第19話 想いの先

「ラファエル様、リアム様はどこか体の具合でも悪いんですか?」

初の販売会から時が流れ、肌寒くなって来た頃、リアムの不在が気になるのかカルデアが徐に尋ねてきた。

ここ二日ほど姿を見せないリアムを心配しての事だろう。

私は手に持っていた書類を机に置くと、小さなため息を吐いてからカルデアへと視線を向ける。

「すまない。カルデアには先に話しておくべきだった」

「何をでしょう?」

不安げに見つめてくるカルデアに、大丈夫だと言うように微笑む。

「もうすぐリアムの誕生日がある」

「それは・・・おめでたい事ですね!では、誕生会の準備とかで忙しいんでしょうか?」

「いや、知っての通りリアムは貴族ではない。だから、特別に誕生会などを開く必要がないのだ」

「では、やはりお体の具合が・・・?」

「それは心配ない。ただ、リアムの出生に関わる事だから、私からはあまり詳しくは言えないのだが、年に一度、誕生日を挟んだ一ヶ月の間は休暇を取って、毎年故郷に帰っているのだ」

「里帰り・・・ですか?」

「あぁ。だから、二日前に例年通り休暇をとって出発したのだ」

安堵とも心配とも取れるような表情を浮かべるカルデアに、どうしたのかと尋ねると、少し躊躇いながら口を開いた。


「以前、リアム様は幼い頃に両親は亡くなっていて、身寄りがないと話しておられたので・・・・・」

「そうか・・・。リアムとそんな話をする程、仲良くなったのか」

私が嬉しそうな声でカルデアにそう言うと、少し来まづそうにカルデアは返す。

「仲良くといいますか・・・私は仲良くしたいのですが、リアム様はどこか一線をしている感じがして・・・このお話も、偶然ソフィア様がいらした時に、話の流れで聞いただけで・・・・」

「・・・そうだな。そこはリアムの悪い癖だ。生きている内で、少なくてもいいから信頼できる友を作る事はかけがえのない財産になると言うのに、リアムは内に篭りがちだ」

「そうですね・・・私もそれは少し寂しく思います。でも、ラファエル様には心から信頼を向けているのは目に見えてわかります」

カルデアのその言葉に、ふふッと小さな笑みが溢れる。

「そうだな。ほんの少し、執着にも似ているような気もするが・・・・。カルデア」

「はい・・・」

「私はきっと長生きはできない」

「何をっ・・・!」

「私の体の弱さは、まだ一年も満たない付き合いをしているカルデアでも、よく知っているはずだ」

「ですが・・・・」

私はゆっくりと席を立つと、項垂れ小さな声を漏らすカルデアのそばに行き、肩を優しく叩く。


「私にとって、家族も、家族同然のリアムやカルデアもとても大切な存在だ。そして、このザインの存在も、その言葉に意味と同様にとても大切だ。リアムは・・・幼い頃、街の片隅でお腹を空かせ縮こまっていた時に私と出会い、ここへ連れてきた。

カルデアならその時のリアムの気持ちを図る事ができるであろう?」

「・・・・・はい」

「だからこそ、リアムは私に恩義を感じ、少し過剰なくらい私に依存している。私はそれが心配だ。万が一、私に何かあった場合、一緒に逝くと言いかねないからな」

私は笑みを溢しながら、冗談っぽく話をしたが、カルデアは真剣な顔で私を見つめていた。

「ふふっ。まだ大丈夫だ。そう心配するな。だが、もしもの事があった場合。誰も私の跡を追って欲しくないのだ。共に支え合い、生きて自分の人生を全うして欲しい。長く生きられない私の切なる願いだ。できれば、生きてこのザインを守って欲しい。

私が生きた証にもなるザインを・・・・言っている意味はわかるな?」

私の言葉に、カルデアは小さく頷く。

「私が全力でリアム様を支え、一緒にこのザインを守っていきます。ですが・・・ですが、そこにはラファエル様がいて欲しいです」

目を潤ませ見つめるカルデアを見ながら、私は小さなため息を吐く。

「カルデアは私よりずっと大人で、背も高く、才能溢れるいい男なのに、少々優しすぎるのと泣き虫なのはいただけないな」

「・・・・ラファエル様が私を泣かせるんです」

「ハハっ・・。そうだな、私が少々意地悪過ぎた。今日からより一層健康に気を使い、カルデアに優しくしないとな」

「・・・・約束ですよ」

「あぁ。約束だ」

はっきりとした口調で返事を返すと、カルデアも声を漏らし笑った。

ほんの少し、私の中で欲が芽生えた一瞬でもあった。

願わくば、リアムやカルデアと共に生きたいと・・・・・。

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