第36話 吹けば飛んでいく命
無限に湧いてくるのではないかというくらいの蜘蛛。それも一匹一匹が一兵士より強い。
紛れているBランクモンスターの蜘蛛、10体いる圧倒的強さを持つ蜘蛛のモンスター。
そして、蜘蛛たちを統率し、立ち向かう冒険者を一睨みだけで硬直させ、いとも簡単に殺していくゴールデンパラライズスパイダーのナラ。
クーリッヒの戦士達はあっという間に駆逐されていく。
「す、スケさん!助けて!」
アリアがスモールスパイダーに襲われそうになっている前に俺が立ちはだかった。
ー数が多すぎるって!アリアもう十分だ!逃げるぞ!わぁ、こっちからも来た!ー
俺は目の前のスモールスパイダーを相手にしながらアリアに焦ったように言う。
「…わかりました。撤退しましょう。」
アリアは怪我をしている人や迷子になっている子供などをかなり多くの人を助けた。もう十分だろう。というかこれ以上は困難だ。
ギシャー!!
「みんな!逃げるんだ!ここは俺たちが食い止める!」
Bランクの蜘蛛を倒して現れたのは勇者ルーカスと勇者パーティーだった。
「あれって!ルーカス様!?勇者ルーカス様が来てくれたの!?」
「勇者だ!!」「すごい強さだぞ!」「助かった!!」
やっと来たか勇者。
「ルーカス様ですわ!もう安心ですわね!スケさん行きますわよ!」
そう言って俺に振り返ったアリアの後ろに、クレイジースパイダーがアリアに向かって鋭い脚を振り下ろそうとしていた。
ー危ない!!ー
俺は咄嗟にアリアを突き飛ばした!
ドス!
「スケ…さん、?」
ーにげ、ろー
俺はクレイジースパイダーに胸を大きく貫かれたて倒れた。
ーアリル!!ー
俺は最後に聖女に念話を送る。
「え!?ほ、ホーリーバリア!!」
最後に見たのはアリルがアリアに結界を張り、クレイジースパイダーを防ぎ、ルーカスが急いで向かっている。
そして俺はスケさんの身体との意識が途切れる。
「ふぅ、まぁ、これでアリアは大丈夫だろう。」
玉座に座っている俺に意識が戻る。
「なぜマスターはあの娘をあんなに気に入っているのですか?」
側に控えているアスタリアが俺に問う。
「なんでだと思う?」
「さぁ?弱く、なにもできない。吹けば飛んでいく小さな命。そこらにいる有象無象と一緒です。」
「そうだな。吹けば飛んでいく小さな小さな命だろう。そのくせ人を助けようと自分の命を顧みず助けに行く。」
「ではなぜ?」
「その小さな命が発している確固たる覚悟が精神が高潔さが、俺には凄まじい輝きに見えるのさ。」
「そうですか…」
アスタリアは理解できないという顔でこちらを見る。
「お前にはわからないだろうな。人間はどうしても自分を優先してしまう。ましてや自分の命なんて。人間はな賤しい生き物なんだ。それが本質だ。自分の欲のために他人を陥れ、恐怖から隠れ、誰かの不幸を喜び、醜いものを見て見ぬフリをする。だが、時々いるんだ人間らしくない人間が。」
誰にだってあるだろう。例えば学校、自分の優越感のためにいじめる子供。被害を受けたくないから見て見ぬふりをする子供や教師。
社会では自分が昇進するために他者を陥れる。裏金を渡し自分の思うように進める大人たち。自分のために堂々と嘘をつく。
これは人間の本質。俺は人間の本質は悪だと思う。人間に欲求が備わっている以上人は悪に落ちる。いや、元々悪なのだ。
しかし、稀にいるのだ人間らしくない人間が。
「それがあの娘だと?」
「ふふ。そういうものを見るのか面白いんだ。かつて、そういう穢れた人間だった者としては。」
俺は地上の様子が見れる高位のマジックアイテムで映像を映しながらニヤリと笑う。
「マスター、そろそろ蟻が総攻撃を仕掛けるようですよ。」
「ふふふ、楽しいな。」
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