第44話 ブラフマン・ザ・ダークスター
「どうして、こんなことになったのだろうか?」
ブラフマン・ザ・ダークスターは、人の形を失い粘液の集合体となった今、己に迫りくる漆黒の魔法を見ながら思う。
神話級ギガス「イシュヴァーラ」を狩り、これまで無敵を誇ってきた自分。
おなじく神話の世界、超古代文明の遺産たる「人形」エヴァを手に入れて以降、全てが上手く回っていた。
いや、回っていたと思い込んでいた。
「ワレは誰も信用しなかった。それが母の教えであったから!」
結社内の高官子息として生まれたブラフマンであったが、彼の父は組織内部の抗争により、身内の様にしていた後輩に命を奪われた。
愛する夫を失ったブラフマンの母は嘆き苦しみ、人を信じなくなった。
そしてブラフマンにも、己の思いを押し付けた。
だから、ブラフマンは組織内で誰も信用せず、しかし有能な能力を駆使して組織内で成り上がった。
「ワレは孤独であったが、それでもサルごとき共を信用など出来ぬ!」
過去の思いが、走馬灯の様に脳内を走る。
混濁する意識の中、ブラフマンは思った。
「ワレが手に入れたのは、最高の英知と力では無かったのか!?」
全ては人類の英知な結晶たる「人形」エヴァを手に入れてからだった。
その頃、既にブラフマンは組織内のトップに成り上がっていたが老齢。
秘密結社『ラハーシャ』の実権を完全に支配してはいたが、残り少ない余生を考えて焦っていた。
「ワレが居なくなった後、世界はどうなるのだ!」
この世界に人類が「落ちて」きて千年程。
砂以外は何もない過酷な世界で生きていくのに、人類は残された技術と魔法で細々と暮らしていた。
しかし、過去の英知を持つ者は寿命を迎え、高度な技術も失われていく。
その状況を憂慮した、かつての宙船指揮官やその末裔は、人類の科学技術を保存し、それを守る秘密結社を作った。
「ワレは『ラハーシャ』を使い、人類を幸せにすることを考えていただけだったのに」
しかし、人類の中にも愚か者は生まれる。
秘密結社の支配から逃れ、墜落した宙船の残骸からプラントを起動。
そこで新たな集落をつくった。
また、稼働状態を維持していた作業用・戦闘用人型ロボット兵器「ギガス」を戦さにもちい、生きたプラントや人的資源を奪い合った。
「愚か者だけに人類を任せておけば、破滅が待っておる! 人類はもう一度、星の海に飛び出すのだ!」
愚か者たちが無駄に資源や人材を奪い合うさまに怒った結社は、影から人類を支配することを決め、プラントやギガス運用に必要な資材、技術を独占。
戦争が過激にならないよう、かつ結社の望む愚か者のいない世界を構築することを目指した。
「なのに! どうしてヒトは愚かなのだぁ。今も英知の結晶たるワレを亡ぼそうとするとはぁぁ」
そんな折、ブラフマンは「ある筋」から情報を入手した。
山岳地帯の、とある場所。
塔の様な「岩」がそびえたつ地にて、ある奴隷商人が奇妙な娘を見つけたと。
「エヴァをあのように扱うモノが、知性あるヒトである筈もない!」
誰も信用できないブラフマンは、己自ら奴隷商人の元へ訪れた。
そこでは、多くの少女達が肌も露わな姿で「展示」されており、その中でも外見が珍しく美しいエヴァは見世物として扱われ、時には「春」を売らされていた。
「おかげで『純潔』を必要とする実験が出来なかったではないかぁ!」
醜悪な者達を前にし、ブラフマンは奴隷商人の顧客らを己が持つ高度な魔法で虐殺した。
そして奴隷商人を痛めつけ、エヴァを見つけた場所を吐かせた後に瀕死の彼をエヴァに殺させた。
「エヴァと人形を作る技術でワレは若返り、更に無敵となったはずだぁ!」
エヴァを奴隷商人が見つけた場所、そこはブラフマンの予想通り。
宙船が岩盤に突き刺さっていた。
エヴァが保管されていた培養層。
そして、今だ動力が残っていた制御装置より多くの未知な技術を。
更に完全体であった神話級ギガス「イシュヴァーラ」さえ見つけた。
「人形を作る技術、それはプラントの中身を作る技術の応用であったのだぁ!」
人が生きる為に必要な物全てを生み出す機械、プラント。
神の英知とも言えるそのものも、高度な科学技術の成果。
魔力を無限に生み、モノを生成するヒトもどき、「人形」が内部にあり、それがプラントの秘密であった。
プラント内部の「人形」は人工細胞で造られていたが、エヴァはヒトの細胞でありながら「プラント」の特徴をも持つ存在。
完全なヒトでは無いものの、ヒトとの交配すら考えて設計されていた。
「エヴァとワレの子を考えた事もあったがぁぁ!」
しかし、既に寿命尽きる寸前であったブラフマンの精子には受精能力が既に無かった。
また、何故か生殖能力を持ちながらも、いくども犯されたエヴァは妊娠をしなかった。
「どうして、ワレは勝てぬ! あのような坊主にぃぃ」
死を前にしてブラフマンは「賭け」に出た。
そして賭けに勝った。
彼は自らの脳と中枢神経を、人工細胞で作った己の若い頃のコピーに移植をした。
そして膨大な魔力と若さを得、イシュヴァーラを行使して秘密結社を更に強大なものにした。
「坊主が! 坊主が
自らが支援をする貴族連合。
そこの金庫番であるアルテュール・ファルマン伯爵に謀反の意があることを知ったブラフマン。
己自身で確認すべくラウドの街へ赴き、イシュヴァーラの制御仮面を使ったD級ギガスで闘技大会に参戦した。
「くそぉ。ガキがぁ!」
後は、敗北への道へまっしぐら。
一度は敗北した神話級ギガスをも撃破して、エヴァと同型たる人形、リリを入手したものの上手く物事は進まない。
見せしめに再びラウドを襲うも、復活したトシとヴィローに敗北した。
「ワレ、ワレハぁぁ!」
自分が死から復活した事を安堵してくれた、エヴァの涙に濡れた笑顔。
そして、その後に己がヒトの形を失った後の恐怖の顔。
「ヒトを信じぬワレが悪いのかぁぁ! 愚かなヒトをどうして信じられるぅぅ!」
ブラフマンは、リリと笑いあうトシの姿を思い出した。
信じあっていた二人、そして誰も信じられなかった自分。
そこに何かの差があったのか。
目前に迫る脅威を見ながら、ブラフマンは思う。
「ヒトよ。ワレがおらぬようになって滅ぶかどうか、冥界で見守ろうぞ!」
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