見張る。てっきり、泣き出すものだと思っていたからだ。


「私との約束を無かった事にするなんて、絶対に許さないんだからね!」


「………わかった。じゃあ、楓はチーム全体のサポートをしてくれる?」


 俺と同じ条件下なら、楓をパーティから追放する人が多いにいるかもしれない。だが、俺は楓をパーティに残す事にした。

 何故なら、楓は自分が普通に会話できる数少ない相手だったからだ。


「任せて、それくらいなら全然余裕だよ!」


 楓は笑顔を浮かべてそう言う。

 しかし、レイはそれと反対に不安そうな表情を浮かべていた。


「本当に余裕?」


 頼んだ自分が言うのもあれだが、楓がサポーターをするのは少し不安だ。勿論、信頼してない訳では無い。

 楓の特性上、サポーターとして働いた方が良いと思ったのだ。だが、現状、俺は楓のステータスを知らない。それに、もしかしたら前衛の方が向いているかもしれない。

 俺が危惧してるのは、そんな可能性だった。


「証拠でも見る?」


 レイの表情を見てか、楓はそう言うと自分のステータスをこちらに見せて来た。



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 名前: 楓(14)[不在の呪い]

 職業: サポーター

 レベル:46


 HP  470/470

 MP  200/200


 ATK   57

 DEF   60

 MATK   20

 MDEF   70

 AGI    200

 DEX   124

 EVA   220


★スキル


[逃走(大)][挑発][暗殺術(大)]

[身体強化][全言語完全理解]


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「………」


 レイは驚いて声が出せずにいた。理由は単純、想像以上のステータスだったからである。


 な、何だこれはっ!?レベル46!?おかしいだろっ!!特に、レベル!!何で俺より年下で37レベルも抜かされているんだ!?しかもこの敏捷性AGIはほぼ俺と同じくらいだぞ!?


「ね?これなら大丈夫でしょ?」


「あー、うん。余裕で大丈夫……納得……」


 レイは意表をつくものを見せられて、頭が上手く働かなくなり、楓の声にテキトーに返答する。


「本当に納得してる?今のレイ、テスト中で睡魔に襲われた時、見たいになってるけど……」


「うん、勿論。楓が元気って話でしょ?」


「絶対話聞いて無かったよね?」


「あはは……ごめん。」 


 楓は笑顔になると……

 レイのおでこに全力のデコピンを喰らわせた。


「痛った!!……あれ?ここは……天国?」


「天国じゃ無いよ!現実だよ!!何言ってんの!?」


「あ、そうか…確かに」


「意識、正常に取り戻した?」


「うん。」


 レイは首を上下に振りながら答える。


「じゃあ、もう一回聞くね。私にチームのサポーターを任せても大丈夫でしょ?」


「まぁ、うん。大丈夫だね。」


 レイは楓の質問に即答した。だが、それは別に楓のステータスを見たからでは無かった。

 楓は人から見られない。この特殊な能力がモンスターに効けば便利だと思っただけである。


「それじゃあ、胡桃を起こして早く向かおうか」


「そうだね!このままじゃダンジョンに入れないしね!」


 レイは胡桃の側に行き、胡桃を揺さぶる。


 ユサユサ……ユサユサ…………



***



「な、長かった……」


 胡桃を起こすのに、時間が沢山かかったわけじゃ無い。外に出る準備(スマホの設定等)に時間がかかったのだ。

 今や、スマホが表す19時。太陽も落ちきり、真っ黒な世界に明るい街が広がって居た。


「こんな時間だけど、仲間になってくれる人なんて居るのかなぁ」


「今なら、ダンジョン帰りの人も多い……いや、今、ダンジョンに入る人は居ないか。」


「仲間を探すのなら、穴場知ってるよ?私」


 楓がそう呟く。

 そして、レイは楓の方を振り向く。


「今の発言って、本当?」


「勿論、私を誰だと思っているんだい?私はこの……」


「分かった、分かった。じゃあ向かおうよ。時間も無くなっちゃうし。」


「むぅ……」


 レイは楓の話しが長くなる気配を感じたので言葉を遮った。これによって、楓はすぐにエレベーターの方向に向かってくれた。

 ………いや、拗ねたのか?

 楓がエレベーターのボタンを押す気配は一切無い。


「ごめんって許してよ〜」


「私をおんぶしたら許そう。」


「それなら、はい。」


 レイは軽々と楓を背負い上げて、エレベーターのボタンを押す。


「それじゃあ向かおうか、胡桃も…」


 後ろを振り向くと、睨んでいるのか、はたまた目を細めているのか、胡桃と目が合った。


「どうしたの」


「いや、僕にも楓って子が見えないか試してた。」


「まだ、胡桃には見えないかもね」


「ちょっと!それどう言う意味!?」


 組合長でも、気づかなかったんだ。今の胡桃のステータスじゃ見えるはずもないだろう。そう思って言ったんだけど……

 何故か胡桃を怒らせてしまったらしい。


「いや、何でもな〜い。組合長でも楓は見えなかったってだけだよ〜」


「いやそれ、組合長と僕を比較してない!?」


「そんなこと言ってないです〜」


 そんな感じで、レイは胡桃とワイワイ話していると、ピコンと音がした。どうやら、エレベーターがついた様だ。

 レイはすぐにエレベーターに駆け込むと、胡桃の方に向かって手招きした。


「早く、早く!」


「分かってるって!」


 胡桃がエレベーターに駆け込んでくる。

 そして、それを確認した俺は一階のボタンを押して、一階に向かった。



***



 一階に着くと、楓が背中から降りた。


「どうしたの?」


「私が案内したくって!」


「あぁ、なるほどね。」


 サポーターとしてなのかはわからないが、役に立ちたいって気持ちは伝わってくる。まるで、遊園地に入ったばかりの子供の様な笑顔がそれを表しているのだ。


「じゃあ、任せるよ。」


「任せるって、何を?」


 後ろから、胡桃が聞いてくる。


「あぁ、聞こえてなかったよね。楓が仲間を見つけ易い穴場まで、案内してくれるんだって。」


「そうなんだ…。ありがとうね、楓」


 胡桃は楓の方向が見えているかの様に、楓の方向に声をかけ、お辞儀をした。


「呼び捨てにして良いのは、レイだけだからね!!」


 うーん。この子はなんかズレてる気がするな……

 普通、「えっ、見えてるの?」くらいの反応はすると思うんだけど……


「楓は何て?」


「いや、特になにも?」


「おいっ!」


 うん、隠そう。こんな親切にお辞儀までしているのに、呼び捨てにするなとか言われてるって知ったら少し傷つくだろう。


「そっか」


「おい!なにも言ってなく無いぞ!」


「うんうん、そうだね〜。分かったよ〜。でも、そろそろ目的地まで向かいたいな〜」


「あ、うん。任せてよ!」


 楓はそう言うと、正面を向いてゆっくりと歩き出し、話を逸らす事に成功したレイ達は楓の後について行った。

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