第11話 急接近


 レイと胡桃の二人は裏道を歩き始めて20分が経ち、一直線しか無い道を何か発見が無いかと歩き続けている。


「ねぇ、胡桃?1階層の裏口って何でマップに記されてないの?」


 ふと思った単純な疑問だ。これは誰でも一度は考えるであろう事だ。


「それはね、2階層への道が見つかったからだよ。」


「2階層の道が見つかったから?」


 コメント欄を見ても一般常識と言っている。これは誰でも知っている様な事らしい。


「知らないと思うから教えるけど、モンスターの素材で出来た物は今までの武器の攻撃を無傷で受けきったんだ。」


「それで?」


「その事が発見された時、多くの国がダンジョンに人を送った。勿論、日本も。だって、この素材があればいち早く強い国に成れるからね。」


 そこから、どうやって2階層に行く道しか書かれなかった事に繋がるのか気になっていると、胡桃が「そこでね」と言葉を強めた。ここが重要な事らしい。


「世界各国、色々な所でダンジョンに入った人から下の階層を見つけたと、国に連絡が入ったんだ。そこでね、国々は下の階層にも人を送らせた。当時はダンジョンについて未知だったから、人を送る事でしか情報を得られ無かったんだ。」


 へぇ、16歳の子供でもダンジョンに入れるのって、ダンジョンの情報を得る為だったのか。


「2階層のモンスターの素材が手に入った時、多くの国は内密にそれを使って実験を行ったんだ。」


「内密に?」


「そう、内密に。例えば、最強になれるかも知れない方法を自分だけが知ってる状況で他人にその方法を教えたい馬鹿はいないだろう?」


 確かに、言われればそうだ。情報を秘匿にしておいた方が便利な事が多い。

 なぜだか、結果が分かってしまったかも知れない。


「実験の結果、1階層の素材よりその素材の方が硬い事がわかった。そして、下の階層に行くたび、その階層のモンスターの素材の方が前階層の素材よりも硬く、有用性がある事が判明したんだ。つまり…」


 そこで、1階層から2階層までの道しか書いていない地図の意味がわかった。


「「下の階層に行く道以外を書くメリットが無い」」


 二人の声がハモる。


「うん。あってるそう言う事だよ。」


「じゃあ、下の階層の素材の方が高く売れるのって…」


「モンスターが危険なんじゃ無くて、素材が良いからだね。」


 胡桃の話に夢中になってコメント欄を見ていなかったが、コメント欄を見ると皆、同じ内容を完結に書き綴っていた。中には『今まで、コメント見てなかったでしょ』と言う確信をついたコメントも目についた。


「教えてくれてありがとう、胡桃。」


「どういたしまして。」


『てぇてぇなぁ。』

『こんな残念美少女と純愛しやがって!胡桃、許すまじ!』

『これは兄妹。』


 うーん、姉弟でも、恋人でも無いんだけどね。てか、てえてえって何?手手?おてての事?


