爺さんと話すらしい

「若いの、お主名前は?」


 洞窟にいたのはゲームでよく見る典型的な爺さんキャラ。立派な髭を揺らしている。

 明らかに怪しい爺さんだが名前答えて大丈夫なのかこれ。


 悩んでいるとピコンとコミカルな音が鳴って、視界の上のほうに二つ文章が現れた。


【名乗る】

【聞く前に自分から名乗れよ】


 二つ目失礼すぎないか。こんなん実質一択だろ。第一印象は大事たぞ。


『これは、まぁ仮にも元魔王だしね。威厳見せてこうってことで二個目一択でしょ』


 まじかよこいつ。礼儀をしらねぇのか。俺は絶対にこんなこと言わな……


『よいしょ』


 い。


 ピコン


「人に聞く前にまず自分から名乗れよ」


 うーわ口が勝手に!


「なんじゃと」


 ほら爺さん怒ってるよ。心なしか髭も毛羽立ってるし。

 違うんだよ爺さん。言い訳にしか聞こえないだろうが、俺は操られてるんだ。


「お主の言う通り、確かに配慮が足りんかったの。わしはエレグという。改めて問おう。お主名前は?」


 優しい爺さんでよかったあぁ。

 これでガラの悪いギャングみたいな奴だったら俺殺されてたぞ確実に。なんせスライムの攻撃を2回受けたら死ぬ貧弱ボディらしいからな。


 向こうは名乗ったし、多分こっちも名乗る流れだよな。

 あの選択肢が出てないのをみるに、今回は自由に話して良さそうだ。


「そうか……。俺の名はレーゲだ」


 たった今重大なことに気づいた。

 俺コミュ障だ。ぜんっぜん言葉が出てこねぇ。


 詫びの言葉を挟もうとしたのにどう言ったらいいかわかんなくて結局言えなかったし、イタイ厨二病キャラみたいな自己紹介になってしまった。


 マシまですまん爺さん。悪気はないんだまじで!


『へぇ! 魔王くんレーゲって言うんだ、初耳。前作ではずっと魔王って呼ばれてたんだよね。これからレゲちゃんって呼ぼ』


 なぜちゃん付け? 


「レーゲか。お主なぜここにいる」


 いや、なぜと言われましてもね、お爺ちゃん。俺にもわかんねぇんだわ。


「目が覚めたら、ここにいた。何かまずいのか?」


 さっきから不穏な空気ぷんぷん流れてますけども。


「ここは、一月前から封鎖されておるはずじゃが」


 え、これまずいんじゃね?


「なぜ、封鎖されているんだ」

「理由はわからん。国王の指示じゃ」


 つまり俺は今国王の命令に逆らってるってことだな。終わってるじゃん捕まるじゃん。


『国王ってあの無能おじさんのことかな? 魔王討伐命令出しておいて中学生の小遣いみたいな金額の金しか持たせてくれなかった守銭奴国王。ぜってぇゆるさねぇからなあいつ』


 また前作の話してるよこいつ。そりゃ国のお金をそうポンポン放り投げるわけにもいかんだろう。


『しかもあいつ結婚してんのに隠し子いたしね』


 おいまたえげつない情報出てきたって。

 国王隠し子いんの? 不倫してるってこと? クズじゃねぇか。


 つーかまて。国王の隠し子も気になるけど今はそれどころじゃねぇんだわ。このままじゃ俺牢屋行きなんだけど。


「爺さん、このことは秘密にしてもらえないか」


 目覚めて数十分で冒険終わるのはいくらなんでもまずい。ゲーム会社の評判的にも、実況してるこいつの撮れ高的にもまずい。


「秘密も何も、わしは国王と通じてなどおらんよ」

「そうなのか」

「あぁ。人影を見つけて、気になったから話しかけただけじゃ。洞窟の外に見張りなんかもおらんし、さっさと出ていけば誰にもバレんよ」


 それはよかったぁ。てっきり国王の使いかと思ってたが、ただの一般村人爺さんだったみたいだ。


「わかった。ありがとうな、爺さん」


 今回はしっかり礼を言うことができました。コミュ障克服してかないとな。絶対に将来困るからな。


『へぇ。めっちゃいい爺さんだったね』 


 ほんとにそうだよ。最初お前がバカみたいな選択肢選ぶからどうなることやら心配してたんだぞ。


 爺さんが指差した出口の方へ、道なき道を駆けていく。

 ところどころに魔鉱石がキラキラと光を放っていた。


『こんなに魔鉱石あるのは封鎖されて誰も取りに来ないからなのかな。あとで取りに来たらがっぽがっぽ稼げると思ったのに残念』


 しょうがないだろ。封鎖されてるんだから。潔く諦めようぜ。別のとこにもあるんだろ?


『いっそのこと素手で叩き割ってみるか』


 潔く諦めようぜ?!


『《ワルアル》から素手で掘れますみたいな仕様になってるかもしれないしね』


 なってるわけねぇだろ。俺の腕が砕け散るわ。


『レゲちゃん魔王だしワンチャンあるんじゃない?』


 ワンチャンねぇよ。今の俺フィールドモンスターにすら勝てるか怪しいクソ雑魚だぞ?


『ていうかさぁここ封鎖されてんのに、なんであの爺さんは入ってきてたんだろうね?』


 ………確かに。






「エレグ。そっちなんか見つかった?」

「なにもないの。ここに手掛かりがあると思ったんじゃが」


洞窟の奥。一人の少女と老人が魔鉱石に照らされている。


「道中で少年とすれ違ったが」

「少年?」


少女が首を傾げる。二つに分けてゆわれた髪が一緒になってぷらぷらと揺れる。


「華奢でひ弱そうな少年じゃったが」

「じゃあ違うね。間違って入っちゃった近くの村の子なんじゃない?」


老人はあの少年を思い出す。なぜここにいるのかわかっていない様子だったのが気がかりだが、あまりにも弱すぎる体だった。自分が探しているものとは程遠い。


「そんなことよりエレグ、いつまでその姿でいるつもり?」

「割と気に入っているのじゃが、好かぬか」

「そうね。私、しわがれたものって嫌いなの」


洞窟の前に立っていた見張りの首を少女は床に転がした。































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