第6話

「あれは、クソ真面目だが

どっか抜けてるとこがあるからな」


俺のいとこが非常脱出用ゲートに飲み込まれた後に残されたのは

脱出の際にポケットの中から押し出されたとおぼしき

あいつの携帯電話だった


「コレ、どうすんだよ?

コレで誘拐犯と連絡取りあうはずなんだろ?」


そうひとり言を言ってみても誰も居ないところでは

反応すらない

あいつが言った身代金受け渡しまで、あと二時間

そしてこの街から受け渡し場所までは

どう見積もっても二時間弱

それに受け渡し場所が土壇場で変更になる可能性もあった


あいつが焦っていた理由もそれで

受け渡しを確実なものとしたければ

体をのろのろと着替えている時間はないということだ


ただ、この体のままで街へ出歩いたなら

魔女からの処罰は必須

今時流行らない、体罰

そして罰金の上に禁固刑

更に街からの追放と親族への金銭要求という書類に

仕事の開始前に羽の生えたペンでサインしたことを覚えている


・・ねえ魔女さん

ホントは法律で禁止されてることやってない?

もしかして法律の上にでもある存在だったりする?

それなら給料上げてよお!

生活、カッツカツなんだから!

ま、ギャンブルは大好物だけどぉ!


そんな非生産的な考えがふと脳裏に浮かんでは消えて行った


ただ、既にその親族の中に俺が入っている以上

罰則自体は確定していたし

妹以外を全て失くし

未だに立ち直れていないいとこへ

更に妹まで失わせるわけにも行かなかった


「毒食らわば皿まで、か」


もうどうにでもなれと俺は少女の体のまま

脱出用ゲートに潜り込んだ


暗闇を凄いスピードで滑りぬけ

何か光が見えたなと思ったらポンと空気に押し出された

すると眩しい光に目がくらんだ

何だか美味そうな匂いもふわふわ漂っていた

着いた先は誰もいない

レストランの使用人控室のようなところだった


その部屋にもう一つ扉があったので開くと

そこは見慣れない繁華街だった


携帯電話で位置を確認すると

幸いにも金の受け渡し場所から一時間と離れていないところだった


「コレは余裕!」


助かったと気が抜けて

ぶらぶらと街を歩く

金さえあればなあと着飾って行き交う人々を見た

これもついでだと近くにあったコーヒー店に入った


「マジで?アキちゃん?」


いつもならメンチ切ってるところだが

今はどこからどう見ても可憐でいたいけな少女だ

煙草も吸わないだろうし

美少女はああん?とか言わねえなあと男の一団へ

にっこり微笑んでみた


「今、時間ある?

最近、俺たちつきあい悪かったでしょ?

そのお詫びに、ご飯ごちそうするよ」


窓ガラスにちらりと映った顔は花のようだった

ごつい体とは対極にどこまでも細く白かった

そして花のような少女にまとわりつく

見た目の整った数人の男たち


「今日は、人生最良の日かもな」








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