第6話 告白

「そっか、いつから僕のことが好きなの?」


葉狼はがみさんは俺の告白を聞いても冷静だった。


まぁ端から告白されると思って来ていたみたいだし、そもそもこういう場面は慣れているのだろう。


「小学校の時からずっと。自覚したのは三年生のときだと思う」


「成る程ね……」


暫く悩むような素振りを見せた後、


「ごめんね」


と、葉狼さんは言った。


分かってはいた。中学校の間も、高校に入ってから今までも一度も話したことがなかったのだ。


アピールだってしてなかったし、


もし仮にしていたとしても葉狼さんにとっては数ある内の一つに過ぎなくて、


記憶にも残っていないだろう。


そういう僕だって、小学校の頃の友達を全員覚えていられるかと言われればNOだし、だからといってそれが白状だという人も居ない。


ただ幼馴染という理由だけで葉狼さんは覚えていただけで、それ以上でもそれ以下でもない。


友達とも言えない何か。


それでも、そうだと分かって居ても。


苦しいものは苦しかった。


胸が締め付けられる、心は勿論、体さえも傷ついたような気持ちになった。


その感覚が、まだ俺が葉狼さんが好きだということを自覚させられて、


虚しくて。消えてしまいたくなった。


「そうだよね、急にゴメンな。こんなこと言うつもりじゃなかったんだ」


「いや、氷真くんが謝る必要はないよ。気持ちを伝えてくれたこと自体はとても嬉しかった。男の子から告白されるなんて珍しいしね。でも、最近知ったんだ。僕は誰かを好きになるのが向いてないって」


「それはどういう……?」


なんて言ったらいいんだろうな、と小さくつぶやき、自分の中で言葉をまとめるようにして、葉狼さんは僕にゆっくりと伝えてくれた。


「僕は昔からいろんな人から感情を向けられてきた。それは尊敬だったり、まぁ期待だったりした。その中に、好意とか、僕のことが欲しいって言う独占欲とかが含まれているって気がつくのには時間がかかったけど。幸いにも、僕に良い感情を持ってくれる人が多くてね、僕は出来る限りそれに答えてきた」


「それが正しいことだと思ってたし、それは今も思ってる。だから中学校の時はされた告白はその時に付き合ってる人が居ない限り受けてきたし、愛してきたつもりだ。与えられた愛を返そうとしていたんだ。……でもそのうちに気がついた。これは僕が何かを与えているわけじゃないって。……なんだろうな、貰ったプレゼントをそのまま返しているようなそんな感じ」


「別に悪いことじゃないだろ、誰だってやってることだって」


「ま、そうなのかもしれないね。でも、僕はもう与え方が分からないんだ。人から貰いすぎたものをどう返して、自分が溢れないようにするかしか考えてこなかったからさ」


「そうか、ありがとう。話してくれて」


「いいよ、全然。僕は氷真くんを振ったんだ。理由くらい知る権利はある」


そういうと、葉狼さんは俺に背を向けた。


「僕が居ると気まずいだろう?先にお暇させて貰うよ。本当にありがとう、気持ちは嬉しいよ」


立ち去ろうとする葉狼さんの背中に俺は叫ぶように言った。


「葉狼さんの事情は分かった!でも、諦めないから!絶対に、ぜっったいに、俺を自分から愛したくなるくらいに好きにさせてやるよ!!!」


少し驚いた顔をして葉狼さんが振り返り、


「じゃあ、期待しとこうかな」


と言って微笑んだ。


「また明日、学校で」


立ち去った葉狼さんを見送り、一人になった俺はなんとなく清々しい気持ちだった。


「見てろよ、俺は絶対に葉狼さんをなびかせてみせる」


始めてそう自分で宣言した。


逃げていた気持ちは捨て去って、これからは真っ直ぐ向き合おう。


綺麗事だけじゃない恋心と。

























「どうだった、来夏らいかと話せた?」


俺は昇降口で待っていてくれた愛彩あいかと合流する。


「ちゃんと話せたよ、まぁ色々予定は狂ったけどな」


「?どういうこと」


「いや、まぁ、なんやかんやあって葉狼さんに告白したんだよ」


愛彩は口を開けて固まってしまった。


「お、おーい。大丈夫か?」


ペシペシと頬を叩くと意識が覚醒した愛彩に、


「え、なんでそうなった!?!?」


とめちゃくちゃ詰められたので、俺はと事の顛末を話した。


「成る程ね、まぁ、本人目の前にしたら気持ちが溢れてしまったと」


「ま、その結果、綺麗に振られたんだけどな」


「の割にめちゃくちゃ晴れやかだよね、無理してるっていう感じでもなさげだし」


なんだろうな、振られてショックなのはショックなんだが、


振られるのは覚悟してたのもあるし、ずっと溜め込んでいたものが吐き出せてスッキリした。


それに……


「まだ諦めたわけじゃないからな」


「そっか、氷真は強いんだね。あたし、少しだけ尊敬した」


「なんだよ少しって。めちゃくちゃ尊敬してくれても良いんだぜ?」


「そういうのがなければもっと色々いいとこあるのにもったいないねぇ」


「うざいな!帰省したらあれこれ言ってくる親戚かよ」


「そんなこと言って良いのかな〜。頑張った氷真にアイスでも奢ってあげようかと思ったのに」


「一生ついていきます。神」


「手のひらドリルじゃん」


うるせぇ、今の俺には甘さが足りてないんだ。


どっちかというとビターな結果だったからな!


タダで貰えるものはぜひ頂きたい。


「現金なやつだね、ま、そういうのもいいか」


そう言って二人で家に帰った。


途中でコンビニに寄って、二人で分けて食べられるタイプのアイスを買って食べた。


甘ったるいコーヒー味のアイスが口いっぱいに広がった。
























「今日で、皆さんが入学して一ヶ月半経ちました。クラスにも慣れてきた頃だと思いますので席替えをします」


先生がそう言うとクラスメイトが盛り上がる。


どの学校でも、席替えは盛り上がるものなんだな。


「それでは右の列の人から順番に番号を引いてください」


うーん、特に固執はないけど、窓側だと日が気持ちよくて良いな……


「お、やった。窓側の席じゃん」


しかも一番後ろ。めちゃくちゃツイてる。


早速、席移動が始まった。


幸い、そんなに遠くない場所だったので早めに荷物の移動が終わり、当たりの席から見る景色はどんなもんかと窓の外を眺めていると、隣に誰かが座る気配がした。


「あ、よろしく〜…ってえ?」


「あはは、よろしくね。氷真くん」


「葉狼……さん」


最高なような、最悪なような、そんな席替えだった。






ーあとがきー

ここまで読んでくれてありがとうございます!


ホントはもっと早くここまで行くつもりだったんですけど、

6話になってしまいました(笑)


ここから先が書きたくて作った作品と言っても過言じゃないので私自身めちゃくちゃ楽しみです。


書き溜めしていない人なので、投稿できない日もありますが!これからも楽しんでいただけると幸いです。







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