第8話『食料問題』

 木々から葉が消え、地面が落ち葉のカーペットになっている。秋が終わって冬になる頃だろう。しかし、生態系の崩壊によるせいか気象も変化してきている。今年の冬は一段と寒くなりそうだ。

 俺がカラパレに入ってから一ヶ月。防衛隊という研究とは程遠いところで活動していた自分にとっては未知な世界である。多少の説明をもらったが、やはり内容は難しかった。

 ……それに新しい色のコアの情報は見つかっていないらしい。でも正直、ここの研究はなかなかすごいものだと感じている。まさか、また『色』が見えるようになるとは思わなかった。特にあの博士。初めて会ったあの時は何かを感じたけど、しばらく観察しても特には何もなかった。たが一言でいうならば『天才』だ。

「はあ!?マジかよぉぉぉぉ!?」

休憩スペースでテレビ(って言ってもこのご時世なので臨時ニュースばかり)を見ていると上の階からクロの叫び声が聞こえてきた。様子を見に行きソファから立ち上がって階段を上ると、そこには博士とクロと猫神様(定着呼称)がいた。

「1週間飯抜き!?正気かよぉ!!」

「仕方ない。今寒くて野菜が育たないし、他の食料も集まらないんだ。それなら、実験で開発したフードでも食うか?」

「それはそれで嫌だな」

 俺は会話を聞いてふいっと窓の外を見た。暖かい部屋で過ごしていたせいで気づかなかったが、外は明らかに吹雪っといえるぐらい強い雪が降っていた。

 俺は異常気象に驚きながらも彼らの会話に入る。

「でもさすがに一週間何も食べないのはきついかなあ」

「おっシバもそう思うだろ?」

 サバイバル『3の法則』というものがあるが、その中の『食料』の項目では食べなければ『3週間』で人は死ぬとのことだ。たとえその3分の1の期間でも瀕死になりそうだな。

 隣にいる猫神様が口を開く。

「そういえば……最近近くで色んなとこから集まった人が町を作っているそうですよ。噂によると売店とかもあるみたいですし。小規模だけど……」

「おっそれは朗報だね」

「じゃ早速、見に行くしかないな」

 クロに続いて俺はその話に乗った。

「自分も〜」

 俺とクロと猫神様、三人は少し離れた町に向かった。





「…………」

「わお……予想以上ですねぇ……」

 まるで異世界やゲームの一番最初の町にありそうな露店が立ち並んでいる。ていうかほぼ異世界みたいなもんか。

 ピューーーーー

「かなり寒いなぁ…大雪だし」

「ネムさん!こっちに野菜とか売ってますよ!」

「本当だ、おっ、あっちにもなんかあるぜ」

 これ調子なら食には困らなさそうだ。にしてもここの人たちの団結力は思ったよりすごい。これに関しては俺も教わりたいものである。

 ………………

 …………

 人混みの中でちらっと妙な気配を感じた。

(……おい、あの二人なんか怪しくないか?)

 クロも何かに気づいたようにボソッと話しかけてくると、俺はその二人を見た。その二人は戦闘服のような青と黒のジャケットを着ており、どこかのエージェントのようだった。明らかに他の一般人とは違う、異様なオーラを感じた。

「怪しいですね…どこかの組織でしょうか」

 ちょうど猫神様が買い物から戻ってきた。

「ちょっと追ってみようぜ、この人混みならバレんだろうし」

 俺含め三人は通行人のふりしながらその二人を追うことにした。すると、そのエージェントたちの会話が聞こえる。

「……ねぇもう疲れたんやけど、そろそろ帰らへん?寒いし……」

「気持ちは分かるが、まだ偵察が終わっていない」

「隠れた研究機関やろ?こんなとこにおらへんって」

「……確かにそうだな、なら今回はここで引き返そう」

 隠れた研究機関……多分俺らの事だろう、これはますます興味が湧いた。後で博士にも伝えておこう。

 俺が彼らの尾行を続けようとしたとき、

「きゃぁぁひったくりぃぃ!!」

 うわ、タイミングが悪い。どうしたものか。

「ここは自分がやっとくんで、後は頼みます!」

 ひったくりの件は猫神様に任せて俺とクロは謎の二人を追うことにした。だが、雪で前がよく見えない。やっとの思いで人混みをかき分けても、そこにエージェントの姿はなかった。

