第9話 腹減りと初配信


 現在、レイは第二階層に到着し、胡桃に案内してもらいながら前を進んでいる。


「ふんふ〜ん。」


 俺は鼻歌を歌いながら、前を進んでいく。後ろには胡桃がライトを持って、前の方を照らしてくれている。

 ちなみに、レイがライトを持っていない理由は単純で、手が疲れるからと言う理由だ。


「そう言えば、何で僕が後ろなの?」


「ヒーラーって基本後ろに居るもんじゃないの?」


「えっと、知らないよね。この世界でのヒーラーは囮も兼ねているんだよ。」


「へ〜。じゃあ、後ろに居てね。」


 囮も兼ねていると言ったが、ヒーラーはヒーラーだ。失えば大きな戦力差を生む。魔族と人間は長い歴史の中で、

大きな戦争を何回も繰り広げているが、その戦争で魔族は一度も勝った事が無い。人間にはヒーラーが、回復魔法があるからだ。

 ここの世界ではヒーラーの有用性を分かっていないのかと疑ってしまうくらい愚かな事をしていると思う。

 

「そう言えば、胡桃、飯は食べた?」


「昨日の夜、レイが寝た後にね。今日はまだ食べてないけど。」


 俺が書類などを胡桃達に任せていたせいで、昼食が食べれてないんだろう。今すぐに引き返して、ご飯を食べさせた方が良さそうだ。


「昼食が食べれてないなら、今すぐ引き換えそう!」


「えっ、良いの?……でもお金が……」


「私が奢るから!忘れたの?配信者試験受けずに配信者なったから、お金沢山!」


 レイはこの状況を昨日のホテルでの借りを返す事が出来るチャンスだと思った。ただ、胡桃は家も貰い、ツルの恩返し以上の事をされて、状況がうまく飲み込めていない様だった。


「じゃあ帰ろうk「うわぁ!!」レイ!どうしたの?」


「し、視聴者数が……10502人になってる……。」


 ふと左下を見ただけだ。たったそれだけで、恐怖と羞恥心が同時に芽生えた。

 レイはこの10000人の中に魔族が一人でもいると思うと、顔が真っ赤になっていった。


『やっと気づいた?』

『配信開始20分でコメントに気づく配信者初めて見た。』

『初見です!今後ろでストーカーしてます!』

『↑通報しました。』

『初見です!強くて可愛いですねこれからも応援させて下さい!』


 コメントは俺の恥ずかしさを知らずに沢山流れてくる。

 俺の脳はもうショート寸前まで差し掛かっていた。


「あわ…あわわ………あわわわわ……」


「え、ちょっと気絶しそうにならないでよ!」


 胡桃が倒れそうになった俺を受け止めてくれた。おかげで、意識がだんだん戻って来た。


「あ……あぁ、ありがと、胡桃。」


「僕だって、10000人に見られてるんでしょ。配信者の君が10000人のプレッシャーに先に負けたら僕も耐えきれなくなるんだから、起きててよね。」


「……うん、頑張って見る。」


 そう決意したのは良いものの何を話せば良いかわからない。何の話をすれば良いんだ?自分のステータスか?いや、それは切り札にとっておく事にしている。じゃあ元の世界の話とかか?うーん、何を話せば良いんだ〜!!


「……えっと、その、何を話せば良いですか?」


「え?」


『え?』

『まさかのコメントに聞いてくるタイプ』

『じゃあジェーンドゥさんの自己紹介から頼んます。』

『自己紹介からで』


 自己紹介か、話すのは名前と好きな食べ物で良いかな。

って言うか、何で胡桃は「え?」って言ったんだろう。そんなにコメントにする事を聞くのがおかしいのか?


「えっと、わ、わtしはレ、いや、ジェーンドゥと言う名で…活動し始め…ました。好きな食べ物…は今の所無いです。」


『将来の夢は?』

『配信者になってやりたい事は?』

『住所は?』


 え、えぇ!自己紹介ってそんなに長かったっけ?まぁ、順番に答えて行けばいいよね?


「将来の夢は……1秒でも長く生き延びて、魔王になる事…です。」


 魔王候補者だから、元の世界に戻ったら待っているのは楽しく無い学園生活に、自分の死だ。だから、生き延びたい。魔王になって、生きたまま卒業したい。


『急に話が重くなったな……は?魔王?』

『魔王ね〜。昔は俺も目指してたよ。』

『まぁ、無理だったからな俺は。』

『成るのは不可能に近いしなぁ』


 やっぱり10000人も入れば俺と同じ境遇の魔族も見てるみたいだ。他には魔王候補者になれなかった人も多く見かける。

 この魔王候補者制度、参加したく無い魔族は別の魔族に魔王候補者と言う肩書きを譲渡しても良い様にするべきだと思う。


「あはは、ごめんね視聴者の皆んな。この子ちょっと訳ありの中二病で……。」


「胡桃?中二病って何?」


「中学二年生、いや、13〜14歳が黒い歴史を作ってしまう病だよ。」


 あぁ、だからそれくらいの時、暗黒魔術についての本ばっか読んでいたのか。あれは病だったのか治って良かった。

 ただ、それは良いとして、胡桃の口ぶり的に今の俺が中二病みたいな事を言っている気がするのは気のせいか?