「えっと、コメントの皆んな期待してる所悪いんだけど胡桃は女性だよ?」


『!?』

『百合!?』

『百合!?!?』

『てぇてぇが増して来た!!』

『僕でもチャンスがあるって事ですか!?』


 コメントがありえない速度で下から上に進んで行く。

 あれ?これ視聴者数3000って本当?10000人の時と遜色ない速度で動いているんだけど…。


「ねぇ!それ教えないでよ!」


「あ…、ご、ごめん!教えちゃいけ無いとは知らなくて!」


「もう…、…ばか………」


「ねぇ〜!ごめんって!!許して!何でもするから!!」


「許さない。」


 その後、レイは胡桃に許してもらうまで10分はかかり、許して貰った頃に配信画面に変化が訪れた。


「ここって……2階層の入り口?」


「そう…、みたいだね。何でここにも……は!?まさかループして、戻ってきた?」


「まさかそんなわけ……、あるかも」


 もし、1階層がループしてるとしたらとんでも無い発見だ。それこそ時空についての研究が始まってもおかしく無いレベルだ。

 だけど、仮にこれが新しい2階層への入り口だとしてもすごい発見だ。


「ちょっとコメント欄見てみる。」


 もしからしたら、新しい考えを持ってる人がいてもおかしく無いからだ。


『これ、地図に残さなかった理由として、場所が遠くで効率が悪かったからじゃ無い?』

『もしかしたら、2階層じゃ無くて別の所に繋がっているかも!?』

『世界ゲーム化現象でのダンジョンだから、もしかしたらボス部屋とかあってもおかしく無いかも。』


 人それぞれ色んな考えがコメントに書き込まれていたが、その中で共通してるのは中に入らないと何もわからない事だ。脳筋とか思われてもおかしくないが、事実だ。


「うーん、特に知ってる人もいなそうだから、一緒に行ってみようか。はい。」


「えっ?何してるの?」


 何って、手を繋いで欲しくて手を出しているだけだが、おかしかっただろうか。


「手、繋いで。」


「何で?」


「何かあった時、胡桃が心配だから。」


「ああもう!本当にこの子は!」


 そう言って胡桃は下を向いたので、手を勝手に取り、コメントにも目を通す。


『この天然イケメンが!』

『天然イケメン美少女とか最高だろ!』

『言葉足らずなのが良い……。』


 え?俺ってそんなイケてる?あっ、やっぱり?わかったてた?知ってるよ、俺がイケてるのはやっぱり生まれが良かったからだよな〜。


「いや〜、私ってイケてるよね〜。自分でもわかるんだから〜。」


 更に拝めてくれると思い、俺が再びコメント欄を確認しようとした時、先に目につくものがあった。視聴者数だ。

 視聴者数が物凄い速度で減っていっているのだ。これを見てわかった、調子に乗ったらダメだ。


「イ…イキってすみません。こ、今後、イキらず、調子に乗らないので、ゆ…ゆ…許してください!!」


「え、急にどうしたの?」


 胡桃と繋いでいた手を離し、慣れない謝罪でドゲイザーを披露する。正直、本気で許して欲しいので1時間はこの姿勢でいるつもりだ。

 3分経った時に、胡桃から声がかかった。


「いつまでその姿勢でいるつもりなの?」


「皆んなが許してくれるまで。」


「えっとどうしてこうなったのか教えてもらっても?」


「調子に乗ったら、視聴者数が減りました。勇者が走るくらいの速度で。」


 胡桃以外伝わらないと思うが、本当にそれくらいの速度で減ったのだ。あぁ…、今でも3000人が2500人になった瞬間を覚えてる。


「なるほどね。じゃあ、その体勢でいる方がもっと視聴者が減るかもね。」


「何で!?」


「視聴者数が減ったのはイキったから、コメントの皆んなからのちょっとした仕返しでしょ。それに、これからこの下へ向かう道へ行こうと言う所で1時間も土下座されたら配信みる気無くすでしょ。」


 この的確な指摘はレイにとって配信経験者の先生の様に感じるものであった。


「胡桃先生!私、一生付いてきます!!それと、コメントの皆んなごめんね!これから下に向かうから許して!」


『許す』

『許す』

『付き合うなら許す』


「皆んなありがとう!!胡桃もありがとう!」


 でも、一人だけ許してくれなそうなコメントがある。

 うーむ、どうしたものか。あっそうだ胡桃に下の階層に付き合ってもらう様に言えば良いのか!


「胡桃、ちょっと聞いて欲しい。」


「どうしたの?ジェーンドゥ?」


「私と(下の階層まで)付き合って欲しいんだ!」


 コメントよ!これで良いか!?許してくれるよな!


『さっきの一生付いて行くってそう言う……』

『これはギリ許されるか(同性婚が)』

『今からでもまだ間に合う恋愛はありますか?』

『こんな美少女にそれされたら皆んなはいとかうんとか言うよ。』


 オッケー!!ギリ許されるらしい!最高!!


「え……。良いの?僕で?……」


「私は大丈夫だから、確認取らないとでしょ?」


 胡桃が突如として泣き始める。やっぱ、連れて行くのはやめておいた方がいいか……。何かあった時、守り切れる保証だって無いしね。


「やっぱやm「うん。付き合うよ……。」ん?」


 えっと、じゃあ何で泣いてるの?目にゴミでも入ったかな?


「目にゴミでも入った?大丈夫?」


「ううん。大丈夫。急だったから心の整理が間に合わなくて涙が出ちゃって…。」


「やっぱり今からでも(連れて行くのは)やめとく?」


「何で!そんな事言わないで!僕の覚悟を無駄にしないで!」


「なら、良いけど……」


 流石にその勢いで言われると、凝縮してしまう。でも、胡桃が良いなら良いよね?

 そして、俺たちは下の階層へと進むのであった。

 ちなみに、このすれ違いに気づいた人はいなかった。

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