盛大なネタバレやめてほしい

『あいっかわらずこの会社のゲームはグラフィックが綺麗ねぇ。キャラデザも神ってるしストーリーもいいし自由度も高いし戦闘楽しいし。おいおい最高かよ』


 頭の中にうるさく声が響く。若さを感じる女の声。


 はっきりとした発音、独り言とは思えないテンション。

 やっぱり間違いなくこれはゲーム実況者だ。


『んじゃ、このゲームの説明をちょいとばかし。これは、大人気ゲーム《ワールド・エンデ》の続編です。もちろん、今作の《ワルアル》だけプレイしてもら大丈夫なように作られてます』


《ワールド・アルカディア》略して《ワルアル》なのかよ。略称ダサくねぇか。


『ちなみに私は前作もしっかりプレイしてます! 前作のプレイ配信も私のチャンネルにアーカイブ全編上がってるよ。みんな見てくれてると信じて前作知ってる前提で実況進めるから、タイトルにもあるけどネタバレ注意してね』


 こいつはどうやら動画勢ではなく配信勢らしい。

 前作知らん人が今作の実況見たらネタバレくらう可能性あるから注意喚起は大事だよな。

 俺も前作しらねぇし。どんなストーリーだったんだろ。


『で、《ワルアル》なんだけど、今作。なんと前作で主人公の勇者に殺された魔王が主人公なんです!』


 おいいきなりえげつないネタバレくらったが?


『いやぁ、あんた死んでなかったのね魔王ちゃん。あんなにめっためたのぼっこぼこにしてあげたのに〜』


 しらねぇよ嘘だろ。俺魔王なの?


『でもこれ前作未プレイ民は魔王だって知らずに始まるわけだよね。それはそれでなんか楽しそうだなあ。ま、私はプレイ済みなんでなんでも知っちゃってるから』

 

 うるせぇな俺は前作未プレイなんだよ。急に爆弾落としてくんな。未だに理解追いついてないぞ。


『やぁー、改めて見るとやっぱ魔王くん良い顔してんねぇ。最終決戦の時のビジュも良かったけど、ゴツが消えて儚さがプラスされた今作の顔良すぎない? めっちゃ好み。なんなら勇者より好み』


 めっちゃベタ褒めじゃん。俺の顔面そんないいの?


 気になって近くにある水たまりを覗き込む。暗い洞窟の中、しかも水だからあんまり細かくは映らない。


 とりあえず自分は金色の目と灰色の少し長めの髪を持っていることはわかった。

 顔の造形についてはほぼ見えんからわからん。


『あ、まってなんか首に傷ない?』


 急に声のトーンが低くすんなよどきっとするから。首の傷なんてキャラデザの一環だろ。別にどうでも、


『首一周してるね。これ前作で勇者がとどめで首飛ばした時の傷じゃね?』


 どうでも良くなかった。全然どうでも良くない。

 俺首飛ばされたのかよ。え、じゃあなんで生きてんの?


『ほんとに君どうやって生き残ったの? 確実に殺されてたじゃん』


 俺自身が一番しりてぇよ。どうやって生き残ったんだ俺は。


『まぁ、多分ストーリー進めてたらわかることでしょう。そんなことよりステータス確認しとこう』


 その声と共にヴァンと独特の音がして、俺の前に半透明の画面が表示された。


『あー、めっちゃ弱くなってるねぇ。うっわHPカスすぎん? スライムの攻撃2回受けたら死ぬじゃん』


 雑魚すぎるだろ俺。スライムとかゲームで一番弱いキャラじゃねぇのかよ。

 つーかこの画面俺に見えてて大丈夫か。絶対普通は見れない奴だろ。


『でも、魔法攻撃の倍率高いね。物理じゃなくて魔法スキルいっぱいとった方がよさげかな』


 いいところもあるみたいで良かった。確かに魔王って武器で戦うっていうより変な魔術使うイメージの方が強いもんな。


『確かに魔王って武器より魔術感あるもんね』


 めっちゃ同じこと言うやん。


『よっしゃ、確認完了〜。ストーリー進めていきましょう!』


 やっと動けるのか。


 今までの時間で俺は何度も動こうとした。でもある程度歩くと見えない壁に阻まれたように前に進めなくなる。

 範囲内なら自由に動けるが、俺はあくまで操作キャラ。声の主がが操作しないと動けないらしい。


 とんでもなく不便だ。


『最初のクエストは、【情報収集】か。魔王くん記憶喪失だからね。魔王だったこと思い出すために頑張ろうね』


 記憶は戻ってないけど魔王だったことはもう知ってる。ついでに勇者に首チョンパされたことも知ってる。


『とりあえず洞窟の出口探そう。また続いてるしこっちかな』


 いきなりぐんと押されるような感覚が背中に伝わった。進めと言うことだろう。

 前に向かって歩き出すと、再度ぐんと押される。

 これは、走れってことか。


 小走りで、道というには通りにくすぎる洞窟の通路を進む。一定間隔でスピードが速くなるのは恐らく、スタミナを消費してダッシュしているのだろう。


『あ、え嘘まって、これ魔鉱石じゃない?』


 急にぐりんと体が勝手に横を向いた。


『え、やっばめっちゃある!』


 なんかいいもん見つけたのかも知らないけどさ、もうちょっと安全運転してくんねぇかな。

 転けそうで怖いんだけど。


『魔鉱石って、それなりに高く売れるんだよね。鉱石発掘が金稼ぎの効率よくて、前作はギルドに依頼出てたら速攻やってたなぁ』


 へぇ。これ魔鉱石っていうのか。


 足元にたくさん顔を出して、ほのかに紫色の光を放つ石を見る。確かに綺麗で高そうだけど、こんなもんどうやって掘るんだ?


『あー。両手剣か両手斧持ってたらなぁ! え、ツルハシ? あんなもんに金使うくらいなら武器で掘った方が効率いいのよ。攻撃力カスで耐久力もないし。鉱石掘ることにしか特化してないゴミツールですよ。鉱石図鑑を完璧に埋めたい人しか買わないでしょ。え、私? ストーリークリア後に図鑑完全制覇のために爆買いしましたが何か?』


 両手剣か両手斧、またはツルハシで掘ることができるらしい。そしてこいつは前作を結構やり込んでたらしい。

 図鑑を埋めるのにどれほどの労力が必要なのかはわからないが、ストーリーを進めるだけなら必要のないツルハシが必要という時点で結構大変そうなのが伺える。


『ここマッピングしといてあとでもっかい来よ。えーと、ん? えなんかあそこにお爺さんいない?』


 視界が少しズレる。意識して見てみると、確かに人影がある。


「そこでなにをしとる」

「え」


 いきなり話しかけられたことと、頭に響く女の声以外が聞こえたことに驚いて思わず間抜けな声がでた。


『えー! ちょっと待って喋ったんだけど! めっちゃ声きれいじゃん。前作はノイズまみれでろくに声聞けなかったもんね。意外とかわいい声してるのねぇ魔王ちゃん』


「お前、なぜこんなところに一人でいるんじゃ」


『えー、もっと喋ってほしいなぁ。服ももっといいの買ってあげたい』


「きいておるのか」


 同時にしゃべるな聞き取れねぇよ。




























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