第2話 俺は全てを失い裏切られ本当に大切な物気付く

 俺は、彼女マホナ・グレーツについて考えて草原を歩いていた。

 強風に流されそうになりながらも、何とか一歩一歩着実に地面を足で押しながら進む。

 ダリアは、途中で立ち止まり俺は不思議そうな顔をして何かあったのか聞く。


「どうしたんだよ?」


「何か、変だとは思わないか?」


「別に、特に可笑しなことはないが?」


「何か……強い力が、近付いてくる!!」


 その瞬間、地面が揺れてゴゴゴと鳴り響きどうにか立つのがやっと、揺れが収まると目の前に元の仲間の賢者ギル・バートンが現れた。


「お久しぶりです! 伝説の、勇者アドル・ペルソナ様! 私、この度あなたの後を継ぐことになりました」


「何を言ってるんだ? ギル?」


 ギルは、俺の顔を見てニコニコ爽やかな笑顔を向けてきたと思ったら、不適な笑みをニヤニヤと浮かべて剣を振り下ろし襲いかかってきた。


「危ない! 避けろ!」


 ダリアがそういうと、間一髪のところで彼女の闇魔術のバリアでガードして一命をとりとめる。

 ギルは、一旦体制を整えるため距離とりもう一度、こっちに向かって斬りかかってくる。


「これ以上は、我の魔力じゃもたん! だから、汝に我が父上から貰った力を授ける!」


「いや! そんな、ヤバい力いらない」


「そう言ってる、場合ではないだろうが! お主、このままやられてもいいのか!?」


 俺は、ダリアの提案を断った。

 魔王の力なんて、まっぴら御免こうむるあんなのただの魔物の力だからだ。

 人として、何かを失ってしまう。


「魔物の王の、力なんてまともじゃない! それに、そんな物人が手にしていいものじゃない!」


「本当に……いいのか……」


「いいに、決まってる!」


「そういうことを、聞いてるのではない」


 ダリアは、うつむき下を見ながら暗い表情をする、上を向いたと思ったら俺に説教をし始める。


「本当に……彼女を傷付けた、この世界をこのままにしていいか聞いてる!!」


「!!!」


 俺は、ダリアの声でやっと目が覚めた気がする、俺が本当にやらなきゃいけないこと、それはどんなことをしても彼女マホナを救い出すってことに。


「漸く……目が覚めた……力を与えてくれ! ダリア・ルルージュよ!」


「よく、決断してくれた! では、汝に力を授けよう……」


 ダリアは、俺の指先から魔王の力をドンドン注入していく。

 俺は、強大な魔の負のエネルギーにどうにかなりそうになりかけるも、必死にマホナの事を思い耐え続ける。


「人間が……魔物の力を、貰うとは……勇者アドル! 地に落ちたな! もう、あなたは僕の尊敬する勇者などではない! ただの、下劣な魔物のだ!」


「う……うるさい! 俺は、ただマホナを……アイツを……救いたい……それだけだぁぁぁぁぁ!!」


 俺は、叫び与えられた魔王の力を解き放ち、周りに爆風を起こす。

 ギルは、その風で吹っ飛ばされて倒れてしまう。

 ダリアは、魔術を使い黒い空間を出現させて杖をそこから取り出して、地面に突き刺して俺の起こした強風にたえていた。


「ごめん……大丈夫か? ダリア」


「大丈夫だ、それよりお主は大丈夫か?」


「ああ……大丈夫だ……それどころか、力が溢れでてくるようだ」


 俺は、力を抑えることには成功したが抑えこむのが精一杯でまだ、力を完全に引き出してはいない為ギルに勝てる保証はなかった。

 ギルは、剣を地面に刺してそれを支えにして立ち上がり、高笑いをしてきた。


「あはははははは!! そんなんで、よく僕を倒せると思ったね~。そんな、使えもしない力でな」


 俺は、歯を食い縛り平然を保とうと拳を握り、怒りを抑えるが思わずギルに罵倒する。


「ふざけるなよ……お前も、所詮誰かの貰い物の力じゃないか! お前にだけは、それを言われたくない!」


 ギルは、余裕そうに俺の前に立ち勝ち誇り全く相手にしてない、その様子はまるで俺がチートで敵をらくらく倒してきた俺のようだった。


「あなたの意思と、力は僕が引き継ぎあなたには消えてもらう! 所詮、アドル!! あなたは、その器ではない! 僕こそ、この力を持つにふさわしい」


「うるせぇ! お前みたいな、力に頼りきった人間に負けるか! 俺は、絶対にアイツを助けるんだ!」


 俺は、何とか闇のオーラみたいな物でギルの斬擊を防ぐ、だがこれがいつまでもつか分からない、とりあえずダリアに力の使い方を教わる。


「まず、勇者アドル・ペルソナよ……自分の手を前に突き出して、その後指を広げて倒したい敵を想像して、心の闇を解放するのだ! さすれば、技を使うことができる」


 俺は、ダリアの言われるがままやってみた、手がどんどんと異形の魔物の手のような、黒い鱗に覆われて指は爪が尖り、腕へまで到達する。


「クソ! 手が勝手に!!」


 俺の、魔物のような手がギルの剣を掴み握り粉々にし、手の腕の部分が伸びて首を思いっきり絞める。


「やめろ! やめろぉぉぉ!!」


「ぐぅ!……がはぁ!」


 ギルの、顔はどんどんと青くなっていきそれを見たダリアが俺に問いかけてきた。


「勇者アドル! あなたは、そんな闇の魔物の力に負けていいのか! それでも、あなたは世界を救った勇者か!? だったら、そんなものに負けるではない! その心の闇にも勝て!」


