第37話 蟻の目的と生存競争

「くっ、蟻どもめ!気づいていたのか!」

ナクアは一族の蜘蛛から蟻の大群が99階層から押し寄せてくるという報告を受けて急いで防御を固めていた。


本来ナクア達蜘蛛の一族は攻めるのはあまり得意ではない。得意なのは防御戦だ。

さまざまな強力な蜘蛛の巣を張り巡らせて戦う。中には地面に穴を掘り巣を作る種類の蜘蛛もいる。

多種多様な蜘蛛の罠を張り巡らせたナクラ達蜘蛛の一族の森や洞窟はは難攻不落の城であり、狩場である。

圧倒的軍力差がある蟻との戦いで拮抗して戦い続けらていたのは蜘蛛が防御戦を行っていたからだ。

ナクアは思う。今回も蟻達は攻めきれず撤退して行くはずだと。

そして、早く地上の人間という憂いを無くし、蟻の一族との戦いに集中しなければと。



しかし、今回の蟻の侵攻は違った。

ナクアは一族を通して相手の姿や景色を見ることができる。


一族が見た敵軍の数は尋常ではなかった。


黒い波が全てを飲み尽くしてこちらに向かってきていた。


やがて蟻達は98階層に到着して、一族と98階層のモンスターと戦闘になる。

が、数の暴力にあっという間に飲み込まれて行く。


ナクアたち蜘蛛が根城にしている一角にまで蟻達は侵攻し、次々に蜘蛛が仕掛けた罠に蟻達は引っかかり命を落として行くが仲間の骸を道としてどんどんどんどんナクア達が仕掛けた罠が無効化されて行く。蜘蛛の一族のAランクモンスターも迎え撃つが敵にも強者のモンスターがおり、奮戦虚しく狩られていく。


ナクアはナラにすぐに念話を送る。


「ナラ!すぐに全軍を連れて戻ってこい!蟻達が攻めて来た!」


「族長どうした?蟻が攻めてくるのはしばしばあるだろう?あと数時間もあれば地上のこの都市も制圧できる。」


「それどころではない。凄まじい大群で蟻達が攻めて来たのだ。既に98階層の半分が蟻達に制圧されている。私と同じくらいの力を持つ蟻も数匹いる。このままでは我らは滅びる。」


「なんだと…蟻どもめ!それに族長と同じ力を者が数匹いるだと?…族長、今から戻っては我らは間に合わない。族長が地上に上がってくるしかない。」


「ナラ、ここを捨てろということか?」

念話にナラに対しての怒りの感情が混じりナラは一瞬恐怖で身体が硬直した。

しかし、ナラには考えがあった。


「その我らの住処になり得る森が地上にある。地上に上がる時に冒険者を捕えて地上の情報を集めた。本当はこの都市を落としたあと、ゆっくりと調査をしてから族長に言おうと思っていた。そこはオークロードの魔王が支配しているという。そこを奪い取り新しい住処にしよう。」


「地上にそんな場所が?」


「もうそれしか方法がない。我らが族長の元に着く頃には族長は討ち取られているだろう。そうしたら我らも蟻たちに狩られて終わりだ。」


「…わかった。ここを捨てよう。そして賭けにはなるがその森を奪い取ろう。ナラ、全軍を引いて私を迎えに来い。」


「わかった。族長も早く上がってくるんだ。」




ナクアはナラとの念話を切り、逃走のために動き出す。


一族たちに逃走経路に新たな足止めの罠を早急に作るように命令し、一族を連れて逃走を開始する。


その時、蟻から念話が届く。


「蜘蛛の女王。聞こえていますか?」


「誰だ!?」

ナクア一瞬戸惑うが誰からの念話かはわかっていた。


「私は蟻の女王 クルアです。蜘蛛の女王よ、降伏しなさい。命だけは助けてあげましょう。」


「嘘をつくな。殺す気だろう?私ならそうする。」


「いいえ、殺しません。約束しましょう。99階層の一角を与え、生存することを許します。罠を解除し投降しなさい。」


「ふふ、余程我らの罠に苦難しているようだな。奥に進めば進むほど手の込んだ罠になっているからな。ん?待てよ、なぜ99階層なのだ?」

蟻の女王は罠に苦戦し、戦士たちを思った以上に失って交渉でなんとかしようと思ったのだろう。ふん、こんな無理矢理侵攻するからだ!

それよりもなんで98階層ではなく99階層なのだ?


「ちっ、やはり思ったより賢いようだな蜘蛛の女王よ。だが、いくら貴様らの罠が強力だろうと時間の問題だぞ?大人しく投降しろ。ほんとに命を助けてやる。」


「…そうか、そういうことか!お前達は99階層の生存競争に負けたのか!だから、同じ森が広がる98階層に移り住み、我らを支配下に置き、我らを99階層に移そうとしている。我らの防衛能力を手に入れ、我らを盾にした自分達は98階層で繁栄するつもりか!」

私は蟻達が我らを脅威に感じ、滅ぼす気だと思っていた。だが、実際は違ったのだ。狙いは98階層そのものと我らの防衛能力だったのだ。


「…そうだ。99階層は1匹の強大な個がいる。お前達蜘蛛を支配下に置き、その防衛能力で99階層に蓋をして我等は98階層で戦力を整えそいつを狩る!だから投降しろ蜘蛛の女王!」


「貴様らの支配下になど入るものか!我ら蜘蛛の一族は貴様らの盾になどならぬ!」


ナクアは一族を連れて逃走を開始する。


「なっ!蜘蛛の女王、貴様、巣を捨て逃げる気か!ちっ、こうなっては…犠牲はいくら出しても構わぬ!皆のもの、蜘蛛の女王を追え!逃すな!」



こうしてナクアは98階層を後にする。


蟻たちの猛烈な追撃に会い蜘蛛の一族はどんどん数を減らして行く。殿にAランククラスの一族はを置いたが全員やられてしまった。

ナクアも度重なる追撃にボロボロだ。


数少ない一族と命からがら逃走し、ついに引き返してきたナラ達と合流した。


そして、そのままナクアとナラは地上を再度目指す。











死の迷宮の熾烈な生存競争に負け、追い出された者達はついに地上に這い出る。


新たな世界の脅威として…

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