第12話 一生の友達?(胡桃視点)


「私と付き合って欲しいんだ!」


 え?本当に?聞き間違いじゃ無いよね。僕の事が好きなの?


「え……。良いの?僕で?……」


いや、多分違う。この子の事だからこの関係を一生続けたいって意味で言ってるんだろうな…。

 多分、私とこの関係を一生続けて欲しいと言ってるんだろう。


「私は大丈夫だから、確認取らないとでしょ?」


 うん。知ってたさ、レイは恋愛の恋の字も知らないんだから。僕はあの時助けてもらってから、レイの行動でドキドキする事が多くなってた。勿論、物理的にもね。だからかな、一生友達止まりは嫌って心が叫んでるんだ。


「やっぱやm「うん。付き合うよ……。」ん?」


 それでも、この子が恋愛の恋の字を知るまでは一生その関係で良いかな。変に姉妹とか師弟とかの関係よりかは一番恋人に近いし。


「目にゴミでも入った?大丈夫?」


「ううん。大丈夫。急だったから心の整理が間に合わなくて涙が出ちゃって…。」


「やっぱり今からでもやめとく?」


「何で!そんな事言わないで!僕の覚悟を無駄にしないで!」


 何でこの子はこんな簡単にやめとくとか言えるのだろうか、この子にとっても重要な事なのに。


「なら、良いけど……」


 そして、俺たちは下の階層へと進むのであった。



***



 下の階層へ行く物だと思っていたが、違かった。それこそ、二階層の入り口に似てるものの、下へ向かう坂道は最初だけで途中から平坦な道に変わりそのまま奥につながっていた。

 奥につくと大扉が存在し、一旦立ち止まる。


「ここは何だろうね。」


「うーん、何だろ。コメントを見る限り、ボス部屋か!?って言ってる人が多いけど。」


「ボス部屋かぁ、可能性は多いにあるけど、今まで発見されてなかったから、違うと思うけど…。」


 うーん、逆にここがボス部屋だったとして、国が発見してないはずがないと思うんだけど、なんかここおかしい気がする。


「とりあえず…。入ってみるしかないよね?」


 胡桃は大扉に手をかけ押そうとする。


「待って待って!胡桃からじゃ無くて私から行かせて何かあった時私のステータスなら無事だと思うから。」


 レイは立ち位置を胡桃と変更した。


「それじゃあ開けるね。」


 レイがそう声を発した時、レイの視界画面左下にあるコメントが書き込まれた。


『今からそちらに向かうので開けるのは待っていただけませんか?』


 勿論、そのコメントにレイが気づいているはずもなく、二人はその部屋の中に入っていってしまった。


「なんかここ、暗く無い?」


「確かにまるでライトが付いてないみたい。あれ!?本当について無いんだけど!」


 目の前でレイが慌て始める。同時にカチッ、カチッと音がしてレイが声を出す。


「付かないんだけど……。」


「一旦扉の前に戻ってつくか試してみる?」


 僕は後ろを向き、入って来た方を向くと、扉が勝手に閉まっていた。扉を開こうとどうにかこちら側に引っ張るが、一向に開く気配が無い。どうやら閉じ込められてしまった様だ。


「ごめん、開かないみたい。ジェーンドゥも試してみる?」


「試させて!」


 僕の前に来たレイは扉をこちら側に引っ張り始める。ギギギっと音がしたが扉の方は一切微動だにしない。

 音がした方はどこか探っているとボッ、ボッ、ボッと音がしてそこが部屋全体が明るくなった。


「なんか勝手に明るくなったね。まるでこの部屋が自我を持っているみたい。」


「確かに、出られなかったら餓死しちゃうし、それが一番怖いパターンかも知れないね。」


 部屋全体が明るくなって奥まで見える様になった訳だが、奥には行きたく無い。

 なぜなら奥を見ると、そこには何者かが座っていたであろう玉座とその後ろに飾られてある沢山の剣が見えた。ゲームの世界ならば、この奥に行った瞬間ボスが出現するだろう。そう、ゲームの世界ならだ。

 世界ゲーム化現象でダンジョンが発見している今現在、基本ありえなかったゲームの世界のあるあるが通用してしまうのだ。


「胡桃、コメントを見る限り、少し進んだら強いモンスターが出てくるかも知れないからここにいて欲しい。」


「嫌だ。僕は君に魔法を使ったことは無いがヒーラーだ。モンスターに一番狙われる立場なのを忘れないでくれよ。」


「わかった。だけど、絶対に僕の近くにいてね。」


「了解!」


 いつも通り、レイが先陣を切って前に出る。僕はと言うと、レイの後ろにピタッとくっついてついていっている。

 部屋の中央に着いた辺りで、玉座の上、天井に大きな穴が空き、巨大なゴブリンが落ちて来る。それと同タイミングで、後ろの武器がある方に、スモールゴブリンが大量発生する。数で言えば約100体はいるだろうか。


