第43話 炸裂! ヴィロー、最終奥義。

「おにーちゃん、怖いよぉ」

「マスター……。どうして、そんなお姿に!」


 僕の背後に座るリリとエヴァさんが怖がる。

 彼女らは、全天周モニターに大きく映る異形なギガスに眼を奪われていた。


【マスター。あれはギガスでも何でも無いです。もはや、此の世にあってはならないモノにございます】


 制御中枢たる頭部を失い、更に操縦士を失い擱座していたイシュヴァーラ。

 今は、コクピットから広がる粘液に覆われた触手に全体が覆われている。

 そして、どんどん人型から姿が離れていく。


「と、とりあえず、他の皆に避難勧告を! その後、リリ、エヴァさん。イシュヴァーラを魔力バリアーで封じてくれませんか? このまま無限増殖されたら、僕らは終わりです」


 イシュヴァーラから伸びる触手は、僕が切り飛ばした自身の首や周囲で擱座しているゾンビ・ギガスらに伸びている。


【ヒィィ。オ、オレマデ喰ラウノカァ! ヤ、ヤメロォォ!】


 悲鳴をあげるイシュヴァーラの頭部がブラフマン「だった」触手に飲み込まれ、本来の頭部位置へと戻る。

 また、バラバラになっているゾンビ・ギガスが何体も取り込まれていく。


【避難勧告は、私が先程周囲に行いました。リリ姫様、エヴァ姫様! 魔法をお願いします。拡大は私が行います】


「エヴァおねーちゃん、お願い。もうブラフマンさんはヒトじゃないの。これ以上、皆を傷つけるのを辞めさせようよぉ」


「……マスター。ぐすん。……分かったわ。マスターをお願いします、リリちゃん。トシ様、ヴィロー」


「ありがとう、エヴァさん」


 どんどん巨大化していく元イシュヴァーラの周囲に、強固なバリアーが張られる。

 それは外からの攻撃を受け止めるものではなく、内部からの拡大を阻止するもの。


 ……しかし、どうやって倒したらいいんだろうねぇ。剣で切っても効果薄いだろうし、分解光線砲でも一発で全部は吹き飛ばせないや。


 僕はヴィローの両手に高周波刀を構えさせるも、そこから先の手が無い。


「さて。後は皆が避難しきるまでと、トドメを差す方法を思いつくまでの時間稼ぎだね。皆、良いアイデアあったら言って。アカネさん、レオンさんは続いて上空支援と敵偵察をお願いします」


「了解。トシ坊、くれぐれも無茶をするんじゃないよ? リリちゃん、トシ坊を頼むね」

「トシ、トドメを慌てるんじゃねーぞ」


 僕はアカネさん達に支援と偵察を頼みながら、後部座席に振り返る。

 ブラフマンをどうやって倒すのか、そのアイデアが欲しかったから。


【私としましては、せっかく増幅者が二人もいますので、設計時から計画あるも秘匿されていました秘密魔法兵器を使ってみたいです】


「わたし、新しいヴィローには詳しくないから、おにーちゃん達に任せるの。エヴァおねーちゃんは、どうしたい? 出来たら一発で終わらせたいよね? ブラフマンさん。今も苦しみながら、世界を呪いながら大きくなっているんだもの」


「……。リリちゃん、ありがと。わたしも、マスターをこれ以上苦しませたくないわ。確実、かつ完全な方法でお願いします」


 バリアー内でぎちぎちになりながらも増殖している「元」ブラフマン。

 バリアー越しに聞こえてくる声は、もはや呪詛の叫びでしかない。


「ワレこそハ、世界ノ王。ワレコそ、全テの英知を得るモノなリ。ワレに従ワぬものハ全テ滅ビよ!」


「可哀そうなの……。どうしてあんな風になっちゃうのかなぁ」


「マスター……。マスターは、いつも周囲を怖がっていたの。そして誰も信用しなかったわ。わたしだけは、道具として信用はしてくてていたけれども……」


 ブラフマンの呪詛の声を聴き、泣く二人の少女。

 哀れにも思うが、ああなってしまえばこの世に存在させておくことは出来ない。

 そして今、ここでアレを倒せるのはヴィローだけだろう。


「じゃあ、ヴィローの策で行こう。詳細説明を頼む、ヴィロー」


【御意。この魔法兵器を使用するのには、皆様全員の協力が必要です。強化された私のパワーをもってしても一撃でマナプールが空っぽになりかねませんですし、反動も大きいと思われます。この攻撃方法は、本機体の各部に設置されています慣性制御、重力制御魔法を全て組み合わせて使うものです】


  ◆ ◇ ◆ ◇


【魔力ゲージ、200%突破! このまま術式を展開します! 各部重力制御魔法陣、同期励起。】


「魔力炉の出力コントロールは、わたしがするの! エヴァおねーちゃんは、術式の微調整をお願い」


「わ、わかったわ。術式によりマイクロ・ブラックホール生成! イベント・ホライゾン事象の地平面、現在は半径0.1フェムトメートルまで成長」


「後はバリアーがいつ砕けるか。トリガータイミングは僕が決めるよ」


 僕はヴィローを空中に浮かし、最終魔法兵器を起動した。

 主腕、副腕。

 そして各部スタビライザーを全展開し、全ての重力制御機能を集中。

 頭上に掲げた主腕の間に、微細な漆黒の球体を形成している。


 視線を下に向ければ、バリアー内部で沢山の触手がのたうち回っている。

 今にもバリアーを壊して飛び出し、周囲を全てのみ込むつもりなのだろう。


「ブラフマン。貴方がどんな一生を送って来たか。僕には分かりません。ですが、貴方が踏みにじって不幸にした人々が沢山います。悪夢はここまで! このまま終わりにしましょう」


「おにーちゃん。バリアーが割れるまで後二十秒!」


「術式展開に成功、重力結界完全に安定稼働。シュバルツシルト半径も0.2フェムトメートルで固定しました」


【マスター、いつでも射出OKです】


 ヴィローの手の中に生まれた紫電を放つ漆黒な球体。

 そこには空気が激しく吸い込まれ、球体の周囲に輝く輪膠着円盤が形成される。

 球体の上下から、激しく加熱されてプラズマ化したガス宇宙ジェットが噴き出す。


 ……ぐぅぅ。操縦士の僕にでも、こんなに負担がかかるのなら、リリやエヴァさんに掛る負担は洒落にならんな。これが、ヴィロー最大の攻撃なのか!


 バリアーにヒビが入る。

 そしてパリンという音を当ててバリアーが砕け散った。


「モット、モット! 肉ヲ、知識ヲ。名誉ヲ、富ヲ。全テ、ワレ、ブラフマンの元ニ!!」


 もはや触手で出来た「山」になったブラフマン。

 閉じ込められていたバリアを破壊し、外へと広がろうとした。

 そして、触手は最も近い最大魔力量を持つ存在。

 空中のヴィローへ向かって触手を伸ばした。


「重力井戸の底で滅べ、ブラフマン。『黒洞ブラックホール爆縮インプロージョン』!」

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