第5話 募る

放課後、俺は葉狼はがみさんを体育館裏に呼び出していた。


なんでこんな事になったのか、それは今日の朝まで遡る……
























「おはよ〜氷真ひょうま〜。迎えに来たよ。学校一緒行こ」


「……」


「え、無視?ひどない???……あ、もしかして昨日のまだ根に持ってる?」


「……」


「ごめんじゃん!悪気はあんまりなかったんだって!話もしてないのにどうやって付き合うつもりなんだろう?とか全然思ってないからさ!」


「全部口から出てんじゃん!!!隠す努力くらいしようよそこはさ!」


前回のおさらい。葉狼さんに話しかけられない俺を愛彩あいかが馬鹿にした。以上。


「そんなこと言われてもさ、思っちゃったことはしょうがないでしょ?」


「話しかけられるなら話しかけてるわ……ほら葉狼さんの周り人多いし……」


「すぐそうやって言い訳する。よくないよ〜、そういうの」


「なんだよ、じゃあどうすれば!」


「その群がってる女子たちに混ざってでも話しかけにいけば良いんじゃないの?」


とまた愛彩が無責任なことを言う。いや、そんなことしてみろ。ファンに殺されるぞ……


あそこの女子たち全員肉食獣の目してるからな、うん。


「んなこと言ったってな……」


「……ねぇあのさ氷真、BSSって知ってる?」


「なにそれ?韓国のアイドルグループ?」


「確かにっぽいけど違う!B僕が S先に S好きだったのにってやつ。好きな人が他の人に取られたときに使うやつ!」


「ふーん、先に好きだったとか俺は関係ないと思うけどな。大事なのは愛の深さだろ」


「じゃあ、来夏らいかに彼氏か彼女が出来たら?」


「先に好きだったのは俺なんだが?横取りするんじゃねぇ!!」


「発言が矛盾してるし……」


「いや、だって仕方ないだろ!!!俺は小学校からずっと好きだったんだぜ!?愛の深さだって俺のほうが上だしな!」


愛彩は大きくため息を吐いてジト目で俺を見つめてきた。


「なんだよ、やんのか」


「やらないけどさ……いや、なんって言うか氷真ってチキンだよね」


「ぐはっッッッ」


「本当に好きで話したいなら、女子たちみたいに付きまとってでも話したらいいじゃん。それもできないのに、付き合えるわけ無いでしょ?」


「うぐッッッ」


「もしそれがどうしても嫌なら、手紙入れて体育館裏にでも呼び出したら?二人で話せるよ」


「いや、それ……ほぼ告白じゃん……」


「そうくらいしないと話せないでしょ!」


「いや、でもなぁ……」


「BSS」


「ぐがぁああああ」


もうやめて!とっくに立花のライフは0よ!


「はぁ、じゃああたしが手紙書いて入れといてあげようか?」


「え?流石に……」


「任せといて、氷真の字体はだいたい分かるから」


「え、ちょ」


こ、コイツ目がガチだ。


「あの、愛彩さん……?」


「なんか、うだうだしてて腹がたってたの。相談されるあたしの気持ちにもなってよね!今月何回その話されたと思ってるの!?」


「いや、それはマジで悪かった悪かったから!!!」


駄目だ、こいつには、やると言ったらやる………『スゴ味』があるッ!


じゃなくって!え、ちょ


「マジで待って待ってってば!!!」






















となっての今である。


あれから愛彩と話し合いをして、結局手紙は自分で書いて入れることになった。


流石に、他の人が書いた手紙で呼び出すのは流石の俺でも気が引けたからな……


ノリと勢いでやっちまったけど、どうすっかなこれ。


と言うか、そもそも来るかどうかもわからないのであって。


葉狼さんこういうの慣れてそうだし、無視してこない、なんてこともぶっちゃけ充分有り得る。


差出人も書けなかったし、不気味がるかもな……


考えれば考えるほどネガティブになる。よくないのは分かってるんだけどな……


「君が手紙くれた人かな?」


そんな事を考えていると後ろから声がかかる。


ほんとに来た!!!いや、俺が呼び出したんだけれども!


え。っとどうしよう、な、な、な、何話したら……


「あれ?もしかして氷真くんかい?」


やば、バレた。いや、隠してないけど!!!えー、と取り敢えず何か話さねば。


「あ、ぁあ!氷真です。久しぶり?」


「あはは、毎日学校で会っているけどね。でもそうだな、話すのは久しぶりだ。どうしたんだ?僕に何か用事かい?」


「い、い、い、いや、折角同じクラスになったのに、話せてなかったからさ!挨拶、そう、挨拶しようと思って!!!」


「あぁ、成る程そういう。確かに教室では話づらいだろうからね」


「そう、そういうこと!流石葉狼!」


危ない、なんとか声は裏返らなかった。


「ふふ、どうも。いや、びっくりしたよ。てっきり告白かと思ってさ。ここに呼び出される時はいつもそうだからね」


……ふぅ、落ち着け。告白?それがなんだ冷静に返せ、俺。


「あ、あぁー随分とモテるんだな」


これは本心だ。俺からすると、体育館裏に呼び出されたってなったらまず最初に、


「喧嘩か?」「ボコられるのか?」ってなるんだけどな……


というか、よく考えると、葉狼さんが他の人に何回も告白されてるってことだよな?やばい、精神的ダメージが……


「まぁ、そうみたいだね。自覚したのは中学校に入ってからだったけどさ」


「……逆にそれまで気がついてなかったのか???」


「あぁ、案外僕は鈍いみたいでね。バレンタインに靴箱が閉まらなくなってた時は流石に笑ったけどね」


「すげぇな……」


「ま、人から好意を寄せられるというのは案外悪くないものだよ。返そうという気持ちにもなるしね」


しばらくの間、葉狼さんと他愛のない話を繰り広げた。


最初こそ気まずさがあり、ぶっちゃけ何も覚えてないが、なんせ三年も会っていなかったので、会話が尽きることはなく、気まずさも話してるうちに無くなっていった。


何より嬉しかったのが、葉狼さんがあまり変わっていなかったことだ。


真顔で冗談言うところも、笑うときに手を口に当てる癖も、誰とでも楽しそうにしてくれるところも、全部一緒だった。


まぁ、なんかホストムーブには磨きがかかっていたが……


要するにまぁ、


俺の大好きな葉狼さんそのものがそこに居たのだ。


ただ外から見てるだけじゃない、俺がずっと好きだった彼女がそこに、


感じられる距離に、いた。


気持ちが煽られる。


九年分の思いが蘇って、そして募っていくのが感じられた。


それでも今日は話すだけのつもりだ。


そうだ氷真、急に伝えても葉狼さんが困惑するだけだろ。もっと、もっと慎重に……




































「葉狼さん。好きだ、俺と付き合ってほしい」


気持ちが溢れてしまった。取り繕う言葉なんて、俺の焼けた脳じゃもう思いつけなかったんだ。

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