第8話 面倒事は頼み事で突破します。


 冒険者組合で良いものが貰える。待遇もきっと良いんだろう。

 そう思ってた時期が私にもありました。


「何で私一人だけ隔離されるのぉ〜!?」


 俺は今、少し広い個室で知らない人と机越しに対面していた。

 ここに来て、異世界から来たのが仇となったようだ。

事の顛末はこうだ、俺たちが冒険者組合に入る。    ↓

 →入り口に入って、職員さんにスタンフ助けをした事を伝える。

 →そしたら、身分証明書を要求される。が、勿論、俺は持ってないので「無い」と言う。

 →少し待っててくださいと言われ、数分した後、俺だけこの少し広い個室に案内され、現状に至ると。

 俺、ダンジョンの中で過ごしてた方がまだマシだったかも。


「あの〜…、私は何をすれば良いんでしょうか?」


「少し、顔写真を撮らせて頂きたいのです。」


 俺の世界にも写真はあった。カシャパシャ※カメラで何かを撮り、それをマナで現像した物が写真だったはずだ。だが、使用用途は基本、犯罪者とか、危険人物の顔を街中に晒す為に使われてた覚えがある。

 だから、顔写真だけはダメだ!そんな事されれば、魔族とバレてしまった際に、指名手配されやすくなってしまう!顔写真を撮られるのだけは絶対に死守しなければ!!


「あの〜…、えっと、その、顔写真だけは何とかならないですかね?」


「う〜ん、無理ですね。貴方の唯一の本人確認の方法なのですから。」


 スーツを着た職員の人が俺の正面に立って答える。何で顔だけ写真を撮るのが本人確認なんだ?と思ったが、マリとゴウが脳裏をよぎった。

 あ、そうか昨日の人に顔写真を送りつけて判別してもらおうとしてるんだな。なんて言うか、その、昨日の髪型とか、酷かったし。


「……分かりました。」


 俺は顔写真を、撮ってもらう事にした。そのスーツの職員は了承を得たのを確認し、インベントリからカメラを取り出した。


「真顔になってて下さいね〜。」


 俺は何も考えず、真顔になる事にした。ただ、目線だけは勝手に動く。対面で写真を撮るのは良く無いと思う。


「はい、取れました。え〜と、目線だけカメラを向いていないのですが、まぁ、ギリギリ大丈夫でしょう。」


 やはり、目線がカメラの方向を向いていないのはバレていた。まぁ、セーフだったのでよしとする。

 職員の方を見るとスマホと現像前の写真を交互に見ているようだった。


「何をしてるんですか?」


「ちょっとね。あの配信のと顔を見比べてるのさ。」


「あの配信?」


 あの配信とは何なのだろうか。俺はまだ配信をしていないはずだが。


「あぁ、知らないのかい?スタンフさんが配信を付けたまま瀕死になってたから、犯人と救世主の顔が配信上で公開されちゃったそうだ。何なら、一人は本名公開までされちゃったしね。」


「え、じゃああの時配信がついてたなら………スゥ……」


 俺が酷い格好をしていたのが世界に公開されたってことか。そう考えるとどんどん心拍数が増えていく。


「うん、偽物も増えるだろうね。」


「え?偽物?」


 想像と違う事を言われ、心拍数が急に落ち着いてくる。だが、その偽物についても気になった。


「そう、偽物。冒険者組合がお礼の品を渡すと配信で言ってたじゃ無いか。それで、朝入り口の鍵を開けた瞬間に「私が二川胡桃です。」て言って来た人が複数いてね。それで身分証明書が必要になったんだよ。」


