第18話 秘めた想い

「リアム・・・・」

薄暗い部屋の中、ほんのり光るライトに照らし出されていたのは、いつもの様に寄り添う姿のリアムだった。

「・・・・目が覚めましたか?」

「あぁ・・・どのくらいたった?」

当然のように出る質問に、リアムはニコリと微笑みながら二日ですと答えた。

「本当に情けないな・・・」

そうぼやきながら苦笑いすると、リアムは小さく首を振る。

「・・・・リアム、これは魔法か?」

「お気付きになりましたか?」

「あぁ。これは・・・・本当に心地良いな」

自身を包むひんやりとした空気に、うっとりとしながら目を閉じると、隣で小さく笑うリアムの声がした。

「落ちこぼれでも魔女の端くれです。せっかくお休み頂いて訓練させて頂いているのですからこれくらいは出来ないと・・・・」

その言葉に、私はそっと目を開け、リアムへと顔を向ける。


「リアム、自分を卑下するでない」

「ラファエル様・・・・」

「お前は私のそばにいる為に学も一緒に学んでいる。今では立派な私の片腕だ。あんなに小さかった体もすっかり大きく、私をいつでも支えてくれる。こんなに頼もしい人はいない。少し・・・妬けるくらいだ」

「妬けるだなんて・・・」

「本当に妬けたんだ。私はこの通り、今にでも消えてしまうのではないかと思うくらいか弱く、姿も儚げだ。いつの間にか並んだ背丈を見て、羨ましくなった」

私はため息を吐くと、小さく笑った。

「だが、それ以上に嬉しくもあった」

「嬉しい・・・?」

「そうだな・・・父親のような心境だろうか・・・?」

「父親・・・?」

「あぁ。あの日、私はお前と出会い迎え入れた。着る物も食事も与え、文字を教えたのも私だ。乾いた布の様に学びという水を吸収していく速さに驚きながらも、感心したものだ」

ふふッと笑みを溢しながら言葉をかけると、リアムは少し照れたように俯く。

「体の弱い私を支え、逞しくなっていく子供に優越感を覚えるほどだ。思えば、私はろくに人と向き合った事がない。いつも自分の人生に悲観し、友らしい友も作ってこなかった」

「ラファエル様・・・」

「だが、今は違う。こうして心から心配して寄り添ってくれる友がいる。それだけでも私はこの人生を生きて良かったと思えるのだ」

「・・・・・」

「そうだな・・・心配してくれると言えば、カルデアもそうだな。仕事のパートナーでもあるが、涙を流し心配してくれるカルデアはもう友と言ってもいい。それに・・・ソフィアも・・・・やっと友になれた気がする・・・」

以前もソフィアとは友にはなったが、当たり障りのない学友だった。

またソフィアに恋をしないように、あいつとの姿も見たくもなくて、友と言いながらも距離を取っていた。

だらから、今世みたいに互いの邸宅を行き来したりの交流はなかった。

ただ、幼馴染の学友・・・その立場を守った。


ぼんやりと天井を見ながら思い出していると、リアムがぽそりと私の名を呼ぶ。

「ラファエル様、一番の友は僕ですよね?」

「ふっ、なんだ?妬いているのか?」

「・・・・・」

不貞腐れたような表情で俯くリアムに、手を伸ばし髪をそっと撫でる。

ここに来てから、整ええるだけに切っていた髪はすでに肩を越し、俯いているせいで肩からサラサラと落ちてくる。

「リアム、私の一番は君だ。家族のように・・・いや、家族以上の友だと思っている」

リアムは私の言葉に笑みを浮かべながら、顔を上げる。

そして、撫でていた私の手をそっと取り、自分の頬へと当てた。

「その言葉で充分です。たとえ叶わなくても、僕はあなたのそばにいたい」

「・・・・リアム」

「わかっています。何も仰らないでください。僕は本当に幸せなのだから・・・」

そう言いながら、頬に当てていた手を自分の唇へと充てる。

「僕がそばで守ります。僕が救ってみせます」

「リアム・・・・」

「もう少し寝てください。明日、伯爵様がお話ししたいそうです」

私の言葉を遮るかのように、リアムは手にしていた私の手を毛布の中へと押しやると、立ち上がり微笑んだ。

そして、おやすみなさいと告げると、静かに部屋を出ていった。

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