第20話 新しい場所

リアムが森へ行ってから一週間が過ぎた頃、私はカルデアと共に、街のある場所へ来ていた。

以前、販売会の後に体調が良くなった私に、父から話があると言っていた件がようやく形になったのだ。

見上げる先には、『Sein』と大きく書かれた看板のある店がある。

当初は実績が確実になるまで、店舗は持たない予定だったが、販売会の業績と今後の予約状況を見た父が、先を見据えて店舗を構えようと提案して来たのだ。

それは単なる金儲けとではなく、私の熱意と体を思っての提案だった。


「ラファエル、初めてお前が計画書を持って来た時は、こんな風な業績を残せると思っていなかった。熱意は伝わっていたが、体が弱い分、形にして継続していくのは無理だと思っていたのだ」

申し訳なさそうに、ベットに座る私に声をかけてくる。

「信じてやれなくてすまない。だが、お前が形を残して置きたいという言葉に、まるでお前が消えてなくなるのではないという不安もあったのだ。だが、お前はやり切った。こうして今後の結果まで残したんだ。私はそれを支えてあげたい」

「お父様・・・・」

「だが・・・・」

父は言葉を詰まらせると、そっと私の手を取り、強く握る。

「私もお前の母親も、お前の体が心配だ」

「・・・・はい」

「そこでだな。母とリアム、カルデアも交えて話し合ったんだが、なるべくお前には邸宅で仕事をしてもらい、人を雇って店を構える事にした」

「店・・・・ですか?」

「そうだ。お前は実績を積むまではと言っていたが、こんな販売会をしていては、また寝込む羽目になる。それならば、いっそ店を構え、販売在庫数を決めて常に販売する状態にして、新作を出す時だけ店舗に足を運ぶようにするんだ。その時は来店人数を絞り、その際のみ商品の予約を受けるという形にしてはどうかと思ってな」

「なるほど・・・それなら希少価値も損なわず、体の負担も減りますね」

「そうだ。お前の信頼できる者を集め、店舗を任せるんだ。それから、店と隣接して工房も作る」

「お父様・・・そこまで甘える訳には・・・・」

「私はお前の融資者だ。最初に提案してきたように、私にしっかり取り分を払ってもらわなければならないぞ」

「・・・・はい」

「何より私はお前の父親だ。今まで無気力に生きてきたお前の初めての我儘だ。できる事はしてあげたい」

その言葉に目頭が熱くな理、私は握られた手をぎゅっと握り返す。

繰り返す人生で、幾度となく与えてくれる親の愛情に、申し訳なさと感謝が入り混じり、私は静かに涙を流した。


カランッと心地良い鈴の音を鳴らし店に入ると、そう広くない店舗内で陳列作業に追われている従業員が一斉に振り返る。

従業員は先日の販売会で働いてくれた平民達の中から4人選んだ。

それから宝石に詳しい貴族を1人・・・宝石の流通に詳しく取引などをしている貴族だ。今後、私達とも取引をする。

身分差別をしない家柄で選んだのもあり、平民と混ざって陳列を手伝っていた。

裏手に回れば、そこには小さな二階建ての工房が建てれている。

主に手仕事が得意な婦人を集め、一階を作業場に、2階は食事と休憩所にしている。

全員が集まれば15人しかいないが、それでも私は満足だった。

今まで邸宅の敷地内しかなかった私の居場所がもう一つ増えた事、仲間や友ができた事、どれもが今までに味わったことのない喜びを味合わせてくれているからだ。

1人じゃないと実感させてくれる環境が、何もかもを諦めていた心を震わせる。

リアムが不在のまま、オープンを明日に控えている事に若干不安もあるが、こんなに生きる事に意欲が持てたのは前回の人生ぶりだ。

それを思い出すと同時に、胸がちくりと痛む。

それでも、首を振り、あの時とは違うと自分に言い聞かせる。

心から信頼を寄せる仲間、慕ってくれる友、それを信じてみよう。

私は小さく痛む胸を無視する事に決め、みんなに笑顔を向けた。

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数字に囚われる 颯風 こゆき @koyuichi

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