「だから、こんな本人確認を?」


「君の場合は別だ。本当の君なら、君は身元不明で身分証明すら出来ないじゃ無いか。」


 あぁ、確かにそうだ。今の自分を証明出来るものが一つもない。それに、名前だって無い。言わばこの世界の不審者だ。


「うーん、確かに…。」


「あ、ちょっとこっち向いてくれないかな?」


 俺は考え事をしていて、いつの間にか下を向いていたようだ。俺が顔を上げるとパシャリと音がした。


「ちょっと!!何したんですか!今!」


「ごめん、目線を逸らして無い写真を取りたくてね。」


「じゃあ写真を撮る、の一言ぐらい声をかけてくださいよ。」


「でも、声をかけると君は目線を逸らすだろう?」


「ゔ……」


 図星をつかれた。それはごもっともな意見だ。現に前科がある。


「あ!君、顔が同じだ!そう言えば服装も同じだ!君、髪の毛を整えたのかい?今の君は配信に映っていた時の何十倍も可愛いよ。」


「え、あ、あの、本物です…。あの…可愛いって、言ってくれて!ありがとうございます!あの、初めて言われました!」


 急に可愛いとか言われると!びっくりするって!スゥ……はぁ…、ふぅ……今度胡桃にも言ってみよ。


「君が配信をしたら、もっと言われると思うな。」


「そうですか?…そうですよね!私、美少女ですよね!」


「やっぱり、何でも無い。」


「何でですかぁ〜!煽てておいてそりゃ無いですよ……」


 本人確認が終わり、あの子二川胡桃の所へ向かおうかと言われ、足早にその場を去った。何でか?単純にこの職員の男性、可愛いとか簡単に言い切ったから、ちょっと恐怖を感じただけだ。



***



 入り口付近のカウンターに戻って来た時、長椅子に座っている胡桃の姿が見えた。


「あ!おーい!胡桃!私、本物だったよ!」


「あ、うん。よかったね……。」


 そこにはさっきまで生活魔法を優しく教えてくれた二川胡桃の姿は無く。人生で一番絶望している人の顔をしている二川胡桃の姿があった。


「え?どうしたの?」


「本物とか言ってるって事は知ってるんでしょ?僕の本名が世界中にバレた事。」


 あ、そういえばそうだった。こいつ、名前バレてるんだった。


「まぁ、元気出してよ。友達として、出来る事はするから。」


「……わかった。沢山手伝って貰うから。」


「ごめんやっぱむ「無理って言わないよね。」…はい。」


 俺が何を手伝わされるのか、分からない恐怖を抱えた所で職員から声がかかった。


「そろそろ、話は終わりましたか?」


「は、はい!」


「それでは、組合長がそこの部屋でお待ちですのでどうぞお入りください。」


 クミアイチョウか〜。どんな鳥なのかな〜。楽しみ。


「失礼します・こんにちは」


 ドアを開けてすぐに、こんにちはと言ったら隣から凄い圧がかかってくる。胡桃さん?ナンデソンナニアツカケテクルノ?怖い!怖いよ!


「ヒィィ……「ごめんなさいしようか。はいは?」はい。」


 クミアイチョウはどうやら特別な鳥らしい。鳥に対しても失礼します。って言わなきゃいけないなんて……。どうなってんだこの世界〜!!


「ごめんなさい。……失礼します。」


「どうぞ」


 知らない人の声でどうぞと言われたので、二人で部屋に入る。部屋に入って声のした方を見ると、柔らかい長椅子に座っている一人のおじさんがいた。


「ねぇ、クミアイチョウっt「静かにしてて、ね?」はい。」


 さっきから胡桃が、目だけギロリとこちらを見て来る。まるで、俺が余計な事を言うから喋るな見たいな目だ。

 俺たちがおじさんの目の前に来た時、また、「どうぞ」とおじさんに言われたので後ろにあった椅子に座る。


「えっとこんにちは、君たちがスタンフの救助を手伝ってくれた人達で、間違いないかな?」


「はい。」


「(コクリ)」


 俺は喋ってはいけないらしいので頷く。


「私は組合長の田中作蔵だ。」


 クミアイチョウって人の事だったの!?あ、チョウって町長の長の事だったのか!なるほど!


「この度は人命救助を手伝ってくれてありがとう。お礼の品として、私に出来る事なら何でも言って欲しい。」


「じゃあ僕は仕事が欲しいです。お金が底をついちゃうので。」


「はいはい!私!配信がしたい!あと身分証明書欲しい」


 執事から配信して人気者になれって言われてるんだ。ここで配信しなくちゃいけないだろ!ただ、普通に身分証明書は欲しい。今度から写真撮らなくていいしね。


「わかった。でも、そこの君、君には仕事を依頼する必要はないと思うがね。」


「え?何でですか?」


「君は攻略組ギルドの団長2名から高い評価を獲得してるからね。」


「え、え〜!!!嘘!?本当ですか!?」


「本当だよ。ま、残念な事にダンタン達がデマ情報を広げたらしくて、君が生きている事を知らないみたいだったよ。」


 見るからに胡桃はおちこんでいた。可哀想だったから、背中を撫でてあげた。


「じゃ、じゃあ僕が生きてる事を伝えて欲しいです。」


「それはさっき身分証明書を見てからすぐに電話したんだけどね。信じてくれなかったよ。ダンタン達もここらでは有名な配信者であり、探索者だからね。信憑性が高いのかもね。」


「じゃあどうしたら…」


「丁度良く、配信したいと言っている子が隣にいるじゃ無いか!その配信に映っていればいい。そしたら、生きてる事の証明になるんじゃ無いか?まぁ、これはその配信が人気になればの話だがね。」


 おいおい、俺に全頼りってマジかよおっさん。流石にハードル高いって。こうなったら話を変えるしか無い!