「胡桃!気をつけて!」


「了解!スモールゴブリンの移動速度は遅いから僕でも余裕で避けれるから気にしないで!」


 余裕で避けれるのはスモールゴブリンまでだ。目の前の凄い威圧を放つそいつとても大きいゴブリンはおそらく僕じゃ避けれない攻撃を仕掛けて来るであろう。


「ジェーンドゥ!提案なんだけど、スモールゴブリン100体は僕に任せてくれないかな?」


「100体、数が多いけどいけるのか?」


「目の前のそいつ、ゴブリンキング以外なら囮になれる!」


「ゴブリンキング?まぁ、わかった。胡桃が回避が得意なのは知ってるから、100体のチビは任せた。私はこいつを倒せば良いんでしょ!」


 レイはそう言うと、凄い速度でそいつに攻撃を仕掛けた。僕も早速、囮になるためにヒールを唱え、百匹のゴブリンを引きつけた。

 スモールゴブリン共はぞろぞろと歩幅を揃えて歩いて来る。まるで軍隊だ。


「任せてとは言ったけど選択間違えたかも、全員武器持ちで、歩くタイミングが同じ、まるで隙がない。」


 奴らがこっちに来るまでの間、冷静に相手の観察をする。そいつらは剣を持つ奴が前にいたのに、僕が止まっているのを見て、陣形を変えた。きっと大業を警戒して、陣形を変えたのであろう。


「あはは、まさかゴブリンが陣形を組むなんてね。」


 大業を警戒しているゴブリン共の陣形は槍、盾を持つものが前衛、剣を持つものが中・後衛にいる様だ。ゴブリンが弓を持っていなくてよかったと思う。


「さてと、どうしたものかな?」


 警戒している所残念だが、生憎、僕は回復魔法以外使えなくてね。時間稼ぎにはちょうど良いが、ゴブリン達に、その事が気づかれてもまずい。こうなったら──!!


「とりあえず、それっぽい中二病詠唱でもするか。不本意だけど!」


 一人ゴブリンの大群の前で、回復魔法を用意しながらテキトーに考えた長い詠唱を唱える。これによって僕の全身は光り輝いて、何か大技をする様に見えるだろう。

 

「ギギィィィィ!!」


 そんな事を考えてるのも束の間、ゴブリン共は詠唱を終わらせない様にと走ってこちらに向かって来る。


「残念だったね!!ここで終わりだ!エクステンドリザレクション、ヒール!!」


 ヒールの魔法を使い、ゴブリン共は一瞬で防御態勢になった。10秒後、何も起こらなかった事に気づいたゴブリン共は全員でこちらに槍、剣を向けて突撃して来た。


「ふぅ、間に合った。」


 だけど、もう遅い。胡桃が時間稼ぎをしている間に、既にゴブリンキングはレイが討伐し終わった後であった。

 レイは剣を構えてゴブリン共を蹂躙し始める。王を失ったゴブリン共は既に士気がなくなっていた様であった。

 そして、1分もしないうちに、ゴブリンは一匹残らず消え去った。


「終わった終わった、ステータスも上がったんじゃ無いかな〜!」


 レイは気楽そうにしているが、胡桃はそうでもなかった。なぜなら、自分一人で何もできなかったからであった。


「きっと僕が居なくてもレイは無事だったんだろうな」


 レイに聞かれてないところでボソッと呟く。胡桃は一人、自分の手を見ながら決意をする。


 僕は強くなりたい。レイの隣に並べる様に!!ただの足手纏いになりたく無い。友達と言う名のお荷物なんかにはなりたく無い!!


「どうしたの?胡桃?」


「いや、ちょっと敵が多くてびっくりしてたんだよ。」


「確かに、ちょっと多かったね。そう言えば聞いてよ〜!ボス部屋に来てから視聴者数が6000人になってるの!!もうそろそろ配信止めた方が良いかな?緊張して来たんだけど……。」


「3000人で緊張しなかったのに今更それで緊張するのw?その人達はジェーンドゥと違って、普通の人達だと思うよ。」


 レイは「普通の人達なら大丈夫か」と言いホッと息をつく、どうやらちゃんと安心させる事が出来た様だ。


「ねぇ、ジェーンドゥ、あとで話したい事があるんだけど「バンッ!!」え?」


 音のした方を振り向く、音のした方。それは、扉が閉じていた所だった。

 そこを見てみると、扉が勢いよく開いた様に、壁にめり込んでいてた。同時に、真上から砂がポロポロと落ちて来る。その様子は今すぐここから出て下さいと扉が言っている様だった。


「胡桃、少し不味いかも。」


「え?急にどっ「ちょっと抱き抱えるね」え//」


 レイが急に僕の体をお姫様抱っこをして来た方向に向かって走って行く。

 レイが走って少しした所で、ダンジョン内が揺れている事に気づいた。ただ、揺れている訳では無く、何かが崩れて落ちて来ている振動の様だ。何かがおかしい気がする。

 レイが走っているのも、これにいち早く気づいたからだろうか。


 こんな僕にも二つだけわかる事がある。

 この揺れは移動と共に小さくなっていっている。

 つまり、レイがお姫様抱っこをしてくれなかったら、あそこで死んでた可能性があったかも知れないと言う事だ。

 そして、ボス戦でも35階層でも、今でも、僕の危機から助けてくれた彼女、レイは僕の一生の友達であると言う事だ。

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