金髪縦ロールのお嬢様と手を離したら爆発する爆弾をつけられた

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

金髪縦ロールのお嬢様と手を離したら爆発する爆弾をつけられた

「なんてことですの!? この超大金持ちかつ文武両道才色兼備超絶美人金髪縦ロールのわたくしが不慮の事故でハイパーモブ顔モブ存在感のモブ山モブ男と手をつないでしまった瞬間に手を離したら爆発してしまう爆弾を取り付けられてしまいましたわー!!」


「めちゃくちゃ分かりやすくて棒読みな説明ゼリフありがとな!? あと誰がモブ山モブ男だ!?」


 いつも通りの日常だった、高校からの帰り道。俺は今しがたこの金髪縦ロールお嬢様が言った通りの状況になった。


 この金髪縦ロールとはほとんど面識はない。こいつ自身は有名人だから一方的に知ってるけど。同じ高校で超大金持ちで見た目もいろいろ目を引くからみんな知ってる。

 こいつから見た俺のことは本人が言った通りモブ山モブ男なんだろう。なんの接点もあるわけない。

 いや、一回だけ絡みがあった。廊下に落ちてた地味なピアスが、あの金髪縦ロールの下で宝石ギラギラゴージャスなクソデカピアスの横にさりげなくついてたピアスだと気づいて返しに行った。そしたらそれが大事な祖母の形見だとかで、お礼に夜景の見渡せる超高級レストランの招待券を渡されそうになって、けど「それよりアニメ観たいんで」と断ったら「おもしれー男ですわ……」とつぶやかれた。という程度の絡み。


 で、現状。


「爆弾から犯人の声が流れてきますわー! これの言うことを聞かないとドカンですわー!」


『シーッツッジッジッジ(笑い声)! お嬢様とモブ男のお二方にはこれから手をつないだままとある試練を受けていただきまシッツージ! 手を離したらドカンでシッツージ!』


「語尾と笑い方の主張なんとかなんなかったのか!? んでこの金髪縦ロールは相変わらず棒読みだし! そして俺はモブ男じゃねえ!!」


「モブ男! あれを!」


 金髪縦ロールが前方を指さした。

 そこにあるのは商店街。通学に俺がいつも通り抜けているおなじみの場所。

 だったはずなのに。


「マジかよおい……」


 正面にあるはずの商店街入り口を示すレトロなアーチは影も形もなくなって、代わりにあるのはおどろおどろしい地獄の門のような造形であった。

 爆弾から声。


『シーッツッジッジッジ(笑い声)! この商店街は我々の財力によって世界一怖いお化け屋敷に作り替えられたのでシッツージ! ここを手をつないだまま通り抜けてもらうシッツージ!』


「こんなしょーもない仕込みのために商店街で日々働く皆様の生活を奪ってんじゃねー!?」


『商店街の皆様にはエキストラとして参加していただいていまシッツージ! 今後はこの場所をアトラクション施設として経営して商店街の皆様には従業員としてこれまでの三倍の収入を保証していまシッツージ!』


「人も土地も根こそぎ買収しやがった!?」


「なんということですわー! こんな大規模な買収ができる人間が誰なのか、皆目見当もつきませんわー!」


「隣で仲良く手ぇつないで爆弾つけられてる超大金持ちお嬢様に見当つかねーなら俺も見当つかねーなー分かんねーなーチクショウめー!!」


「爆弾とお化け屋敷で吊り橋効果モリモリでわたくしとモブ男なんていうありえない関係性で禁断の恋が芽生えるかもしれませんわー!」


「別に禁断でもなんでもねーだろお嬢様サイドに自由恋愛が認められてるんなら」


「えっ、わたくしが自由に恋愛していいならモブ男はわたくしを受け入れてくれると……? きゅん」


「言ってないが?」


『早く入らないとドカンしちゃいますよシッツージー。じゅーう、きゅーう……』


「あーもー行きゃいいんだろ行きゃあよー!!」


 そんなわけで、俺たちは元商店街のお化け屋敷に突入した。

 突入して三秒で、このお化け屋敷の超絶クオリティとはちゃめちゃな怖さを実感した。

 隣の金髪縦ロールお嬢様が。


「ちょちょちょちょこれめちゃくちゃ怖いですわやばすぎますわ!? こんなに怖いなんて聞いてないですわおしっこちびりそうですわ!?」


「企画立案者と設計担当者の意思疎通ちゃんとできてるかー?」


『商店街の皆様が自主的に張り切ってアメリカ仕込みの特殊メイクや映像技術を習得してきてまシッツージ!』


「ノリノリなのかよ商店街の皆様!!」


「モブ男っ!!」


 子鹿みたいにぷるぷるふるえる金髪縦ロールお嬢様が、すがりつくようにつないだ手を握りしめてきた。


「ぜぜぜぜ絶対に手を離すんじゃありませんことよいろんな意味で!! 手を離されたらわたくし昇天してしまいますわいろんな意味で!!」


「そんな怖いならもうこれやめにしねぇ? 爆弾もどうせ本物じゃないんだろ?」


「この街一帯を吹っ飛ばす超高性能爆弾ですわ! ついでに試練クリア以外の解除方法も設定してないですわ!」


「ドアホゥー!! 才色兼備をうたってるそのハイスペックおつむの機能はどうなってんだ頭の中まで金髪縦ロールなのか!?」


「わ、わたくしの脳はいつだってハイスペックですわ! ただちょっとその、淡い恋心という未知の感情が脳のメモリを占拠して深刻なエラーを発しているだけですわ……ぽっ」


「ぶん殴っていいか?」


 そのときゾンビ(特殊メイク)が現れた!


「うぼわらぅあぇあぼらばらゾンビ〜!」


「うぎゃー!? きゃーきゃーきゃーきゃーうきょえーぎょえーごびぇー!?」


「お嬢様が出しちゃダメな声出してるぞ!? あと商店街の皆様ちょっと手加減してくれませんかねぇうっかり手を離したらあなた方もみんなまとめてお陀仏なんで!?」


「モブ男!! 絶対に手を離すんじゃないですわよ!? わたくしが恐怖のあまり全力疾走したとしても絶対に手を握り続けるんですわよ!? わたくし全力出したら百メートル走の日本記録と〇・二秒差で走れますけど絶対についてくるんですわよ!?」


「天よなぜこのアホに二物を与えたもうた!!」


「うぼわらわぁゾンビ〜!」


「ぎょびやらぽぁ〜!?」


 その後、なんやかんやで試練を達成した。

 爆弾から解放された金髪縦ロールは、なんか顔を赤らめて夜景の見渡せる超高級レストランの入った高層ビルにある高校通学用の下宿部屋の合鍵を渡してきた。俺は「人んちに遊びに行くより一人でアニメ観てたい」と断った。

 金髪縦ロールは「一本筋の通った男らしい男ですわ……ぽっ」とかなんとかつぶやいて顔をもっと赤らめさせた。

 意味が分からん。

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