「えーっと、私、身分証明書欲しいな!」


「身分証明書か、それは無理かも知れないな。」


「え、それは何故?」


「国籍、名前、住所、親、全てが無いんじゃ、作れもしない。」


 えーと、えーと、何かいい方法は無いか?あ!自分達の国でもあった特例制度!これがこの国にあるなら方法はまだあるかも!


「えっと、特例とかって無理ですか?」


「特例か……、そう言うのは国が欲する、まさに神の様な人材ではないと難しいな。」


「そっかぁ、じゃあ、クミアイ長、今から見せるのは皆んなにはナイショだよッ!」


 ……スッ、俺は自分のステータスをクミアイ長に見せる。


「な!?何だこのステータスは!?」


「これでは駄目ですか?」


 頼む通ってくれよ!そうじゃなきゃ、俺の異世界裕福人気者ライフが無くなってしまう。


「少し、この場を離れる!君たちはゆっくりしてなさい。」


「は〜い!」


 クミアイ長は急いで、部屋の外へ出て行った。所で、胡桃さん。何でそんなに無言でこちらを見て来るのかな?怖いよ?


「この馬鹿、急に特例とか言い出して、大事になったじゃん。」


「だってぇ……。」


「だってじゃ無い!組合長のあの感じ、君一人で日本と言う国のダンジョン経済が変わるかも知れないと言った感じだったよ。」


 俺一人で国が変わる?そんな訳無いでしょ、国の人々の全ステータスを足したら、俺の遥かに上を超える訳だし。


「そう言うもんかな〜、人気者になりたいだけなんだけど。」


「そう言うもんだよ。君はつくづく凄い事をするね。光くらいの速度で走るし、ステータス数字の暴力で特例を使わせようとするなんて。」


「じゃあ、私ってちょー凄い?」


「はいはい。」


 そんな他愛もない?会話をしながら組合長を待つ事20分、組合長が戻って来た。

 そして、組合が戻って来て一言、特例が降りたそうだ。しかも特典付きで。特典の内容は豪華三種類!

 一つ目に、国から条件付きで全て無料の家をもらった。

 その条件は週に一回未到達階層の素材回収だけでいいらしい。ちなみに、家は冒険者組合のビルの使われていないフロアまるまる一個らしい。

 そんで二つ目に、ダンジョンの全階層配信許可が降りた。

 最後三つ目に、条件付きで身分証明書を作ってもらえる事になった。ちなみに、国籍は日本確定らしい。それで、条件だが、身元引受人を見つける事だ。それなら簡単だ。隣にもういる。

 

「胡桃、身元引受人になって。」


「僕、家無いから無理だよ。」


「大丈夫!胡桃が私の貰った家の家主になれば良いから。」


「もしそれがアリだったらいいけど、そんな方法多分通らないけどね。」


 組合長に頼んでみたら、どっかに電話をしに行った。そして、またすぐに戻って来た。そして一言「通った」。


「やった〜!」


「え??何で?何で通るの?」


「私が強いから!ぶい!」


「え?えぇ……」


 そして、書類を書いたりするのだが、ほぼ全部頼み事ゴリ押しで終わらせた。ちなみにそれ以外のめんどくさい事は後回しにして、気晴らしに胡桃と一緒にダンジョンに向かった。


***



「今って、配信してもいいかな?」


 許可が降りたとは言え、書類をよく読んでないので書類を任せていた胡桃に聞いてみた。


「良いと思うよ………」


「どうして、そんな疲れてるの?」


 本当にどうしたんだろうか、本名がバレたのを思い出して、落ち込んでいるのだろうか?


