第31話

 上手く隠しているつもりだろうが、守秘義務の代金を入れて10%なので、最大限の報酬ではない。


 守秘義務を負わない場合、評価額はギルドが持ち帰ったモノが基準になるので、俺への報酬とは別に、守秘義務の交渉もする必要があるのだ。


 守秘義務を含めれば、俺の報酬は最低限のものになる。


「それだと、ギルドが持ち帰ったモノを基準とした評価額になるのではないですか? 10%に、守秘義務についての内容が入れられているのであれば、報酬は5%ほどになるのではないですか?」


「ほ~。君、いいね。よく勉強している。スラムでも勉強ができる子がいるんだね。ギルドで働いてみないか?」


「マスター! 先に遺跡の交渉をしましょう」


「おっと失礼。10%は君が気付かなければ、守秘義務を込んだものになったが、しっかりと気付いてくれたので、10%の上限を保証して、守秘義務で5%を上乗せする形でどうかな?」


「あっ! それなのですが5%と相殺で、ギルドに自分の事を3人以外には漏らさない事、こちらの事を探らないことを要求したいです」


「何があるか分からないから、言われなくても秘密にするが、契約してまで秘密にしたいのかな?」


「自分はスラムの人間だから、あなたたちから情報が洩れて、俺が危険な目に合うという事はあり得ると思います。意図していなくても、調べる過程で他人を使えば何かあると思う人間は多いはずです」


「確かに、ハンターギルドがスラムの特定個人を調べれば、怪しむ奴が出てきて、そのせいで襲われる……確かにあり得る話だ。過去に、この街ではないが似たような事例があったな」


「スラムに住んでいれば、人間の汚いところがいくらでも分かりますからね。もし俺の事が漏れた場合は、あなたたち3人以外に犯人がいないと考えられますからね」


「なるほど! そういう事か。よく考えたな、それなら5%分をかける意味があるわけだ」


 ギルドマスターは俺の言いたいことを理解してくれたが、他の2人は話についていけてないようだ。リュウもアルファの知識が無ければ、こういったことは言えなかっただろう。


「お前らは、分かっていないようだな。この子が言ったように、もしこの子の事がバレれば、全ての罪は俺たちがかぶることになるんだ。もし拉致なんかされてみろ、俺たちは犯罪者になるって契約だ。


 そうなれば俺たちは困るから、全力で守る必要があるってことだ」


「だったら! そんな契約結ぶ必要なんてなくないですか!?」


「もう無理だな。ここまで話して、今回の話は無しにできない。こっちが守秘義務を課すのに、こちらがその義務を負わないのは、契約上ありえないんだ。


 そして、この子は1つ重大なトラップを仕掛けているのに気付いているか? 評価額のタイミングだ。こちらが守秘義務を課すなら、職員が確認した時という事は、その後に情報が漏れた場合、全ての負担はギルドが負うことになる」


「なら、守秘義務を課さなければ、いいのではないですか?」


「……君は、何でそんなに守秘義務の件が気になるのかな?」


「だって、私たちが原因では無くても、情報が洩れれば犯罪者になるんですよ? 万が一のことを考えたら、そんな契約なんてしたくありません」


「守秘義務を課さないにしても、もう遅いんだよ。口約束でも、こちらが守秘義務について話しているから、私たちはこの子の条件を受け入れるしかないんだ」


「そんなの! スラムの子どもなんだから、どうにでもなるでしょ!」


 ギルドマスターは、少し悩む表情を見せて、指をパチンとならした。


 そうすると、天井裏に隠れていた人間が降って来て、受付嬢を気絶させ拘束した。


「君、本当に済まないね。ハンターギルドの職員が、こんな人間ばかりだと思わないでほしい。現段階では犯罪ではないが、放置もできない状況だ。遺跡の発掘が終わるまで、こいつはギルドマスターの権限で拘束しておく。


 こいつには、聞きたいこともあるので、薬を使って尋問する必要があるだろう。おそらくだが、2~3年は刑務所にぶち込まれるだろう」


 ギルドマスターの性格からすれば、契約の話をした後なら、撤回することは無いと思っていた。だけど、ギルドの職員を犠牲にする判断をするとは思っていなかった。


 受付嬢は盲点だったが、過去に情報を漏らしていた疑いがあるが、証拠がなかったため不問となっていた件があったそうだ。ナビィが特急で調べてくれた内容だ。


 それでも、今は無き人になった副ギルドマスターだった場合、話を聞いた後に契約をしたあとに、適当な理由で拘束され、契約を無効にされていたかもしれない。


 副ギルドマスターに目が行っていて、他の職員に目を向けなかった俺のミスだな……


 これで少しでも、ギルドマスターの性格を見誤っていた場合は、俺のみの危険だってあったな。一番リスクが低かったとはいえ、今考えるとかなり博打だった気はする。


 まぁ、何かあった場合は、目の前の3人の携帯通信機をハックしているナビィが、映像データと音声データをそのまま流す手はずになっていた。


 相手はそんなことを知らないので身の危険はあったが、今回の賭けに俺は勝った。


 スラムの子どもは、銀行口座などは持っていない。だから、俺はまず口座を作ることから始めた。


 本来であれば作ることなどできないが、こういった契約では口座を使う必要があるので、ギルドマスターが手を回して銀行口座を作ってもらった。


 この時代の銀行口座は、旧世界の認証システムを流用して構築されているので、口座を作る際は銀行職員などではなく、身元を保証できる人間が申請をすれば許可が下りる仕組みだ。


 銀行口座は旧世界のシステムが管理しているようで、今の世界の人間はどういう原理で行われているか知る者はいない。


 リスクがあっても旧世界のシステムを一部利用しているのは、他の街へ移動する人間たちのために、住んでいる街以外でも使える銀行システムが必要だったのだ。


 もっといえば、何か失態を犯した街の上層部の人間が、他の街へ逃げる時のために街に依存するシステムではなく、世界中で使えるシステムを使うように提言したのが始まりなんだとか。


 でもさ、なんで旧世界のシステムが使えるのかね?


 色々な疑問は残ったが賭けに勝った俺は、多少時間がかかるがお金が手に入る目途が立った。


 後は、お金が手に入るまでの身の安全と、その後街へ住むための手続きなどをしないとな……



★☆★☆★☆★☆★☆


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 『フォロー』や『いいね」をしていただければ、モチベーションにもつながりますので、よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る