「はぁ……はぁ……分かってる……俺は、こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ……マホナが……俺の事を信じてるんだ……俺の大好きな彼女が!」


 俺は、マホナとの誓いを思い出す。

 この世界を救い、平和をもたらし誰も不幸にならない、皆が笑って過ごし何も困らない上下がない平等な飢えがない時代を作ると。


「マホナ……俺は、どうすればいいんだ……たとえ、魔物を全部倒したとしても……人間は、人を傷付ける。だから、平和な世界も幸せな不幸がない世界も実現できない……どうすれば、いいんだ」


 マホナは、夜空の星を眺めながら俺の話を聞き笑っていた、まるで俺が間違っていてそれが簡単に実現できるようかのように言い。


「それは……違うんじゃないかな……人は、幸せの為に生きてるから絶対に実現できるよいつか。それに、アドルは色んな人を助けてきた……だから、私は信じてるの……アドルは、この世界に平和をもたらすって! 私を、不幸な奴隷から助け出してくれたアドルなら」


 俺は、マホナとの日々の思い出が頭の中に流れてきた、まるで歴史をたどるように。


「絶対に……俺は、マホナを助けなきゃいけない……こんな、浮気ばかりしていてチート能力に頼ってきた……俺を信じてくれた、彼女のためにも!!」


 俺は、闇の魔物の力を押さえ込みギルの首を絞めていた、手を離す。


「はぁ……はぁ……バカな! 人間が、魔物の力を扱うこと出来ないはず!? あれ程の、闇の力は特にだ!」


「それは……違う! 俺が、力をどうにかしたわけじゃねぇ! マホナの、思いがそうさせただけだ! だから……ギル! お前も、そんな力捨てろよ! そして、自分と向き合って本当に大切なものの為に戦えよ!」


「何を言うと思ったら……馬鹿馬鹿しい!」


 ギルは、俺の思いを込めた一言にクククっと笑い、その後口を大きく開けて大声で嘲笑してきた。


「あははははははは!! 実に下らないよ……本当に、あなたはどうしようもない人間に成り下がりましたね! 僕が尊敬する、何事にも屈しない最強のあなたはもういないのか……だったら、要らないから消えろ!!」


 ギルは、もうひとつの壊れてない剣を鞘から抜き、再び剣を振り下ろし襲いかかってきた。

 俺は、魔物のオーラでカードしようとしたが、徐々に弱くなっていきギルの剣に腹を斬られる。


「ぐは! 何で……ギル……お前は、そこまで」


「はぁ……はぁ……決まってるでしょ……あなたは、もう勇者ではない……だから!……これからは、僕が最強の救世主の勇者なのだ!」


 俺は、腹から血を吹き出して草原にうつむせになって倒れる、ダリアはその姿を見て心配して駆け寄る。


「大丈夫か! 勇者アドル!」


「はぁ……はぁ……もう……俺は、勇者ではない……だから、その名前で呼ぶな」


 ダリアは、闇の魔術を使いどうにか俺の傷を回復させようと奮闘する、みるみる体の傷は無くなっていくが疲労で動かすことできない。


「幻滅させないでほしい……あなたは、あの頃のぼくが尊敬する人ではなくなったのですね……それと……これ以上、僕の前に現れないでくれ……二度と……そして、消えてくれ」


 ギルは、俺の今の状態を見て幻滅したのだろう、冷たい目線と低い声を出してそう言った。


「俺は……何度だって、お前と戦ってやる……その力を、お前が持ってる限り! そして、絶対に女神のチートなんて全部消してやる! 俺みたいな、奴が産まれないように!」


 ギルは、俺の発言を聞かず何処かに歩いていって去って行く、後ろ姿は俺には寂しそうに見えたが今の自分の状態を見ればそう思うのは無理もない。


「ダリア……俺は、皆が笑って過ごせる世界にするために……絶対に……こんなことをしてきた黒幕を倒す! だから、信じてくれよ……お前も、幸せにしてやる! 今の本当の俺についてきてくれ……そして、見守っていてくれ……俺の人生を」


「ああ! ……グズ……グズ……あだりまえだ! 勇者アドルは、我の希望なのだからな」


 俺は、ダリアのその言葉を聞いて安心したのか、眠りについて視界が暗くなり意識を失ってしまう。

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