第30話

 体の痣が無くなった事を確認する。


 2週間、本当に長く感じたな。昨日一昨日あたりで、注意してみないと分からないくらいまで回復していたが、ナビィが決めた日時を守るため、動いていない。


 今日は、ハンターギルドへ行くために、考えうる範囲で対策を立てている。持っていく物は、大量に持ち帰ったシュラフの1つを、新しいカバンに入れている。


 新しいカバンといっても、前のカバンは通信機と一緒に盗られたから、最近使っていなかったカバンを新しく持ち出した……そういう意味だ。


 遺物のリュックなんて背負っていった日には、ハンターギルドにつく前に死体になる可能性も高い。


 カバンがパンパンに膨らんだ子どもがハンターギルドへ行けば、色々な意味で怪しさ満点だけど、こちらの話を聞いてもらえる可能性が高くなると判断しているので、リスクに対するリターンの方が勝った形だ。


 移動ルートも何本も考えており、要注意人物がいないルートを随時選んで移動する予定だ。



「準備OKだな。ルートはその都度表示してくれ。どうしてもトラブルを避けられなそうだったら、アジトに戻ることも視野に入ってるからな。よろしく頼むよ」


『了解しました。早速、ルートを表示します』


 ナビィの能力で俺の視界には、赤いルートが表示されている。このコースに従っていけば、ハンターギルドにたどり着けるはずだ。


 準備した割に、すんなりとハンターギルドへ到着した。


 問題が起きなかった大きな理由として、俺の行為の所為ではないかとのことだ。立て続けに悪党が捕まったから、激しい動きは控えているのではないか? とのことだ。


 それならその内元に戻るだろう。人はすぐに忘れる生き物だからな。


 この時間にハンターは少ない。分かっているから昼過ぎのこの時間に来たのだ。


 受付カウンターへ向かい、暇そうにしている受付のお姉さんに声をかける。


「すいません。相談したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 少しめんどくさそうな顔をされたが、すぐにその表情は消え営業スマイルを貼り付けて、


「どういった御内容でしょうか?」


「大きな声を出さないで、このカバンの中を見てもらってもいいですか? もし、重要なものだと判断されたら、ギルドマスターに話を通してもらいたいです」


 訝しむような表情でカバンを受け取り、チャックをあけて中身を確認すると、


「ちょっ!!」


 声を出しそうになった瞬間、すぐに口を抑える。


「女性の顔に触れたことは謝りますが、大きな声を出さないでほしいとお願いしましたよね?」


 いくらスラムの子とはいえ、持ってきたものがこれであるなら、受付嬢が圧倒的に悪い。もし、声が漏れてカバンの中身がバレた場合、ギルドと受付嬢はとんでもない負債を追う可能性があるからだ。


「それで、ギルドマスターとお話は出来そうでしょうか?」


「確認が必要になりますが、これが本物であればマスターが対応されると思います。鑑定のために、奥の部屋へご案内いたします」


 後半の1文は、少し大きな声だったのは、何かを持ち込んだから鑑定をするのだろうと、ハンターたちに思わせるためのアクションだったと、後で教えてもらった。


 普段から鑑定に使われている部屋なのだろう。鑑定道具も置いてあり、鑑定部署にも直結している部屋だ。おそらく、俺のような相手を案内しても怪しまれないように、ハンターギルドが対策をとっているのだろう。


 1分程待っていると、受付嬢が神経質そうな鑑定士を連れてきた。


「この子が? 分かりました。鑑定しますので、モノをお出しください」


 疑いの目で見られるが、スラムの子どもなんてこんな対応だろう。


 シュラフを取り出し、鑑定師へ渡す。


 シュラフを袋から取り出し、袋を裏返してタグなどを確認し始めた。


「おそらく、本物の遺物で間違いないでしょう。会社名が、旧世界のモノと一致します。袋の手触りも、今の物に比べればはるかに良く、シュラフの質もかなり高いです」


 それを聞くと受付嬢は、再び部屋を出ていった。


「ほとんど新品のように見えますね。もしかしてこれを外で見つけたのですか?」


「中身を確認するために取り出して、そのまましまっただけだから、ほぼ新品でいいかと。見つけた場所は、ギルドマスターが来てから……」


 しばらく睨み合いをしていると、受付嬢が今度はギルドマスターを連れて戻ってきた。映像で見た時より、少しやつれている気がするが、問題はなさそうだ。


 鑑定師から話を聞くと、


「君は、どうしたいのかな?」


 直球で来たな。


「見つけた遺跡の情報を売りたい。見た範囲では、驚異の全くない遺跡に、色々な物資がありました。いくつかは自分で運び出しましたが、自分ではどうにもならないので、情報を売ってお金にしたいと思ってます」


「なるほど……失礼だけど、君はスラムの子どもだね? となると……評価金額の5~10%が妥当な情報料になる。ただ、確認に行った際に、余りにも遺物が少なければ、情報料は無くなるが問題ないかな?」


「評価金額は、どの時点ですか?」


「よく勉強してきているみたいだね。金額は、こちらが確認しに行った時を、その評価の対象としている。だからこの話をすると、必然的に他者に漏らすことは禁止させてもらうよ。


 細かな内容は他にもあるけど、ここで情報を売るなら他には漏らさないという事を、しっかりと理解してくれれば十分だ。


 それで、君はどのくらいの報酬が妥当だと思うかな?」


「正直、保管庫の中を見せることが出来れば、15~20%は吹っ掛けたいところです。自分がスラムの人間で、信用が無いのはどうしようもないので、最大である10%が妥当だと思っています」


「ふむ、ハンターたちと同レベルですか。それだけ自信があるのでしょうが、さすがに15%は難しいね。とはいえ、遺物を見る限り保存状態は良さそうだから……最大限の10%を出そう。それでどうかな?」


 どうかな? とか言ってるけど、アルファの知識があるリュウには、巧妙に隠されたそれを嗅ぎつけていた。



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