「う〜ん、レイのせいだからね。」


「レイって誰?そいつ許せないわ。」


「君だよ、君!僕が身元引受人だからって自由に名前決めさせたじゃん。覚えてないの?」


 うーん、覚えてる様な、覚えてない様な…。配信したさにほぼ全部の書類をクミアイ長と胡桃に任せてたしな……。


「覚えてないけど、良い名前だね。」


「レイ、後で説教確定だから。」


「胡桃……やめて……許して…。添い寝するから。」


「……許す。」


 うわチョロ。チョロすぎるでしょ。俺の友達いつからこんなにチョロくなってしまったの?


「それじゃあ配信しても良い?」


「良いよ。こっちの準備は整ってる。」


 レイは胡桃に確認を取ると、配信をつけようとしたが、配信の仕方がわからないので、近くの配信しているパーティーに配信の仕方を聴きに行った。


「配信の仕方だと?とりあえず、ライブサーチャーと言ってみてくれ。」


「ライブサーチャー」


 俺がライブサーチャーと言うと目の前に新しい青い板が出て来た。


「それが出たなら、右上にある人のマークを触ってくれ。そしたら、自己写真を取る事になるから、パパッと終わらせてくれ。」


 普通に目を閉じて、笑顔な感じで微笑み、無事に写真と言う地獄から抜け出した。

 

「次の画面に進んだらあとは簡単、画面真ん中の枠にアカウント名を入れて、今後ずっと画面下に出てるボタンを押せば配信がスタートするぜ。教える事は以上だな。」


「「ありがとうございます」」


 俺は配信の仕方を教えてくれたパーティーにありがとうを伝えた。そのパーティーは「いつかコラボしてくれよ〜」と言いながらダンジョンの中に消えてしまった。


「じゃあ名前はレイd「レイは駄目だよ」何で?」


 レイと入れようとした矢先、胡桃にすぐ止められた。


「配信者名は本名にしてはいけないって書いてあるじゃん。ほらここ。」


 青い板の名前を入れる欄に真名NGと書かれていた。


「あ、本当だ。じゃあマリが私の事、ジェーンドゥって言ったからそれで。」


「良いんじゃ無い?レイらしくて。」


 ふふん。胡桃にも良いと言われたら良いアイデアだったんじゃなかろうか。


「あ、もう配信するボタンがある。さっき、胡桃に確認とったから押すね。」


 レイにだけ[ピッ]と言う音が聞こえ、視界が少し明るくなった。そして、視界の左下にコメント欄と書かれたスペースがあり、コメント欄の少し上には視聴者数が書いてあり、右下には配信を止めるボタンがついていた。試しにレイはそのボタンを押してみると、視界が明るく無くなり、クリアになって、青い板が出てきた。


「なるほど、こんな感じね。」


「レイ?どうしたの?僕には目が光っただけにしか見えないから、手伝えないかも知れないけど。」


「いや、大丈夫!配信の感覚を掴んだから!」


 俺はまた、配信をつけた。そして、初回の配信だから、コメントは来ないだろうと思い、胡桃と会話しながら、1階層を突破した。

 だが、この時レイは視聴者数が5桁を突破している事をまだ知らなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 コメント欄(1階層入り口付近)


『美少女がダンジョン探索をしてたので見に来ました。初見です!』

『この美少女は今、1階層とふむふむ』

『初見です。』

『見た目が可愛いですね』

『見た目がタイプなので応援してます。』

『あれ?このもう一人の子何処かで見覚えが…』


 コメント欄(1階層中央)


『この子、敵をワンパンで草』

『強すぎぃぃぃぃぃ〜!』

『この子の持っている剣みた事ないんだが。実は攻略組ギルドの隠し子とか!?』

『↑隠す必要性、ゼロじゃん』

『やっぱり、隣にいる子この前、ダンタン達とパーティー組んでた優秀な子じゃん。何で生きてるの?』

『↑何で生きてるの?は辛辣すぎて草』

『↑ダンタン達がモンスターに殺された言うてたんやで。』


 コメント欄(1階層出口付近)


『この子がコメントに気づいて無いのに気づいてROMってる奴多すぎるて』

『反応が無いとコメント出来ない……』

『この配信がお勧めに来たから見に来たが、あのヒーラー、生きてるじゃ無いか。』

『キュピリオさん来た!?』

『え?本物?』

『本物だー!!ってか、これ初配信だよな…、何で視聴者数5桁超えてんの?』

『俺らはダンジョンに来る筈のないモデルや美女、美少女に飢えてるからな。』

『うっ!』

『うっ!!』

『うぐっ!やめろ!その言葉は俺たち探索者に刺さる。』



 その後も、コメントは流れていった。

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