「私、もう16歳!中二病治った。」


「うんうん。中二病治ったんだね。偉いね〜。」


『兄妹みたい。』

『中二病治った→魔王になりたい(?)』


 何だこいつら。別に普通だろ。しかも、兄妹じゃ無くて

だからな。友達である事に大きな意味があるからな。


「次は配信者に…なってやりたい事ですね。」


「確かに、僕も気になる。」


『ktkr』

『wktk』


 配信者になったのは人気者になる為なんだけど、急にやりたい事と聞かれても特に思い浮かばないのだが。


「うーん、あ!モンスターを沢山倒します。」


「うんうん、そうだね。君らしい事この上ないよ。」


『言い切ったね』

『まぁ、探索系配信者としては無難だね。』

『胡桃に呆れられてて草』


 うーん、無難過ぎたか?もっとなんか良い事を言いたいんだけど……。あ、あった。


「後!冒険が…したいです」


「冒険かぁ、人類未到達階層なら出来るだろうね。」


『こっちは言い切らないのね』

『人類未到達階層とか配信許可降りなくて草』

『やりたい事秒で出来ない事判明して草』


 あ、未到達階層は無理なんだ。また、クミアイ長に頼み事してみようかな?


「ジェーンドゥなら全階層配信許可降りてるから行けるでしょ?」


「あ、未到達階層でも適応されるの?あれ」


「うん、適応済みだよ。」


『!?!?』

『!?』

『全階層配信許可!?』

『超大型の期待の新人キターー!!!』


 やっぱり、特例って少ないのかな。10000人も見てて、一人も居ないなんて。


「で、最後に住所でしょ?住所は胡桃が答えてくれない?」


「いや、言ったらダメでしょ!!何考えてんの!?」


『www』

『wwww』

『ここ本当にダンジョンか?ww』


 え、住所って言ったらダメなんだ。あぁ、そうかこの世界の人間を信用し切ってたけど、この世界にも闇討ちはあるんだよね。


「……言う事、なくなっちゃった。」


『いやいや、全階層配信許可について聞きたいんだが?』

『まだ気になる事沢山あるんだけどw』

『↑それな』


 コメント欄は凄い速度で動いていくが、ほぼ皆んなが全階層配信許可が降りた事について知りたい様だ。ステータスは教えないけど特例が降りたことくらいは言っても良いよね。てか、なんか忘れてる気が…。


「じゃあ、皆んなが……気になってる事に、…答えてあげるよ。」


『待ってた!』

『wkwk』


「ジェーンドゥ、ここで立ち止まっててどうしたの?せめてセーフティゾーンに向かわないと。」


「そう言えばそうだった。てか、地上に出ないと、胡桃お腹空いたでしょ?」


「でも、10000人が見てるよ?僕の為に地上に出たら申し訳ないと言うか……」


「じゃあ帰りながらコメントに答えれば良いでしょ?」


 我ながら天才的な返答だと思う。どうせこのまま潜っても胡桃が餓死してしまうだけだっただろう。


「で、えっと、コメント欄の皆んな、全階層配信許可を貰った経緯何だけど……」


 レイはスタンフさんの救助のお礼で組合長と会ったこと、そして、ステータスを見せて組合長から全階層配信許可が降りた事を話した。身分証明書の件は話そうとしたが、胡桃に止められたので話せなかった。


「まぁ、こう言う流れで全階層配信許可が降りたんだよ。」


『結構凄いこと言ってた気がするが、スタンフ救助で全てもってかれたわ。』

『俺が配信しながら見たあの老婆はこんな美少女だったのか』

『本日の若返り配信はここですか?』

『↑くっそ失礼で好きww』


 おうおう、何だこいつら。喧嘩売ってるのか?あの時の姿を見たら老婆だとは思う。だが、今、こんな美少女に老婆、老婆言うのは違うだろ。


「ぷっちーん!キレちゃいました〜!配信終わっても良いんですよ。今、ここで。」


「あっははは!!ぷっちーんって!ははは!ジェーンドゥ、君って本当に面白いよ!視聴者数10000人でビビっていたのが嘘みたいだ!」


 確かに、言われたらそうだ。気づけば言葉が詰まらなくなっている。これが人気者になる第一歩なのかも!

 ふっふっふ!やる気が出て来たぞ!これからも胡桃と一緒にダンジョンに出掛けてもっと冒険をするぞ!!!

 レイは調子に乗りながらも、コメント欄に翻弄され、胡桃と話しながら地上に出るのであった。

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