「マジかよ……振り切られたか」

「仕方ない、逆に追いかけすぎても返り討ちにされるかもしれないし……あとは野菜だけ買って帰ろうよクロ」

 俺とクロは来た道を戻ると、どうやらひったくり事件は解決していたようだ。

「いぃ……いってぇぇ……」

「はいはいバッグ返してくださーい」

 猫神様はひったくり犯を馬乗りしていた。うわー痛そー。

「あれ、随分と早かったですね」

「すまん、追いきれなかったわ。てかお前どうやって捕まえた?見た時、そいつ結構離れてたけど」

「あー、後ろから飛び込みました」

 うわー痛そー。

 とりあえず、ひったくり犯を仮の自治体警察に預けて、あとは残りのものを買い足して研究所に戻った。これで飢饉ききん問題は解決するだろう。


 ………………1週間後。

「………………」

「………………」

「みんな言いたいことは分かるよな」

「はい…………」

 1週間経ってからまた問題が発生した。そう……

「肉が食いてえぇ!!」

 まあ、俺たちは野菜料理ばかりで肉を口にしてないわけだ。これは俺もかなりつらい。

「ネムさん……気持ちは分かりますけど、さすがに肉は贅沢し過ぎですって」

「猫神……お前も食いたいだろ?」

「あっいなめないっす……」

「確かに野菜は飽きてきました……」

「ゼータもそう思うだろ?」

 ここにいる全員が愚痴をこぼしていたなか、俺はみんなに一つ提案をした。

「牛肉とかは無理だけど、魚なら食えるかもしれないね」

「あっそういえばシバさん釣りしてたよな」

「魚!良いですね、魚なら!」

 予想通り食いついた。もちろん俺も食べたいから協力したい。

「なら少し山のほうに行って、川で釣りするのはどうだろう。さすがに山なら生き物はいるだろう」

 博士が部屋の入り口から顔を出して話に入ってきた。

「川釣りか……やってみたかったんですよね」

「ならさっそく準備するか」

「車を手配してきます!」

 こんな世の中だが、なんとか気分転換をすることができそうである。





「着いたー!」

 ここは埼玉県の長瀞にある荒川上流。川下りで有名だが都市開発で大半の自然が消えてしまったが、発展していない場所は緑が生い茂っている。

「川が綺麗だ。研究所の周りは荒地ばっかで過ごしづらかったな」

「しかも今日は雪降ってないからね。寒いけど」

 クロの言う通り、荒地から一旦離れることで息抜きができる。でも寒いのに変わりはない。

「自分はテントを張りますね」

「あっボクも手伝うよー」

 猫神様とゼータはテントを張ってくるようだ。そして……

「なるほど……BOD値は0.5mg/Lぐらいってところか…相変わらず水質は綺麗と……でもpH値が少し小さくなったか……」

 博士は川に手を入れてなんか凄いことをぶつぶつ言っているが無視しておくことにした。

「そういえば、あの博士が一緒に来るのは珍しいな」

「そうなんだ」

 クロいわく、博士が一緒に活動することはなかなかないらしい。ならば、この人を知る機会にできそうだ。

 しばらくしてキャンプの準備が整った。(正直キャンプするとは思わなかった)よし、久しぶりの釣りだ。

「釣り大会開きません?誰が一番釣れるか勝負しましょ!」

「いいねやろうぜ!」

「ボクも参加する〜」

 どうやら猫神の提案で釣り勝負をするそうだ。仕方ない。受けて立とう。

「なら俺も参加するよ。博士は?」

「いや私はいい。散歩してくる」

 皆は(やっぱりか〜)と言う顔をしながら博士を見るが、博士はその雰囲気に気づく様子はなかった。

 しばらくして、釣り餌など準備を整えたあとにそれぞれ配置に着いた。俺は自分でも語れるほどのベテラン釣り師であり、釣りやすい箇所を知っている。もちろん、手を抜くつもりはない。

 ………………

「おっ引っかかった!」

 意外にも一番最初に引いたのはゼータはだった。でも一番最初に釣れたって関係ない。最終的に多く釣れればよいからだ。

「………………」

 ゼータの釣り先を見てみた。

 …………あれ、同じところでとどまってないかこれ?もしかして……

「もしかして……ゼータくん、きみ、『地球』を釣ってないか?」

「っえ」

『地球を釣る』というのは根がかかり、つまり、釣り針が底の岩などの障害物に引っかかることだ。

「…………」

 ゼータは頬を赤らめていた。初めてたては仕方ない。でも川で根がかるのは稀なケースだな…

 その後、皆がどんどん魚を釣っていった。





 …………3時間後…………

「結果発表〜!俺、4匹。猫神、3匹。6番、3匹。そしてシバ……」

「エグいってぇ……」

「シバ、に、20匹!!」

 予想以上の釣果(釣りでの獲物の取れ具合)だった。

「シバさん才能ありすぎ、その才能分けてくださいよ〜」

「へへ、自分でもこんなに釣れると思わなかったよ」

 まあ、これは本音だ。こんな崩れた生態系でこれだけ魚がいるのは運が良い。

「これなら1週間以上生き延びられそうだぞ」

「でもせっかくキャンプしに来たんで……アユの塩焼きでもいただきましょ」

 こんな不安定な世の中だが、こうして息抜きできるなら一応充実していけそうである。

 食事を取った後、猫神様がイデクラで簡素な船を作り、川下りもしてみた。川の水は冷たいが、久しぶりの楽しさで寒さなんて感じられなかった。

「仲間かぁ……」

「シバさん、どうかしたのか?」

「いや、何でもないよ」

 俺はクロに微笑みかけた。そしてクロも俺に微笑み返した。

「今日は楽しかったなー。なんだかんだ言って気分転換できたわ」

「俺も久しぶりに息抜きできたよ」

「機会があったらまた来ましょ」

 日が暮れる前に俺たちはテントを片付け、荷物をまとめて帰ることにした。車の中で楽しい会話をしながら和気藹々わきあいあいとした。

「そういえばなんか忘れてない?」

「うーん…確かになんか引っかかるような……まぁ、気のせいですよ」

「おっそうか、まあいいや」





 …………………………

 「うん?あれ、アイツらは?」





【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!

今回は日常回(?)です。一応こんな世紀末みたいな世界でも息抜きはできるらしいですね。自分もいつかは川釣りしてみたいです笑(by 猫神くん)

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