第49話 ガゼボで二人

「ありがとう。ちゃんと毎日つけてくれていて」


 マニエス様の言葉に、私はなぜだか恥ずかしくなってしまって。頂いた花の髪飾りにそっと指先で触れて、熱くなってしまった顔を隠すために下を向きます。

 気が付かれませんようにと、願いながら。


 お庭の緑も濃くなり、以前よりもたくさんの花たちが咲き乱れるこの季節。

 お天気のいい日も続いているからと、久々にガゼボで二人。今年採れたばかりだという紅茶を、ゆっくり楽しんでおりました。


「やっぱり、ミルティアの本来の髪色のほうが似合うね。どちらも優しい色合いだから」

「そんな……」


 スコターディ男爵家にいた頃に比べれば、今はとても丁寧にお手入れしていただいているからなのか。ミルクティー色の髪もふわふわになり、日の光を浴びて輝いています。

 けれどこれは、侍女の皆様方の成果であって。決して私が、特別綺麗な髪色をしていたわけではないのです。


「日々、丁寧なお仕事をしていただいているからです」

「そういう謙虚なところも、ミルティアの魅力の一つだよね」

「ぁぅ……」


 近頃、マニエス様はこうして私への褒め言葉を口にされることが、大変多くなりました。

 そして同時に、今までそんな経験がなかった私は、どうお返事すべきなのか分からず。こうして恥ずかしさにうつむくことが増えてしまったのです。

 なのに。


「可愛いなぁ、ミルティアは」

「ぁぁぅぅっ……」


 私をからかって、楽しんでいらっしゃるのか。それとも、本気でそう思っていらっしゃるのか。

 顔を上げなくても分かります。今マニエス様は、大変満足そうなお顔で笑っていらっしゃるのだと。

 そして毎回、私がこんな状態になってしまっても。一切、手加減はしてくださらないのです。


「ほら、ミルティア。あーん」

「ぇ……? えっ!?」


 いつの間にやら差し出されていたのは、髪飾りよりも濃い色をしたマカロン。

 赤に近いその色は、中にラズベリーのジャムを挟んだ甘酸っぱい味のお菓子だと、今の私は知っています。

 ちなみにラズベリーも、朝食の時に生のものを出して頂いたことがあるのですが。ジャムよりも若干酸味が強いのですが、私は苦手ではなく。むしろ果実特有のみずみずしさと自然な甘さに、つい手が進んでしまい。気が付けば、残り一つになってしまっていた、なんていう経験があるくらいです。

 そう、つまり。


「食べないの? ミルティア、これが一番好きだよね?」


 私の食の好みを、マニエス様に完全に把握はあくされているということ……!


(な、なぜでしょうか……。とっても、恥ずかしいのです……!)


 嬉しいと思うのと同時に、恥ずかしいとも思ってしまう。

 その理由が今も分からなくて、混乱した状態の私に。マニエス様は気付いていらっしゃるのか、いらっしゃらないのか。


「ほら、ミルティア。可愛い口を開けて?」

「っ……」


 けれど容赦なく、笑顔で迫ってくるそのお姿に。まるで追い詰められた獲物のような気分になりながら。

 私はそっと、言われた通りに口を開くのです。

 恥ずかしさに、少しだけ震えながら。


「いい子だね。はい」

「ん……」


 一口では食べきれないので、半分ほどのところでマカロンを噛んで。ゆっくりと咀嚼そしゃくして、口の中に広がっていく甘酸っぱさを堪能たんのうします。


(どんな状況でも、美味しいものは美味しいのです)


 果実の状態の時よりも酸味が抑えられて、優しい甘さになっているのは。きっと、より食べやすいようにという作り手側の配慮はいりょなのでしょう。

 私がいただくお食事もお菓子も、こうしてどなたかの配慮が常にされているのです。それは、とてもありがたいことで。

 でも、その……この状況は……。


「はい、ミルティア。もう一口。あーん」

「っ……ぁ、ぁーんっ」


 味わう暇が、あるのかどうか。

 疑問に思ってしまうのは、私だけでしょうか……!?

 美味しいのですけれどね! 美味しさに変わりはないのですけれど!


「美味しい? ミルティア」

「は、はい……」


 それ以上に、恥ずかしさが勝ってしまうのです!






―――ちょっとしたあとがき―――


 あんまい……(^q^)





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